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好きな文章、気になる文章をここに集めてます。(Threads:https://www.threads.com/@wanwan65537 では本にまつわる話を投稿中)
【文章収集】

「彼らは、一様にあるとき、ある瞬間、心を決し、家を棄て、故郷を棄て、職を棄て、ナイル川を西にむかってよぎったのである。」

(山形孝夫『砂漠の修道院』平凡社ライブラリー、1998、p.146)
December 5, 2025 at 8:01 PM
【文章収集】

「プロムナアド

季節は手袋をはめかへ
舗道を埋める花びらの
薄れ日の
午後三時
白と黒とのスクリイン
瞳は雲に蔽はれて
約束もない日がくれる」

(左川ちか「プロムナアド」、『左川ちか詩集』川崎賢子編、岩波文庫、2023、所収、p.89)
December 4, 2025 at 10:31 PM
【文章収集】

「二週間後、あるいはひと月後に、僕がどこにいるか、だれが知りましょう?」

(アルチュール・ランボー『ランボー全集』鈴村和成訳、みすず書房、2011、p.383)
December 3, 2025 at 10:02 PM
【文章収集】

「おお、私は、今、こんなところにいる!
 その臨場感にこそ旅の本質はあるのである。
 観光や、出会いや、食事や、知識の増進など、それらはすべてオプションだ。もちろん、オプションをどれだけ付加しようと本人の勝手であって、本人が楽しければそれでいいのだけれども、残念なのは、多くの旅人が、この〈今自分はここにいる〉の醍醐味を、とくに意識しないまま帰ってしまうことである。」

(宮田珠己『だいたい四国八十八ヶ所』本の雑誌社、2011、pp.22-23)
December 2, 2025 at 9:34 PM
【文章収集】

「ただそこにいるという喜びを味わうためだけに入り組んだ小道を歩きまわり」

(畑浩一郎「訳者解説」より、ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿(上)』畑浩一郎訳、岩波文庫、2023、p.489)
December 1, 2025 at 8:53 PM
【文章収集】

「自分の過去にあるおにぎりの影をたどると、誰しも大抵ちょっとした一代記の材料になるのではないかと思う。」

(幸田文「おにぎり抄」、『幸田文 台所帖』青木玉編、平凡社、2009、所収、p.35)
November 30, 2025 at 9:34 PM
【文章収集】

「十一月三十日。霊南阪上に広闊なる閑地あり。霜枯れしたる草の間に菫らしき草あるを見、採り来て庭に植ゆ。」

* 大正7年11月30日の日記

(永井荷風『断腸亭日乗(一)』岩波文庫、2024、p.132)
November 29, 2025 at 7:26 PM
【文章収集】

「『荒涼館』を読みながら、われわれがやるべきことは、ただ気を楽にして、あとは背筋に任せておくことだ。本を読むとき精神を使うのはいうまでもないが、芸術の喜びが生まれる場所は、肩甲骨のあいだにある。背筋のあのささやかな戦慄こそ、人類が純粋芸術や純粋な科学を進化させながら手にしえた最高の感動の形であることに、間違いはない。背筋とその疼きを崇拝しようではないか。われわれが脊椎動物であることを誇りにしようではないか。」
 
(ウラジーミル・ナボコフ『ヨーロッパ文学講義』野島秀勝訳、TBSブリタニカ、1982、p.86)
November 28, 2025 at 8:28 PM
【文章収集】

「世界がまだ若く、五世紀ほどもまえのころには、人生の出来事は、いまよりももっとくっきりとしたかたちをみせていた。悲しみと喜びのあいだの、幸と不幸のあいだのへだたりは、わたしたちの場合よりも大きかったようだ。すべて、ひとの体験には、喜び悲しむ子供の心にいまなおうかがえる、あの直接性、絶対性が、まだ失われてはいなかった。」

(ホイジンガ『中世の秋(上)』堀越孝一訳、中公文庫、1976、p.11)
November 27, 2025 at 10:05 PM
【文章収集】

「そういうわけで、去年の秋に黄昏の散歩を始めてみると」

(テジュ・コール『オープン・シティ』新潮社クレスト・ブックス、2017、p.7)
November 26, 2025 at 9:38 PM
【文章収集】

「ホルタで船を降りる航海者は、かならず、埠頭の壁に絵、あるいは名前か日付を書き残すことになっている。一〇〇メートルほどの長さの壁に、帆船の絵やめいめいの国や船の旗の色どりや数字や短い文章などがごちゃごちゃと書いてある。ひとつだけ、ここに書き写してみよう。ブリスベインのナット。風の吹くまま、ぼくは旅をする。」

(アントニオ・タブッキ『島とクジラと女をめぐる断片(新版)』須賀敦子訳、2009、青土社、pp.58-59)
November 25, 2025 at 9:24 PM
【文章収集】

「眠りは平坦で浅かった。あなたは、眠りの視野の縁飾りが朱色に染まり始めたように感じ、目が覚めた。窓にかけられたカーテンをちょっとめくって外を見ると、地平線が一直線に朱色に染まり、樹木のシルエットが並んでいた。」

(多和田葉子『容疑者の夜行列車』青土社、2002、p.76)
November 24, 2025 at 10:31 PM
【文章収集】
 
「図書館学校で好きだったのは、デューイ十進分類法だ。アメリカ人の司書メルヴィル・デューイによって一九七六年に創案され、主題に基づいて、図書館の書架にある本を十クラスに分類するものだ。すべてに数字が割り振られていて、誰でも、どの図書館ででも、どんな本でも見つけることができる。たとえばママは自分の六四八(家事)に誇りを持っている。パパは自分では認めないけれど、本当は七八五(室内楽)が好き。」
 
