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3L夢嗜む根っこは腐な社会人オタク。猫とおにぎりと汁物が好き。作品載せから始めようと思う。iconは知人から
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(7/7)
#フロマティ
タグつけ忘れてました🙇‍♀️
May 10, 2025 at 3:27 PM
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今回久しぶりにワンドロ参加したのでこっちにも載せていく…！
散歩の中でリボンを結び直すお話(4/7)
45分オーバーでの完成ですね…お題は上部タイトル部分に入れてます🙇‍♀️
May 10, 2025 at 3:26 PM
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救助された📍と救助に来た🧯のお話
#フロマティ
May 10, 2025 at 5:33 AM
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(8/8)
フロマティ成分は薄めです
May 7, 2025 at 4:31 PM
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明日の昼に載せるつもりがうっかり今載せちったのでこちらにも。
はしゃぐ🧯🎀に巻き込まれる📍のお話(4/8)
#フロマティ
May 7, 2025 at 4:30 PM
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9/9
April 19, 2025 at 6:00 PM
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6/9
April 19, 2025 at 5:59 PM
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久しぶりの投稿になっちった…
ポメラ届いてうっきうきで操作確認がてらで書いた🦊👑+♖sss
ゲームをする二人とそれを見守る従者のお話(3/9)
April 19, 2025 at 5:59 PM
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続き(5/5)
　フロリアンの返しにマティアスは小さく頷いた。 　周囲にも知られていることではなるが、フロリアンは結構な子供舌だ。ビュッフェスタイルの外食とかに行けば取ってくるものは子供が好きそうな物で構成されるし、苦いもの、辛すぎるものはあまり好まない。コーヒー自体は嫌いではないとフロリアン本人は話すが、必ずと言って良いほどミルクと砂糖を多めに入れているのをマティアスは知っている。普段、キスする時は起きてすぐが常であって、こういう状況下になるのは恋人になって初めてだったりする。好きな相手にとって苦手な味がするキスを贈るのは、気にし過ぎだとしても、マティアスにとっては気になるところだった。 「だから今日の挨拶はちょっと……」 　マティアスが俯いて断りの言葉を呟く、が、言葉は言い終わる前に止まる。掴まれた顎先。くい、と優しく、だが抵抗は許されないくらいの力加減で顔を持ち上げられる。 　え、とマティアスが思った時には、フロリアンの顔はすぐ目の前にあって、あ、と思った時には、柔く熱い唇がマティアスの唇に重なっていた。 　急なことで何の抵抗も身構えもできずにいると、フロリアンの舌がぬちりと口内に入り込む。上顎、歯列、舌とマティアスの口内全てを貪るように、味わうように水音を小さく立てながら舐っていく。口内からの甘い刺激に頭がくらりと回る。恋人が遠慮なしに与えてくる朝には似合わない強い刺激に、マティアスは手に持っているマグカップを落とさないようにするのが精一杯だった。 　どれほどの時間が経ったのかは分からない。そろそろマグカップを持つ指先が震えてきたところで、やっとフロリアンの唇はマティアスから離れてくれた。 「……コーヒー溢すところだっただろ」 「あはは、ごめんごめん」 　荒くなった呼吸を整えながら、眉を寄せて不満を言うとフロリアンは悪びれた様子を見せず笑って軽い謝罪をする。