inory/sophie
sophinory.bsky.social
inory/sophie
@sophinory.bsky.social
魔法使い審神者と長義と後藤のいる本丸を書いています
「起こしておいてすまないが、まだ朝食が出来ていないんだ。もう少し待っていてもらえるかな」そう伝えると、主はきょとんとしてこちらを見た。「手伝いますよ、もちろん」そう微笑んで力瘤をつくって見せる。随分と笑ってくれるようになったなと感慨深く思いながら、首を横に振った。
「後生だから厨を壊さないでくれ」「誰が台所クラッシャーですか!」
あれは電子レンジとの相性が悪かっただけです。とぶすくれる主を宥めながら、如何にして彼に遠慮してもらうかに頭を悩ませる長義だった。

料理下手な設定残ってたっけ…?必要なら作れるはず。山のなかで一人で何年も生きてたので。
December 21, 2025 at 3:06 PM
手を触れること無く自然と開いた封筒からは、一枚の便箋と桜の花びらが落ちてきた。「なになに。…刀はよく切れる。注意されたし。桜は美しいが、いつかは散る…ですって」「なんだいそれは。宣戦布告というわけかな」「どうだろう。馴染みの妖精からだけど。」封筒を振っても、もう何も出てこない。むむ、と少しだけ唸った主が、良いことを思い付いたように微笑んで、便箋と封筒を元のかたちに戻して封をした。「桜は毎年咲き誇ります。冬を越えて何度でも」両手で挟んで祈るように額に当ててそう呟くと、封筒ごと光る粒子になって消えていった。「心配性だなあ」どうやら何か解決したらしい。
December 21, 2025 at 3:06 PM
本丸の守りが破られているのに何を笑っているのかとジト目で睨むと、失言を悟ったか早口で捲る。「大丈夫ですよすぐに気付いて塞いでますし、他に入り込んだものもいません。ミコトはちょっと俺の魔力と相性が良すぎるので、すり抜けるようにはいれちゃったんですよ」へらりと笑うので小突いておいた。「元気そうでなにより。今日は手紙だけだから、また何か手土産でももって遊びにきやす」そういって狼男は主の手元に1通の手紙を置いて颯爽と霧の向こうに消えていった。主は大きくあくびをしてから赤い封蝋と差出人を見て訝しげな顔をした。「手紙を縛る紐はほどかなくては」彼の言葉に言霊が載る。
December 21, 2025 at 3:06 PM
「ああ、よろしく。助かったよ。知らないやつの前ではうまく話せないんだ」覗いた顔は狼のそれだった。美しい白銀の毛並みに生え揃った白い歯と牙、獰猛な面構えに反して翠の瞳だけはつぶらで愛嬌があった。「ミコトはあっちとこっちを行き来する情報屋みたいなものです。郵便も運んでくれます」
「お安いご用だぜ!そんで、次回からはこの縁を伝ってきたらいいんだな?」そういって開かれた毛むくじゃらの手には、一本のネクタイピンがあった。金の薔薇の意匠が洒落た小振りな代物だ。「そうしてくれ。また結界に穴を開けられたらたまったもんじゃない」そういって主が笑って俺はぎょっとした。
December 21, 2025 at 3:06 PM
ほらこれ、といって主はその人影に何かを差し出した。人影といってももう影ではなく、黒いマントにフードを被った、どうやら耳の生えた御仁だ。顔は暗くて見えないが、マントの下にシッポもあるらしく、お尻の辺りでごそごそぶんぶん振り回している。飼い主にあえて嬉しい犬か?可愛いな。
「山姥切長義、紹介します。実家にいた頃からの縁で数ヶ月に一度会いに来る、雪狼のミコトです。ミコト、彼は日本刀、本作長義の付喪神だ。危害は加えないと約束しよう」ミコトの手に渡った何かが弾けるように光った。主の言霊だろうか。よろしくと手を伸ばすと、ミコトは深く被ったフードを下ろした。
December 21, 2025 at 3:06 PM
「それは?」「たぶん必要になるものです」「そう」口振りから詳しく話す気がないのを察して口を閉ざした。主は隣人との交渉を得意とするがゆえに、自分の言葉における情報量を減らす癖がついているらしい。境界の向こう側に住まう隣人たちに、必要以上の対価を払わないために必要なことなのだそうだ。「やあ、いつぶりかな」主が声をかけると、人影はすごい勢いで近づいてきた。さっきまでの鈍足はどうした。五虎退の虎も吃驚な速度じゃないか。「こっち、の台詞だ、、どこにいったかと、心配、、した」「すまない。この異空間に住むことになった。あわいの近くだから道さえ繋がればまた会える」
December 21, 2025 at 3:06 PM
「おいらは、、隣人に会いに、来たはずなんだが、、気が、ついたら、、ここにいた」独特の間をもった幼い子供の声がした。声帯をもつ類いの生物ではないらしく、耳の奥に響くようにして聞こえる。人影は成人男性ほどあるが、どうやら幻影か、或いは人ではないようだ。「少し、待っていてもらえるかな」長義はそう声をかけて、人影が頷いたのを確認してから主の私室へ急いだ。といってもまだ狭い本丸で、駆け込まずとも30秒の距離を急いだので、自然襖を開ける動作が乱暴になった。「主、お客だよ」「みたいですね」ちょうど着替えを済ませた主は、机上の何かを手にしてから、俺に続いて濡れ縁に出た。
