佐藤裕樹 Yuki Sato
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佐藤裕樹 Yuki Sato
@satoyuki.bsky.social
制作と批評。これまでSNSに縁なし興味なし。思いつきでBluesky始めてみましたがどうなることやら。「してみてよきにつくべし」ー 世阿弥 ー
はたらけど はたらけど猶 わが生活(くらし) 楽にならざり
ぢっと手を見る

この石川啄木の歌は、インフレーション/スタグフレーションを的確に写実した歌だったのだと、デフレの世界に長らく生きてきた私はこれまで気づきませんでした。こんな歌を作りながらも、実際の啄木はろくに働きもせず方々から借金を重ねて放蕩三昧していたとんでもない奴だとよく言われますが、お金の価値が刻一刻と下がり続けてる事に自覚的であり、自分が手にしているお金は「一握の砂」の様だと考えていたのかもしれない。
December 7, 2025 at 2:00 AM
国立能楽堂にて狂言『塗附』・能『江口』を観ました。師走を舞台にする『塗附』は時節ピッタリ。一年被って色が剥げた烏帽子を年末年始までに直したいと話していると「塗りなおし〜、早漆〜。しかも上手です」という売り声が聞こえる。この様な名作狂言を観ていると、かつての日本人はユーモアの塊だったんだなと感慨深いです。金春禅竹の名作である『江口』。「世の中を厭いとふまでこそ難かたからめ仮の宿りを惜しむ君かな」と詠じた西行法師に対して、「世を厭ふ人とし聞けば仮の宿に心留むなと思ふばかりぞ」と鋭利な返歌で応じた遊女・江口の霊を描く前場と、江口が普賢菩薩となり天へ飛翔する華麗な後場。とにかく遊女・江口がカッコいい。
December 3, 2025 at 9:04 AM
テアトル新宿にて三宅唱監督『旅と日々(2025)』を見ました。ちょっと変な感想になるのですが、海辺で展開する映画序盤のショットを見て『これは傑作だ』と確信しながら、雪景色の中で展開する映画終盤を見ながら『あれ、こんなはずでは・・』と思ってしまいました。冒頭の河合優実さんと高田万作さんが演じる『海辺の叙景』のパートは、極めてスリリングで驚かされました。このような的確なショット連鎖を構成できる映画監督は、いまや世界的に稀だと思います。であるが故に『海辺の叙景』が映画内映画であり、後半の『ほんやら洞のべんさん』へ移行する展開が残念でした。何故『ほんやら洞のべんさん』も映画内映画にしなかったのだろう?
December 2, 2025 at 7:42 AM
文化村ル・シネマにてタイラー・タオルミーナ監督『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント(2024)』を見ました。先日まで上映されていたオリヴェイラ監督の映画を見に行くと必ずこの映画の予告編が上映されていた為、見てみました。映画解説にある様に『ザ・ロネッツ「Baby, I Love You」や40〜60年代を代表するポップス』が矢継ぎ早に途切れることなく使用されていましたが、いくら何でも安易に音楽(歌詞)に頼りすぎだと思います。ここ最近見た新作映画に共通する感覚なのですが、見栄え良く面白いショート動画を次々見ている気分になります。記号が現れては消えてゆく。良いシーンがあるだけに残念です。
December 1, 2025 at 6:52 AM
東京都庭園美術館 芝庭にて『庭園能』を観ました。二日間・三公演も早々に売り切れて、晩秋の恒例行事として定着してきております。来年も開催が決まった様です。庭園のイチョウ、もみじの紅葉も美しく、散策がてら気軽に能が楽しめる貴重な公演かと思います。演目は仕舞『草子洗小町』と能『通小町』という、どちらも小野小町を題材としたものでした。仕舞は数分の短いものですが、もうこれだけで大満足。友枝昭世先生は、もう凄すぎる。これだけハードルが上がった後の演能はとても大変ですが、『通小町』がとっても面白かった。シテ友枝雄人先生演じる深草少将の百夜通いの気品ある悲惨さが見事。野外の魅力は、自然の美しい光だと思います。
November 30, 2025 at 1:46 AM
先週末は、大槻能楽堂にて四天王寺を舞台とする『弱法師』と、アルカスSASEBOにて『鞍馬天狗 白頭』を観ました。『弱法師』名演でした。「元雅の名曲二選」と銘打たれた特集で、今週は大槻文藏先生『隅田川』です。『鞍馬天狗 白頭』は「子どもたちに能にふれてもらおう」という趣旨から一般公募された子供たち8名と、沙那王を演じた佐藤慶之輔くんが舞台に立ちましたが、とても立派でした。子供の度胸って凄いんだな、と感心しきりです。訪れた関西・九州では、救世観音を拝んだり、陶磁美術館で飛青磁を見たり、白井晟一の懐霄館を眺めたりしました。旅の締めくくりで訪れたのは宗像大社。無計画な旅でしたが、まぁ何とかなりました。
