雑文: https://sizu.me/kimitsuka
すごい作品だった。第一に、サスペンスとして抜群に面白い。彼女の足取りを追うストーリーは驚きと悲しさに満ちていて、長編ながら一気に読ませられる。当時の社会とその背後にある精神性、そこに生きる人々が生き生きと描かれており、今読んでも真に迫った印象を受ける。作品全体に横たわる主題については時代を超えた普遍性があり、作家の視線の鋭さを如実に示している。16年後には世界金融危機があり、また情報・虚飾・孤独といった視点は極めて現代的でもある。自己責任論に反論する弁護士は、今の世界を見て落胆するだろうか。幸せになりたかっただけなのに。その言葉はとても重い。
すごい作品だった。第一に、サスペンスとして抜群に面白い。彼女の足取りを追うストーリーは驚きと悲しさに満ちていて、長編ながら一気に読ませられる。当時の社会とその背後にある精神性、そこに生きる人々が生き生きと描かれており、今読んでも真に迫った印象を受ける。作品全体に横たわる主題については時代を超えた普遍性があり、作家の視線の鋭さを如実に示している。16年後には世界金融危機があり、また情報・虚飾・孤独といった視点は極めて現代的でもある。自己責任論に反論する弁護士は、今の世界を見て落胆するだろうか。幸せになりたかっただけなのに。その言葉はとても重い。
マンションで起きる怪異現象を端緒として、過去に遡りながら怪談が連鎖する、重厚なドキュメンタリーホラー。ディティールの作り込みが凄まじい。関係する人物の家族構成・来歴から始まり、土地の成り立ち、戦争やバブルも挟む歴史的な経緯が仔細に書き込まれており、現実感のある怖さの描写に繋がっている。民俗学的な視点を中心に作家の幅広い知識と綿密な下調べを感じる。奇を衒ったギミックや目新しい小道具は出てこないけれど、「穢れ」を主題として語られる世界観は、当たり前に怪異が存在するかもしれないという恐ろしいものだった。
マンションで起きる怪異現象を端緒として、過去に遡りながら怪談が連鎖する、重厚なドキュメンタリーホラー。ディティールの作り込みが凄まじい。関係する人物の家族構成・来歴から始まり、土地の成り立ち、戦争やバブルも挟む歴史的な経緯が仔細に書き込まれており、現実感のある怖さの描写に繋がっている。民俗学的な視点を中心に作家の幅広い知識と綿密な下調べを感じる。奇を衒ったギミックや目新しい小道具は出てこないけれど、「穢れ」を主題として語られる世界観は、当たり前に怪異が存在するかもしれないという恐ろしいものだった。
シンプルに面白かった。37年前の作品にしてはとかそんな留保が必要なしに、今でも余裕で魅力的な設定のパズラーとして成立している。火山の噴火に脅かされる陸の孤島、極限状態のフーダニット。読者への挑戦状がついているタイプのいかにもなパズラーでありながら、青春とサバイバルと少しのオカルティズムとが含有されたストーリーは印象的なものだった。なお自分の推理は清々しいまでに外れた。
シンプルに面白かった。37年前の作品にしてはとかそんな留保が必要なしに、今でも余裕で魅力的な設定のパズラーとして成立している。火山の噴火に脅かされる陸の孤島、極限状態のフーダニット。読者への挑戦状がついているタイプのいかにもなパズラーでありながら、青春とサバイバルと少しのオカルティズムとが含有されたストーリーは印象的なものだった。なお自分の推理は清々しいまでに外れた。
モダンホラーの先駆ともされる作品。今から見ると怪異自体の描写はわりと素朴だと思うものの、37年前に書かれたという古臭さは全く感じない。生と死の境界でストーリーを構築しつつ、視点となる家族の背景設定と内面描写が特徴的で興味深い。怪異に目を向けると気付かれてしまうという描写はありがちだけれど、目を背けていれば救われるのかみたいな。語られていない部分もあって、あまり話を広げすぎず、家族のストーリーとして閉じているのが印象的だった。
モダンホラーの先駆ともされる作品。今から見ると怪異自体の描写はわりと素朴だと思うものの、37年前に書かれたという古臭さは全く感じない。生と死の境界でストーリーを構築しつつ、視点となる家族の背景設定と内面描写が特徴的で興味深い。怪異に目を向けると気付かれてしまうという描写はありがちだけれど、目を背けていれば救われるのかみたいな。語られていない部分もあって、あまり話を広げすぎず、家族のストーリーとして閉じているのが印象的だった。
ガリレオってドラマも見たことないんよね。わりとちゃんと社会性があるタイプの大学教員だった。人間味があって、コーヒーはインスタントで、煙草は吸わない。ドラマティックで綺麗に構成された倒叙ミステリ。あと、今更何を言ってるんだお前はって感じだけれど文章がめちゃくちゃうまい。端的な表現と計算された描写の選択でリズムが良く、作品の臨場感に繋がっている。
ガリレオってドラマも見たことないんよね。わりとちゃんと社会性があるタイプの大学教員だった。人間味があって、コーヒーはインスタントで、煙草は吸わない。ドラマティックで綺麗に構成された倒叙ミステリ。あと、今更何を言ってるんだお前はって感じだけれど文章がめちゃくちゃうまい。端的な表現と計算された描写の選択でリズムが良く、作品の臨場感に繋がっている。
www.reddit.com/r/kindle/com...