その様子にマティアスは呆れをこめた溜息をついて、寄せていた眉を下げてフロリアンを見た。 「……苦かっただろ？」 　マティアスの言葉に、フロリアンはパチリと瞬きをして、ふわりと嬉しそうな、幸せそうに笑った。 「全然。君とのキスで丁度いいくらいかな」 　そう言って、またマティアスの唇にキスをしてくる。だが、今度は軽く触れるだけですぐに離れていった。 「さ、僕もコーヒー飲もうかな」 　くるりとマティアスに背中を向けて、いそいそと、軽いステップを踏みながらフロリアンはキッチンへと向かう。その背中を呆けた顔で見送ってから、マティアスは体を丸めて立てていた両膝に顔を埋めた。手に持っていたマグカップの中身はすっかり冷めてしまったのに、指先も両頬も何だか熱い。 「キザみたいなこと言っちゃって……」 　牛乳切らしているの黙っててやる。 　そんな意味のない嫌がらせを思いつきながら、マティアスは朝焼け色に染まった頬を両膝の中へ隠した。
January 18, 2025 at 2:36 PM
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Xで載せたワンライのお話
お題とかかった時間はALTの冒頭に入れました！
※現パロ、苦い味が苦手な🧯設定が入っていますのでご注意※

苦いのが苦手な🧯とそんな🧯き気を使う📍のお話(3/5)
お題「色」「苦い」 時間60min +15min +++ 　珍しいことがあるものだ。 　微睡んだ意識が覚醒した際、マティアスはまず最初にそう思った。少しだけ肌寒い部屋に乱れてまだ温もりが籠っているシーツと布団。そして、隣で未だ夢の中にいる恋人の寝顔をまじまじと見つめる。 　いつもであれば恋人である彼の方が早起きで、自分の方がまだ夢の中にいるはずなのに。珍しい朝もあるものだ。 「……何か飲もう」 　独り言を呟いてから、ゆっくりとマティアスはベッドから降りた。自分のことを抱きしめたままでいる腕から抜け出すのに苦労はしたが、恋人を起こすことなく抜け出すことはできた。 　鈍く痛む腰に顔を顰めつつ部屋から出て、朝焼けに染まるリビングを素通りし、キッチンへと入る。水でも飲もうかとその時は思っていたが、ふと視界に入った袋を見て、気持ちが変わる。 　まだ眠気は残っているし、コーヒーでも飲もう。そう思い、マティアスは水切りかごから自分用のマグカップを取り出した。 　手を伸ばしてケトルの中身を見る。想定通り空っぽだったので水を入れて、スイッチを入れる。数分もせずにお湯が沸くなんて良い時代になったものだと、そんなことをぼんやり考えながら袋のチャックをぺり、と外す。水切りかごからスプーンを取り出して、袋からいつもの量の粉をマグカップに入れれば、丁度良いタイミングでケトルのお湯が沸く音が鳴る。そのままケトルのお湯をマグカップの中へと注げば、ふわりとした湯気と一緒に、コーヒーの深い苦味の香りがマティアスの鼻を擽ってきた。 　嫌いではない、寧ろ好ましい香りについ頬が緩む。スプーンである程度かき混ぜると、香りがキッチンにも広がっていく。使ったスプーンをシンクの中へと入れて、マグカップを手に持つ。そして、無意識のまま、 マティアスは冷蔵庫の前に来てドアをパカりと開けた。幾らか使い残しの食材がある程度で、空きの多い冷蔵庫の中。あ、牛乳切らしているのか、と思ったところでマティアスはハッとした。 「あ……」 　つい牛乳の有無を確認してしまった。私自身必要はないのに。 　冷蔵庫を閉める。キッチンを出て、リビングに置かれたソファーの定位置に座る。冷たい床が気になって、両足もソファーの上に上げて、少し熱いくらいのマグカップを両手で持ち暖を取ってから、一口コーヒーを啜った。 　コーヒーの苦味が口の中に広がり、喉を通って体がじんわりと温かくなる。思わず、ほう、と口から息を吐き出して、マティアスはぼんやりと目の前に広がるベランダの窓を眺めた。 　朝日が差し込み少しだけ眩しいが、朝焼けの朱色が混じった空はとても綺麗だ。朝焼けの空に、白いマグカップの中を漂う深いダークブラウンのコーヒーの色って何か良いな。なんて、柄にもないようなことを考えてしまう。一口、二口。ちびちびとコーヒーを啜り、朝焼けの空を眺める。自分のコーヒーを飲み込む音くらいしかしない静かな時間が過ぎていく。 　