November 28, 2025 at 7:54 AM
彩の国さいたま芸術劇場にてピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『Sweet Mambo』を観ました。『カーネーション-NELKEN』以来8年振りの来日です。首を長くして待ってました!仏壇にあるお鐘のような楽器(どこの国の物だろうか?)を奏でつつ踊られる冒頭のデュオから、素晴らしい。微かな音色が舞台を満たした矢先に、その音は突如切断される。この様な壊れるような繊細さと、暴力的と見紛う大胆さが、すべてのシーンで表裏一体になっている。舞台装置は、窓を開け放って風を孕んだレースのカーテンの様にはためく大きな真白い布だけ。最小限である事の美しさ。ピナ・バウシュ作品の最大の魅力は、極めて反抗的である事です。
November 28, 2025 at 6:44 AM
文化村ル・シネマにてマノエル・ド・オリヴェイラ監督『アニキ・ボボ 4Kレストア版(1942)』を見ました。子供達を描いた記念すべき長編デビュー作に、その後70年以上映画を作り続けたオリヴェイラ監督の最重要の主題が散りばめられている事に驚嘆します。列車の汽笛音が聞こえると、車窓からの外の風景に繋がり、そして足を踏み外して落下する人物が映るという『アニキ・ボボ』冒頭のショット連鎖は、50年後に撮られた題材的に似ても似つかない『アブラハム渓谷』を予告しているとしか思えません。歩くたびに躓き転ぶピスタリンに、オリヴェイラが描き続けた「不安定さ」や「大地と人間の繋がりである足」の重要性が現れています。
November 20, 2025 at 11:36 AM
演劇というのは我々の人生そのものです。我々の人生があって初めて演劇が存在するのです。もっと言えば人生は存在しないのです。何があるのかというとそれは約束事です。<中略>社会のルールとは言葉使いを定義する約束事のことです。言葉であれジェスチャーであれ、それは一つの約束事の上で相手に何かを伝える手段です。ですからジェスチャーにも言葉の意味そのものにも、さほど意味なく世界が成り立っているのです。言葉というのは考えている事、頭で思考している事のポートレートであり一つのイメージです。映画は自分の目の前にあるものをとりあえず撮ります。そしてその目前にあるものとは演劇であり、演劇はすなわち人生の表現なのです。
November 15, 2025 at 1:45 PM
アテネ・フランセ文化センターにて没後10年のマノエル・ド・オリヴェイラ監督『ドウロ河』『レステロの老人』『春の劇』『過去と現在―昔の恋、今の恋』『フランシスカ』『言葉とユートピア』を、文化村ル・シネマにて『訪問、あるいは記憶、そして告白』『カニバイシュ』『絶望の日』を見ました。文化村では14(金)より『アニキ・ボボ 4K レストア版』も始まり、更に『アブラハム渓谷 完全版』も1週間限定で再上映されております。途方もなく素晴らしい事。アテネフランセの松本さんのお話ですと、これから日本未公開のオリヴェイラ作品も地道に公開してゆく計画との事です。本当に頼りになります、アテネフランセ。日本の宝ですね。
November 15, 2025 at 1:08 PM
東京国立博物館にて『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』を観ました。会場は中尊寺金色堂展で使われたスペースで、今回も展示数としては小規模ですが、鎌倉復興当時の興福寺北円堂を再現する非常に意義のある展示だったと思います。仏像の周りの「空間」が問題とされている点が素晴らしい。その「空間」への配慮が完全に欠落しているのが今話題の「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」でございます。完成イメージを見て驚きました。本館入口を塞ぐ様にステージが出来ている・・。玄関前でライブをやるのか・・。また本館・表慶館は重要文化財ですが、その前庭の池を軽々とぶっ壊してよいのか?文化財保護が博物館の仕事でしょう。
November 13, 2025 at 12:40 AM
中國新聞デジタルの記事はこちらです。
 www.chugoku-np.co.jp/articles/-/7...
