お話しする内容は考えているところですが、磯崎さんについては最近いろいろな場で話しているので『磯崎新論』には重点を置かず、むしろ、そこに至るまでの「評伝」的仕事の回顧的自己分析をベンヤミンについての仕事に向けて接続する、といった内容です。

昨日はいろいろ忙しなくて写真を撮り忘れたのだけど、会場は山崎製パン総合クリエイションセンターという施設で、授賞式はそこの飯島藤十郎社主記念LLCホール。ホールの後ろには荘厳なパイプオルガンが設置工事中で足場が組まれており（！）、いたるところで養生がしてあるなど、まさにコンストラクション・サイトの趣きなのが、いかにも磯崎さん的で面白かった。
第１回ということもあり、選考のプロセスからこうした授賞式に至るまで、いろいろ新しいし、驚くことも多く、賞を頂戴する気楽な身には楽しかった。

「みんな落ちるところまで落ちると、却って気分がさっぱりしたような錯覚を抱いてしまう」というのはよくわかる。安吾の『堕落論』にも大きく共感するところはあるのだが。文化や芸術に対する反権威主義的なうっすらとした大衆的反感というものはつねに存在していて、文化・芸術の内側からの「さっぱりしたい」という清算願望がそれに結びつくと、徹底したヴァンダリズムに至りかねない。

ショーレムが伝えている、ベンヤミンに連れてゆかれたパリのクリュニー美術館で眼にしたという、ユダヤ教の祈禱文が書かれた小麦の粒２つを思い起こさせる。それに似て、極度に小さな字でびっしりと書き込まれたベンヤミン自身のノートもまた。

後者は英文学の素養に基づく安定した語り口。作家の自伝をテーマにしていることと「携帯遺産」という発想は、ベンヤミンの『幼年時代』を連想させる。作中にも『パサージュ論』やヴァールブルクの『ムネモシュネ・アトラス』に言及した、「亡命・避難の精神」をめぐる叙述がある。アウトサイダー・アート展で主人公が出会う、蛇羽宇奥作《図語録（すごろく）》という宇宙模型的作品がオブジェとして非常に魅力的。これもまた一種の筺。大英博物館所蔵のPrayer nutが参照されているように、いずれも「胡桃の中の世界」。