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似たタイトルの作品を読んだのでこの機会に。思考計算機との対話と月の独立を主軸とする古典的名著。今読むとそれなりに読みにくい部分もあって、迂遠で直訳的な文章・訳文に相応に苦戦した。テーマも今から見ると当然目新しいところはないわけだけれど、細部を積み重ねるその描き方がなかなか凄まじい。月側の視点で描写される独立への闘争には彼らの策略と思索、大衆の蒙昧と混乱が胃もたれするほど詰まっている。ちょっと現実すぎる。結末は本当に印象的で心に残るものだった。何かを得るために何かを犠牲にする判断は常に難しい、それでもそれを決めなければならない時がある。
似たタイトルの作品を読んだのでこの機会に。思考計算機との対話と月の独立を主軸とする古典的名著。今読むとそれなりに読みにくい部分もあって、迂遠で直訳的な文章・訳文に相応に苦戦した。テーマも今から見ると当然目新しいところはないわけだけれど、細部を積み重ねるその描き方がなかなか凄まじい。月側の視点で描写される独立への闘争には彼らの策略と思索、大衆の蒙昧と混乱が胃もたれするほど詰まっている。ちょっと現実すぎる。結末は本当に印象的で心に残るものだった。何かを得るために何かを犠牲にする判断は常に難しい、それでもそれを決めなければならない時がある。
ままならない彼女たちの短編集。ポップで、リズムが良くて、そしてなんだか泣きそうになった。
ままならない彼女たちの短編集。ポップで、リズムが良くて、そしてなんだか泣きそうになった。
火星と地球の運命の周辺で描かれるSF人間ドラマ。こんなんも書かれるんだなあという印象を持った。なんか素直にまとまった話。NHKが関わっているからか。氏の長編に唐突に差し込まれがちなしょうもない下ネタがなかったのもNHKだからか。いや、下ネタはどうでもいいんだけれど、SFとしてなり群像劇としてなり小川哲作品としてなり、もう少し何か引っかかるものを期待してしまう。
火星と地球の運命の周辺で描かれるSF人間ドラマ。こんなんも書かれるんだなあという印象を持った。なんか素直にまとまった話。NHKが関わっているからか。氏の長編に唐突に差し込まれがちなしょうもない下ネタがなかったのもNHKだからか。いや、下ネタはどうでもいいんだけれど、SFとしてなり群像劇としてなり小川哲作品としてなり、もう少し何か引っかかるものを期待してしまう。
閉塞と因習と戦いのホラーミステリ。何らかの仕掛けがそこにあったとして、新規性と意外性があるかという点はもちろんあるのだけれど、その仕掛けが世界観とストーリーに嵌っているかという軸もあるんだなぁと強く感じる作品だった。序章がたまらない。
閉塞と因習と戦いのホラーミステリ。何らかの仕掛けがそこにあったとして、新規性と意外性があるかという点はもちろんあるのだけれど、その仕掛けが世界観とストーリーに嵌っているかという軸もあるんだなぁと強く感じる作品だった。序章がたまらない。
こんな話だったわ。嫌な話、重い話。変にアレンジせずに2時間半にまとまっていたと思う。そして描写に容赦がない。概ね良い映像化なんじゃないかなぁ。タゴサクはわりかしイメージ通りだったけど、それに加えて周りを固める役者がいちいち良かった。
こんな話だったわ。嫌な話、重い話。変にアレンジせずに2時間半にまとまっていたと思う。そして描写に容赦がない。概ね良い映像化なんじゃないかなぁ。タゴサクはわりかしイメージ通りだったけど、それに加えて周りを固める役者がいちいち良かった。
世界を統べる原理の書き込みに圧倒され、壮大な構想に震える。特に作品の半分を埋めているものはほとんどサイエンスそのもので、それは強烈な読書体験だった。科学的な営みに付随するものは輝かしい結果だけでなく、そこには刺激的な探求と膨大な労力の積み重ねとしての過程があるわけで、前者だけでなく後者をフィクションとして緻密に描くというアイデア、それをここまでの質で実現する仕事が簡単でないことはわかる。あまりにハードな理論パートの一方で、ストーリー全体としては決して難解ではなく、生きること、知ること、選ぶこと、普遍的なテーマを含む魅力的な物語として同時に成立している。
世界を統べる原理の書き込みに圧倒され、壮大な構想に震える。特に作品の半分を埋めているものはほとんどサイエンスそのもので、それは強烈な読書体験だった。科学的な営みに付随するものは輝かしい結果だけでなく、そこには刺激的な探求と膨大な労力の積み重ねとしての過程があるわけで、前者だけでなく後者をフィクションとして緻密に描くというアイデア、それをここまでの質で実現する仕事が簡単でないことはわかる。あまりにハードな理論パートの一方で、ストーリー全体としては決して難解ではなく、生きること、知ること、選ぶこと、普遍的なテーマを含む魅力的な物語として同時に成立している。