November 6, 2025 at 10:37 AM
厳島神社能舞台にて『第27回 友枝昭世 厳島観月能』を観ました。厳島神社能舞台は、水上にある日本唯一の能舞台で重要文化財に指定されている唯一無二の舞台です。長き時を経て絶妙に色褪せた老松が、とても美しい。しかしこの能舞台が最も輝くのは、やはり能が舞われている瞬間だと思います。この空間こそ、まさに世界遺産ですね。本年の曲目は『花月』でした。所は花盛りである春の清水寺。行方不明となった息子を探す父と、遊芸者となった息子「花月」の邂逅が、華やかな謡と舞によって描かれます。雅楽の打楽器である鞨鼓を打ち鳴らす型が舞に取り入れられていますが、奏でられていないはずの音が、ありありと聞こえてきます。
November 6, 2025 at 10:32 AM
本日11月2日より、DVD12枚組BOXセット『友枝昭世の能 自撰12曲』(NHKエンタープライズ)の予約が開始されました。NHK収録の9曲に加えて、友枝家所蔵の映像(道成寺・定家・伯母捨!)も加わった永久保存版です。私も見た事ない演目ばかりで商品が発送される2026年3月が待ちきれません。しかも予約購入申込限定で進呈される特典が凄いんです。昭世先生が自ら語られた『能 私の来た道 友枝昭世』という一冊(非売品)が付きます。これがとてつもなく貴重な品なのです。古典芸能に限らず、言葉・身体による芸術に興味のある方は必見です。ご予約は→ tomoeda-kai.com/orderform_to...
November 2, 2025 at 12:38 PM
国立能楽堂にて友枝會を観ました。友枝真也先生の能『羽衣』、野村萬先生の狂言『佐渡狐』、そして友枝昭世先生の能『鉢木』という大充実の内容でした。昨年に引き続きNHKの収録が入っていましたので、近日中に『鉢木』の放映があると思います。必見でございますのでお見逃しなく。能の演目の中では台詞が多く演劇的な為にあまり能らしくないともいわれる『鉢木』ですが、今日の『鉢木』は別物でした。シテの昭世先生は勿論の事、ワキの宝生欣哉先生・ツレの友枝雄人先生との息の合ったやり取りが絶妙で、ただただ素晴らしい。二時間近い大曲を舞われた85歳の友枝昭世先生、明後日厳島神社能舞台にて『花月』を舞われます。凄すぎる・・。
November 2, 2025 at 11:57 AM
東京国際映画祭にてケリー・ライカート監督『マスターマインド(2025)』を見ました。現代最重要映画監督の一人、ケリー・ライカート監督の最新作です。もう一度見たいです。前作『ショーイング・アップ(2022)』も素晴らしい作品だったにも関わらず数回の上映だけでしたので、2本合わせて映画館での公開をお願いします。色鮮やかに紅葉した木々が美しい1970年代の秋を舞台に、実話を題材とした絵画泥棒の顛末が小気味よく簡潔に語られてゆく。所作を無駄なく捉えた見事なワンショットワンシーンは、往年の喜劇映画の様に面白い、と同時になぜかベッケルの『現金に手を出すな』を想起しました。主人公の名前はJB・・・、まさか。
October 31, 2025 at 6:08 AM
死の前日の映像が、と宣伝されていたのでさすがに最後だから感傷的になるかなと思いきや、全く杞憂でした。最後のサルトル=荘子を読む姿を見て、これまで通り「あんた本当にヤバいな」と思ったと同時に、不思議と「勝手にしやがれ」のラストに似ていると思いました。
October 28, 2025 at 1:14 PM
皇居にて『秋季雅楽演奏会』、喜多能楽堂にて『錦木』『班女』を観ました。くじ運は全くないはずが抽選に運よく当選した『秋季雅楽演奏会』ですが、今回22年ぶりに平安時代に完成した日本古来の歌舞である国風歌舞が披露され、その中で最も起源の古い『久米舞』を観ることができました。能の基本であるシカケ・ヒラキやその他の型に似た型が『久米舞』やその後の演奏された舞楽にあり、こうして連綿と歴史は繋がっているのかと感銘を受けました。左右に配された巨大な釣太鼓が、積み上げられた巨大アンプに見えて仕方なかった。そして本日『錦木』『班女』を観て、古来の舞を演劇に取り入れ昇華した世阿弥の偉大さ、センスに改めて脱帽です。
October 26, 2025 at 1:23 PM
責任を問ふならば権力の前に頬かむりで通してしまった者にもやはり責任はある筈だ。芸術家は政治の実際には迂遠であると言っても、芸術家の直感でこの戦いの裏面に喰い入り、敢然とした態度のとれなかった事は恥じていいことだ。戦争画を描いた描かなかったという様な簡単な問題ではない。「臭い物には蓋」式の態度はこれから絶対に排さなければならぬ。自らの肉を衝き骨を削る態度をもって、ここ幾年間かの日本の美術界の動きを研究し究明して、全ての事情を明確にすることが必要だ。誤謬の上に築かれたものはそれが如何に正しく見えようとも偽物だ。その為には一切を正直に語ろうではないか。それのできる機構を作ろうではないか
