一次創作(名義:ささがき)で字を書いたり絵を描いたりしています。
カクヨム→
https://kakuyomu.jp/users/sasagaki51/works
個人サイト→
https://colourless-moon.whitesnow.jp/
Skeb: https://skeb.jp/@sasagaki51
寝具のこすれる音がして、背中が藁の詰まった布団に沈み込む。
シンは重たい瞼を開けようとするが、視界はほんのわずか。
その隙間から見上げたアロウの顔は、ひどく悲しそうな目をしていた。
あたたかい布団に包まれて、意識は急速に夢の世界へと吸い込まれていく。
(どうしてそんな目をしてるの…)
シンの問いは、暗くなる視界とともに消えていった。
寝具のこすれる音がして、背中が藁の詰まった布団に沈み込む。
シンは重たい瞼を開けようとするが、視界はほんのわずか。
その隙間から見上げたアロウの顔は、ひどく悲しそうな目をしていた。
あたたかい布団に包まれて、意識は急速に夢の世界へと吸い込まれていく。
(どうしてそんな目をしてるの…)
シンの問いは、暗くなる視界とともに消えていった。
「勉強する時間だっていくらでもあるさ。急がなくていい」
「……アロウがずっと教えて」
「え」
「ずっと……年取るまで……」
「……シン。」
アロウの肩に、シンの頭が沈む。夢とうつつのはざまにいるのだろう、返事はなかった。
「俺くらいの奴はいくらでもいる。お前はこれから、もっといろいろな人に出会うんだ。」
ふわふわと揺れる感覚。シンは軽々と運ばれていく。
(やだ。いやだ)
「きっと明日も明後日も、その先もずっと楽しいことがある」
アロウの声は優しかった。
「勉強する時間だっていくらでもあるさ。急がなくていい」
「……アロウがずっと教えて」
「え」
「ずっと……年取るまで……」
「……シン。」
アロウの肩に、シンの頭が沈む。夢とうつつのはざまにいるのだろう、返事はなかった。
「俺くらいの奴はいくらでもいる。お前はこれから、もっといろいろな人に出会うんだ。」
ふわふわと揺れる感覚。シンは軽々と運ばれていく。
(やだ。いやだ)
「きっと明日も明後日も、その先もずっと楽しいことがある」
アロウの声は優しかった。
「だって、仕事もお買い物も、べんきょう、も…全部…ぜんぶ楽しい…終わんないで…」
切実な声がアロウの耳を打つ。
シンにとって、これまでの毎日は一日中痛みに耐えるだけのような、代り映えのない日々だった。新しいものばかりに触れる日々は、極彩色で夢のようだった。
アロウはシンの横にかがみこむと、そっと手を取る。
「それならきっと、明日だって楽しい。」
シンの指の先についたチョークの粉を、優しくふき取っていく。
「お前はこれから、年取ってよぼよぼになるまで今みたいな生活をずっと送るんだ。飽きるくらい。」
「だって、仕事もお買い物も、べんきょう、も…全部…ぜんぶ楽しい…終わんないで…」
切実な声がアロウの耳を打つ。
シンにとって、これまでの毎日は一日中痛みに耐えるだけのような、代り映えのない日々だった。新しいものばかりに触れる日々は、極彩色で夢のようだった。
アロウはシンの横にかがみこむと、そっと手を取る。
「それならきっと、明日だって楽しい。」
シンの指の先についたチョークの粉を、優しくふき取っていく。
「お前はこれから、年取ってよぼよぼになるまで今みたいな生活をずっと送るんだ。飽きるくらい。」
「今日は、最近頑張ってたからご褒美。ほんとはダメだけど。内緒な」
アロウは微笑んで、シンの頬にそっと手を伸ばす。
少しひんやりとした手が、するりと撫でていった。
柑橘のすうっとする匂いと、甘い花の香りのする手だった。
「ちゃんと肩までつかって温まれよ」
そう言ってアロウは風呂場を出ていった。
「なにそれずるい…」
アロウがふいに見せるやわらかな笑顔と、予想もつかないご褒美。
あとには入る前から湯あたりしたかのような、真っ赤な顔のシンが残されたのだった。
「今日は、最近頑張ってたからご褒美。ほんとはダメだけど。内緒な」
アロウは微笑んで、シンの頬にそっと手を伸ばす。
少しひんやりとした手が、するりと撫でていった。
柑橘のすうっとする匂いと、甘い花の香りのする手だった。
「ちゃんと肩までつかって温まれよ」
そう言ってアロウは風呂場を出ていった。
「なにそれずるい…」
アロウがふいに見せるやわらかな笑顔と、予想もつかないご褒美。
あとには入る前から湯あたりしたかのような、真っ赤な顔のシンが残されたのだった。
苦い顔のアロウはため息をつくと、腰のポーチを開く。
湯桶を持ってくると湯舟に浮かべ、布巾を敷いて取り出したものを載せた。
「ほら、これは食べていいぞ」
それは本物のミカンだった。
シンがこの前初めて食べた、ちょっとすっぱくて、甘い果実。
「えっ…!?た、たべていいの?」
「いいよ」
あっさりと言われてシンがうろたえる。
「お、お行儀悪い…とか言うんじゃないの?何かの罠??」
「まあお行儀は悪いけどな」
「じゃあダメなんでしょ?」
上目遣いで見上げられて、アロウは笑う。
「普段ちゃんとお行儀よくしてたら、たまにはちょっと羽目を外す日があっていい」
苦い顔のアロウはため息をつくと、腰のポーチを開く。
湯桶を持ってくると湯舟に浮かべ、布巾を敷いて取り出したものを載せた。
「ほら、これは食べていいぞ」
それは本物のミカンだった。
シンがこの前初めて食べた、ちょっとすっぱくて、甘い果実。
「えっ…!?た、たべていいの?」
「いいよ」
あっさりと言われてシンがうろたえる。
「お、お行儀悪い…とか言うんじゃないの?何かの罠??」
「まあお行儀は悪いけどな」
「じゃあダメなんでしょ?」
上目遣いで見上げられて、アロウは笑う。
「普段ちゃんとお行儀よくしてたら、たまにはちょっと羽目を外す日があっていい」