(ジャネット・スケスリン・チャールズ『あの図書館の彼女たち』髙山祥子 訳、東京創元社、2022、p.6)
November 24, 2025 at 12:04 AM
【文章収集】

「いつから匂いの記録をつけるようになったのだろう。彼女には、はっきりとは思いだせなかった。ただ確かなのは、そのころの子供なら誰もがしていたように鉛筆でせっせと埋められたページには、その日に嗅いだものの箇条書きや描写がすでに現れていたことだった。」

(関口涼子『匂いに呼ばれて』講談社、2025、p.5)
November 22, 2025 at 9:37 PM
【文章収集】

「「彼は人生を無為にすごした」とか、「今日はなにもしなかった」などというではないか。とんでもないいいぐさだ。あなたは生きてきたではないか。それこそが、あなたの仕事の基本であるばかりか、もっとも輝かしい仕事なのに。」

(モンテーニュ「経験について」、『モンテーニュ エセー抄』宮下志朗編訳、みすず書房、2003、所収、pp.209-210)
November 21, 2025 at 9:07 PM
【文章収集】

「水の流ほど見ているものに言い知れぬ空想の喜びを与えるものはない。薄く曇った風のない秋の日の夕暮近くは、ここのみならず何処(いずこ)の河、いずこの流れも見るには最もよき時であろう。」

(永井荷風「水のながれ」、『荷風随筆集(上)』野口冨士男編、岩波文庫、1986、所収、p.286 )
November 20, 2025 at 10:23 PM
【文章収集】

「それで今年は誕生日をやってみることにした。」

(津村記久子「誕生日の一日」、『うそコンシェルジュ』新潮社、2024、所収、p.53)
November 19, 2025 at 9:09 PM
【文章収集】

「旅でふしぎに印象に残る時間は、都市の広場に面したカフェテラスで何もしないで行き交う人たちを眺めてすごした朝だとか、海岸線を陽が暮れるまでただ歩きつづけた一日とか、要するに何かに有効に「使われた」時間ではなく、ただ「生きられた」時間です。」
 
(見田宗介『社会学入門』岩波新書、2006、p.32)
November 18, 2025 at 9:09 PM
【文章収集】

ストーナーは英文学の講義でシェイクスピアの73番目のソネットの朗読を聞く。それが意味するところが何であるかは言葉にできないが、そこに何かを感じる――

「ウィリアム・ストーナーは、自分がしばしのあいだ息を詰めていたことに気づいた。そうっと息を吐き、肺から空気が出ていくにつれて服が少しずつ皮膚の上で動くのを意識する。」

(ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』東江一紀 訳、作品社、2014、p.15)
November 18, 2025 at 12:05 AM
【文章収集】

「ラレレ、ラレレ、ラレレ、  あるいは生は美しいのかもしれない、無に等しいほどに 」

「細い通りをたどること 」

「水たまりのほとりではどの猫も違った跳ね方をする 」

「小さな停車駅のまなざし ユルゲン・フックスにおける記憶の方眼紙 」

ヘルタ・ミュラー『いつもおなじ雪といつもおなじおじさん――ヘルタ・ミュラー エッセイ集』新本史斉訳、三修社、2025年、の目次からいくつか引用した。
November 16, 2025 at 8:31 PM
【文章収集】

「ようやくあとがきを書くところに漕ぎつけた。まったく途中で死なないでよかったという感じである。」

(新関公子「あとがき」より、『東京美術学校物語――国粋と国際のはざまに揺れて』岩波新書、2025、p.245)
November 15, 2025 at 9:10 PM
【文章収集】

「そこへはむかし同様鉄道で行きたいと思っていた。飛行機で、あるいは車で行けばやはり町は相貌を変えてしまう。電車で、それだけの時間をかけて、町のおもかげを胸のうちで反芻しながら近づいて行くのでなければならない。」 

(山田稔『別れの手続き――山田稔散文選』(大人の本棚)、みすず書房、2011、p.118)
November 14, 2025 at 9:01 PM
【文章収集】

「本を読み終えたら文章を抜粋する。その部分をカメラで撮っておくこともあれば、一文一文、メモアプリに書き写すこともある。書き写す場合、ゆうに一、二時間はかかるけれど、作業を終えるたびにひとり味わう達成感は格別だ。そうやって抜粋に力を入れていると、ふと、自分は文章を収集するために本を読んでいるのだろうか、と思うこともある。 できることなら、良い文章を一文たりとも逃したくない。」

(ファン・ボルム『毎日読みます』牧野美加訳、集英社、2025、p.93)
November 13, 2025 at 9:37 PM
【文章収集】

「私たちの関係で彼が好きだったのは、と彼は言っていた、私たちが決して他の人々や私たち共通の知人について話さないことだった。彼に言わせれば、私たちは駅のプラットホームで出会う旅行者のように話し合っていた。」

* 彼とはサルトルのこと。

(フランソワーズ・サガン『私自身のための優しい回想』朝吹三吉 訳、新潮文庫、1995、p.153)
November 10, 2025 at 7:43 PM
【文章収集】

「仕事か遊びか、労働か余暇かといった二者択一が問題なのではなく、同じ行為がどういうきっかけで愉しみになり、どういうきっかけで労苦になるのか、その展開軸を見さだめることが必要である。」

(鷲田清一『思考のエシックス——反・方法主義論』ナカニシヤ出版、2007、p.280)
November 9, 2025 at 7:28 PM