ー松本俊介ー
October 23, 2025 at 6:40 AM
東京国立近代美術館にて『記録をひらく 記憶をつむぐ』展を見ました。色々と話題になった展覧会ですが、不明瞭な特集名が象徴する様に中途半端な印象を受けました。予算がなかったとの事ですが、言葉とイメージの関係性が問題となる戦争プロパガンダを扱う展覧会の性質上、図録は必要だし、欲しかったです。やはり戦争画中心の展覧会のメインビジュアルが、一点だけ展示されていた戦争画を書かなかった松本竣介の《並木道》なのはおかしいですよね。また本展の中心といえる藤田嗣治の戦争画だけが展示されて、多数所蔵している戦争画ではない藤田嗣治の絵画が展示されなかった事に違和感を覚えました。並列して見ることから、思考が始まる。
October 23, 2025 at 6:11 AM
大田区立龍子記念館にて『川端龍子生誕140年特別展ー川合玉堂と川端龍子ー』を観ました。展示内容は玉堂美術館全面協力のもと玉堂の作品が中心でしたが、もちろん龍子の作品もあります。今まさに「誕生140周年・川端龍子展」が全国を巡回中ですが、なぜか関東圏は巡回せず・・・。しかしこの展覧会も非常に見応えがありました。最晩年に玉堂・龍子、そして横山大観を加えた巨匠三人による展覧会「雪・月・花」「松・竹・梅」に出品した各作品は三者三様の世界が窺えて素晴らしい。そして忘れてはいけないのは、「趣味は建築」と話す龍子自らが設計した旧宅とアトリエです。開館日の10時、11時、14時より公開しています。最高ですよ。
October 19, 2025 at 12:28 PM
文化村ル・シネマにてミゲル・ゴメス監督『グランドツアー(2024)』を見ました。監督が脚本を執筆する前にアジア各地を旅しながら撮影したドキュメント映像(カラー)と、その後に書かれた脚本をもとにスタジオで撮影されたフィクション映像(モノクロ)が混在する意欲的な作品でした。先鋭的な映画監督を多数輩出するポルトガル出身ですから「現代性とは何か」を真摯に受け止めている点は素晴らしい。しかし「ちょっとどうにかならないか?」という点もありました。特にモリーが初めて登場する大切なシーンに創意工夫を感じられず残念でした。カラオケで「マイウェイ」を熱唱し感極まるおじさんのドキュメント映像に拮抗しきれていません。
October 19, 2025 at 7:45 AM
セルリアンタワー能楽堂にて『当麻』を観ました。今年五月の『実盛』と合わせて「他力本願への祈り」と銘打たれたシリーズです。ちなみに去年は「鬼 さまざま」でした。来年はどうなりますか、楽しみです。『当麻』は、東京でも昨年公開された『当麻曼荼羅』を一晩で織り上げたとされる中将姫と、阿弥陀如来・観音菩薩の化身との邂逅を描いた世阿弥作の二時間を超える名曲です。特に喜多流では扱いが重く滅多に上演されません。シテ方友枝雄人先生は今回が初の『当麻』でしたが、重々しさを感じさせず、一心不乱な中将姫の舞が軽やかで素晴らしかった。「唱ふれば 仏もわれもなかりけり 南無阿弥陀仏の声ばかり すずしき道は 頼もしや」
October 15, 2025 at 3:12 AM
東京芸術劇場にてイザベル・ユペール主演『Mary Said What She Said』を観ました。演出・舞台美術・照明は2025年7月31日に逝去されたロバート・ウィルソン。「演劇とは何か?」「何が演劇を演劇たらしめるのか?」という思考を観る者に託す、極めて密度の高い舞台でした。私はベケットの「わたしじゃない」を想起しましたが、それはベケット以後に何がまだ可能なのかを問う、その真摯さゆえだと思います。これこそが現代演劇。悲劇のスコットランド女王メアリー・スチュアートの死への道行。イザベル・ユペールが体現する孤独。メアリーの言葉が、荒れ狂う嵐の如く錯乱して舞台空間をひとり歩きする。言葉の身体。
October 11, 2025 at 10:39 AM
12/20よりゴダール監督『新ドイツ零年(1991)』がロッセリーニ監督『ドイツ零年(1948)』と合わせて映画館で公開されるとの事。今いちばん再見したい映画なので、大変嬉しいです。遺作『シナリオ』において『はなればなれに』と共に最も印象深く引用されておりました。  www.zaziefilms.com/zero/
October 10, 2025 at 7:51 AM