December 21, 2025 at 3:06 PM
「君は主のお客?それとも敵かな」
内番着を戦装束に瞬時に召し替えて抜刀した。靄がかって定かではないが、人型の黒い影が畑に見える。近付いてくるのに足が動いていない。山姥や霊なら斬れそうだが、主の客なら厄介だ。ようやく輪郭がはっきりしたところで、影は近づくのをやめたようだった。向こうからも俺の姿が見えて、刀があると分かったからだろうか。それとも主でないと分かったからか。動かないから敵意も攻撃もないとは到底思えず、四方に予断無く気を張る。
「もう一度問おう。お前は何者だ?何故ここにきた。主に用か?」
生唾を飲み込むのも躊躇われる沈黙がしばらく続いた。
December 21, 2025 at 3:06 PM
相変わらず子供の形をした刀剣男士を弟扱いする主だ。大倶利伽羅によく似た少年は、急に目線を合わせてきた主に警戒を隠さないまま、鯰尾に促されて口を開く。
「火車切。……しばらく、お世話になります」
見目に反して丁寧なお辞儀に、主はぱっと破顔して、その頭を撫でて距離を取られるのだった。
December 21, 2025 at 2:59 PM
ああ、と主従で頷く。まだ一般公開前のその戦場のことは、政府で働いていた2人だからこそ知り得ることだ。
「では、実装前なんですね。見たことない子だと思って」「主は実装されている刀も見分けつかないだろう」「そんなことないよ!」
いつの間に敬語抜きで軽口を叩けるような関係になったのだろう。主従の進歩に内心驚きつつ、鯰尾は続ける
「まだ調査中の戦場ですからね。彼は最初期から異去に潜っていましたが、そこで何かを視たらしくて」
「視た?」「詳しくは、本刃に」
「そういえば、名前、まだ聞いてませんでした」
お名前は?と、少し屈んで目線を合わせた審神者が覗きこむ。
December 21, 2025 at 2:59 PM
「取り敢えず、主さんに報告、ですかね?」「他の本丸の南泉についても調べないと」「今日はもう帰城かな?」南泉を囲んで話し始めた隊員たちに、隊長である南泉がしゃがんだまま頭を抱える。「お前らに猫が見えてないってことはよ」どうしたんですか?と声をかけようとした正にその時、南泉は叫んだ。「オレってただの語尾がおかしい刀だと思われてたってことかよ…にゃ!!」

南泉にしか見えない猫が憑いてるはなし
December 21, 2025 at 2:54 PM
南泉が屈んで何かを…猫を両手で抱えるような形をとる。妙な空気に南泉を囲んだ隊員たちに、南泉は見せて回るように一周した。もちろん、その手の中には何も見えない。誰もが口をつぐむ中、言い出しっぺの責任感が言葉を継いだ。「まさか、南泉さんの傍にはいつも猫がいるんです?五虎退の虎みたいに」南泉は手の中にいるのだろう猫をじっと見て、頭が痛いとでも言うようにぎゅっとしかめ面をして、それから口をモゴモゴさせたかと思うと大きくため息をついた。「そうだにゃ」隊員は顔を見合わせた。南泉を疑う顔、見えない猫に色めき立つ顔、妖の類かと緊張感を高める顔と、反応は様々だ。
December 21, 2025 at 2:54 PM
「どうした?後藤」
今日も大将の側付きで昔の職場とやらに行っていた長義と大将が帰ってきた。ほんのり眉をひそめて長義を見たからか、やわらかな顔でほほ笑んだ長義がこちらにやってくる。
「べつに。長義って過保護だなって思ってただけ」
「なんだそれは」
そう言って笑う長義はオレの頭をぐしゃりと撫でた。大将がオレによくやるヤツ。
「大将にも似てきた!」
やめろよーと手を退ければ、長義はオレではなく庭に出た大将の背中を眺めていた。とびっきり優しい顔だ。
「そう、かな?」
なんて嬉しそうなはにかみ顔!
鯰尾兄の言いたいことが分かった気がして、オレはかっと赤くなる頬を止められなかった。
December 21, 2025 at 2:49 PM
よく分かる。
オレも、唯一大将が顕現に成功した刀として、大将の懐刀として、もっと頼ってほしいって思ってる。
でもこの感情は、たぶん長義のそれとは毛色が違うんだ。大将を大事に思ってるのも、守りたいって思うのも一緒。これは忠義だ。刀剣男士としての忠義、存在意義みたいなもの。長義はそれに加えて、なんだろう、自分の総てを以て大将に応えたい、みたいな。オレももちろんそうなんだけど、その熱量が違いすぎる。
長義を見ていると眩しくて、切なくて、初期刀ってこんなにまでならなきゃいけないのか、って思ってしまう。
初期刀だからこうなったのか、こうあったから初期刀になったのか。オレは全然知らないけど。→
December 21, 2025 at 2:49 PM