半分ほどマグカップからコーヒーが消えたくらいだろうか。するりと、音もなく後ろから温い両腕がマティアスの肩に巻きついてきた。ぎゅ、と巻きついた両腕がマティアスの肩を抱きしめる。マティアスは最初こそ目を少し丸くはしたが、特に声を上げることはなかった。淡々とマグカップを傾けてコーヒーを一口啜る。暫し沈黙が流れた後、マティアスの背後から小さな驚きの声が上がった。 「マティアス驚かないの？」 「こういうことをするのは君くらいだろ、フロリアン」 　そう呟いて、マティアスはくるりと顔を後ろに向け る。ベッドの中で寝顔を晒していた恋人が、いつも見る笑顔でマティアスのことを見下ろしていた。 「おはよう、マティアス」 　朝の挨拶を口にして、フロリアンの顔が降りて来る。 　あ、キスするんだな。マティアスにはすぐに分かった。 　いつもの挨拶だからと慣れたように目を瞑る。だが、ハッとして、マティアスはすぐに目を開ける。そして鼻の先まで来ていたフロリアンの唇に、自分の指を押し当てた。 　フロリアンが目を丸くして、マティアスをじっと見つめる。驚きと、ちょっとだけ戸惑った顔。そんなフロリアンの目には、少し困ったような顔をするマティアスが映っている。少しフロリアンの顔が離れたところで唇に押し当てていた指を外すと、フロリアンは眉を下げて寂しげな声を上げた。 「マティアス……おはようのチューは？」 　しょんぼりと寂しげな恋人の顔。ぺしょりと下がった耳と尻尾が幻覚として見えてしまうほどに落ち込んでいる。その様子にマティアスの良心が少しだけ痛む。だが―――― 「フロリアン。君、苦いの嫌いだろう？」 「へ？　あ、うん。まあ、そうだけど……？」 　マティアスからの問いかけにフロリアンは疑問形を混ぜながらも答えた。マティアスの言葉の意味が分からない様子で、きょとんとした顔のまま首を傾げている。マティアスは困った顔のまま、言葉を続ける。 「えっと、私いまコーヒー飲んでるから……ブラックで」 「え？　あ……あー！」 　マティアスの続けた言葉に、フロリアンはやっと理解した様子を見せた。 「今、苦いからってことか」 「うん……」
January 18, 2025 at 2:35 PM
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続き(6/6)
タグ入れ忘れてました🙇‍♀️
#フロマティ
もう一人。 「マティアス、大丈夫だった？」 　チェルニンさんにパチリとアイドルのようなウインクをかましている、フロリアン・ブランドだった。 　彼の姿を視認して、私は唇を噛み締めた。 　ブランドさん、またブランドさんだ。私が修学旅行中に声をかけられなかった最もたる原因。二年生になって同じクラスになった彼は、いつもチェルニンさんの隣を陣取っていた。修学旅行中もそう。ずっとチェルニンさんの隣から離れる瞬間が見つけられなかったからだ。 　ちゃっかりと、チェルニンさんの腰に手を回しているブランドさんの姿に、じわじわと怒りが湧いて来る。ただの友人ではと思おうとしていたが、やはり彼も私も同じだった。チェルニンさんを狙っている！ 　腰に手を回されているというのに、チェルニンさんは嫌がりもしない。安堵の表情をブランドさんなんかに向けていて、嫉妬まで沸き上がって来る。 　ずるい。ずるい。ずるい！ 　腹の底で渦巻く暗い感情を抑えられなくて、ブランドさんをギッと睨む。 　すると、私の視線に気づいたのだろうか。ブランドさんがふ、と私の方に顔を向けて来た。 「っ‼︎」 　彼と目が合った瞬間、ゾ、と背筋が凍った。 　否、背筋だけではない。体全体が凍りついた。口元はチェルニンさんに向けていたのと同じように口角を上げて笑っている。そう、笑っている。笑っているのだが―――― 　こちらを向いている目は、私の心臓をギチギチに鷲掴んで締め上げるものだった。 　怖い。怖い。怖い！ 　冷たいけど、これはそう。まるで、まるで、目の前に業火が迫っている、そんな恐ろしいものだった。 「ひ、ひいぃぃ‼︎」 　情けない悲鳴が口から漏れる。いつの間にか隣にいた鹿も一緒になって、私は転がるように、業火に燃やされない場所まで逃げ出していた。 　その間、意中の人のことなど考える余裕なんてなかった。 「意気地がないなあ」 「何か言ったか？」 「いいや！　それより、大丈夫だった？」 「君がいないせいで酷い目にあった」 「ごめんね、一人にしちゃって。もう離れたりしないから」 「引っ付くな、暑苦しい」 「一人にしないでって言ってたじゃないか」 「そういう言い方をした覚えも、引っ付けと言った覚えもないけど」 「ねえ、ここだとまた襲われちゃうかもしれないからさ、お土産見に行こうよ」 「良いけど……手は繋がないからな」 「僕としては、見せ付けたいところだけどね」 「何か言った？」 「いいや。残念だなって言っただけ」
January 13, 2025 at 5:46 PM
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Xで書いたワンライのお話
お題とかかった時間はALTの冒頭に入れました🙇‍♀️
📍に告白したかったけどダメだったお話(3/6)
※現パロだし学パロ
※モブ視点でモブ→📍要素あり
(ちゃんと🧯📍ではある)
お題「公園」「動物」 時間　60+5min ＊＊＊ 　高校二年の秋。この修学旅行の最中で、私は告白しようと思っている。 　意中の人は、一年の時から偶然にも――否、運命的に同じクラスで、時々隣の席になったこともある人だ。好きになったきっかけは一年生の時、授業中に落としてしまったペンを、隣の席だったその人が拾ってくれたことである。優しくしてもらったから、なんて単純な理由で惚れたわけではない。 「良いペンを使っているね」 　拾ったペンをはい、と渡す時に、その人は私の使っているペンの良さをすぐに見抜いた。祖父から貰ってずっと愛用しているペン。周りからは古臭いと笑われるのに、その人だけは馬鹿にせず、柔らかく微笑んでそう言ってくれたのだ。 　その笑顔に、私は目を奪われて、最終的には心すらその人に奪われてしまった。 　それ以降、その人と話したことはない。否、挨拶くらいはするがその程度だ。顔を見ると心臓が痛いほど高鳴って、話すどころじゃなくなるのだから。 　でも、今日はそれを乗り越えてみせる。なんてったって、今日は修学旅行。意中の人に告白する一大イベントを起こすには、もってこいの行事だ。 　だから、私は告白する。意中の人――マティアス・チェルニンに。 　 　なんて修学旅行初日に誓ったは良いが、彼を呼び止めて時間を貰うタイミングは中々訪れなかった。移動中も隣ではなかったし、中休憩時も彼の隣は埋まっていて、声すらかけれない。一泊目のホテルでも、彼を呼び止めることはできなかった。 　今日は二日目。告白の時間を貰うタイミングは今日しかない。僅かに焦りを感じながらも、彼の姿を遠目で見守りながらタイミングを狙い続けた。 　そして今、そのチャンスは訪れた！ 　古臭い、あまり興味の湧かない寺院での自由時間。此処の広場には無数の鹿がいて、生徒は皆、観光客に混じって売られているエサを買っては鹿に与えて楽しんでいる。 　その中に、彼――チェルニンさんは一人で広場にいた。手には鹿用のエサを大事そうに握っていて、近づいてお辞儀してきた鹿にエサを与えていた。 　その様子に、私はつい見惚れてしまった。大きな鹿が寄って来た時、驚いてへっぴり腰になりながらもエサを鹿の口元に持って行く姿の可愛らしさ。鹿がエサを食べた時の安堵が混じった笑顔の愛らしさ！　男性であるはずなのにどこか中性的な顔立ちと細身の身体であるせいか、おとぎ話のお姫様のように見えてしまう。 　きっと、こんなことを友人たちに話したら眼科に言った方が良い、なんて言われるに違いない。勿論、言うつもりはない。同性を好きになってしまったなんて、誰にも言えないし、私だって最初は思い悩んでしまったのだから。でも、それでも好きという気持ちは抑えられないし、彼の魅力は私だけが知っていれば良いと、本気で思っている。だって、彼と私は運命で結ばれているはずなのだから。 　そんなことを思いながら彼を見つめていると、チェルニンさんの周りにはわらわらと鹿が集まって来た。彼は近づいて来た鹿に驚きながらも、一匹一匹に優しい顔を向けてエサを与えて行く。 　そんな彼の優しさを察してなのか、鹿はどんどん集まって来る。どんどん。どんどん。どんどん――――いや、多過ぎないか？ 　あれ、と思った時には遅過ぎて、気がつけば、チェルニンさんは多くの鹿に囲まれてしまっていた。 　人集りならぬ鹿集りの中心で、彼は空っぽなのだろうエサの袋を握り締め、ふるふると震えて周囲を見渡している。微かに涙目に見えなくもない表情に、胸が 何故か高鳴ってしまう。少し、ほんの少しだけ腹の底がじわりと熱くなった自分がいて、気づいたら瞬間慌てて頭を振って正気を取り戻す。 　どうしよう。周りを見ると、さっきまであんなにいたはずの観光客と同級生たちの姿は何処にもない。嘘だろう？　彼を助けられる人がいないなんて―――― 　否、私がいるじゃないか！ 　これは寧ろチャンス。彼に意識してもらえるだろうし、それをきっかけに時間を貰う約束を取り付けられるかもしれない。いや、できるはずだ！ 　意を決して、きゅ、と顔を引き締める。息を吸い込んで、片手を伸ばして一歩踏み出そうと足を振り上げた。 「チェル」 「マティアスッ‼︎」 　私が言い切る前に、少し離れた場所から彼の名前を誰かが先に呼んでしまった。 　真横を何かが素早く通り過ぎる。え、と私が固まっている間に、その何かは勢い良く足を踏み出したと思えば、ぴょいと高く飛び上がって目の前の鹿集りを易々と飛び越えて行く。 　え、え、何？　誰？　何？　急な何かの登場に頭が追いつかなくて混乱する。側から見れば、きっと今の私の姿はとても情けないことだろうと、頭の隅で思ってしまう。オロオロとしていると、鹿集りの中心で大きな声がした。 「ほら、あっちだよー！」 　その声と同時に、ぽーんと中心から遠くへと何かが投げ飛ばされるのが目に映る。それが遠くの地面へと落ちた瞬間、地響きな鳴りそうな勢いで、目の前にいた鹿たちはそこに向かって大移動を始めた。 　ドドド、と音を立てて鹿たちがいなくなり、必然的に鹿集りもなくなっていく。鹿たちがいなくなると、残ったのは私と、中心にいたチェルニンさん。そして
January 13, 2025 at 5:45 PM
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続き(6/6)
「え？　あ、ごめんごめん」 　フロリアンの顔がいつもの、二人きりの時の笑顔に戻る。それで良い。マティアスは満足して、フロリアンから目を逸らし、またタバコを一回吸った。 「まあ、今日はお酒の代わりみたいなものだよ。しばらくダメってドクターストップかけられちゃったからね」 　脳裏で流れる、今日の昼間のやり取りに、マティアスは顔を顰める。医師であるエミリー・ダイアーから声をかけられたかと思えば、毎晩のように飲んでいること、更に飲んでいる量が尋常ではないということを誰かから密告されたという話だった。バーメイドであるデミ・バーボン、あと知らないうちにルイからも話を聞いて確認までしたと言う。その結果、今後の試合にも影響があるかもしれないからと、一時的な禁酒を言い渡されたのだ。 　デミ・バーボンからもダイアーさんに言われちゃあね、とお酒を渡してはもらえず、何なら自室に保管していたお酒もルイがエミリー・ダイアーに渡してしまって、今のマティアスに残っているのはあまり好きではないタバコだけ。消去法で考えて、今こうしてタバコを吸って現実逃避をしていたのだった。 　やっぱりルイは寝る前に燃やしてやろう。心の内で誓い、マティアスはまたタバコに口を付ける。そんなマティアスの隣で、フロリアンは何やら考え込んだかと思えば、にやりと笑って口を開いた。 「マティアス。要は口寂しくて吸ってる、てこと？」 　フロリアンの問いにマティアスはタバコを口から外し、首を傾げて考える。口寂しい、とは違うような気がする。だが、酒は口で飲むものであり、飲めないから消去法としてタバコを吸っている、ということは口寂しい、とも言えるのだろうか。 「そうとも、言える？」 　疑問系を混ぜて答えると、フロリアンの笑みが深く なった。ぐ、と顔をマティアスの方に寄せてくる。 「じゃあさ、これならどう？」 　そう言うと同時に、フロリアンがマティアスの指先からタバコを奪い取ってきた。 　あ、まだ吸えるのに。奪われたタバコを目で追うが、フロリアンの空いている手がマティアスの頬に触れてきて、それを邪魔する。 　視界がフロリアンの顔で埋まった途端、薄く開けてしまっていた唇が彼の唇で塞がれた。 　驚くまもなく、開けていた隙間から彼の熱い舌がぬるりと入り込んでくる。慌てて押し返そうとするも、彼の方が一枚上手で押そうとしたマティアスの舌を絡め取ってきた。水音が、耳の奥で反響する。絡み付いては口の中を嬲ってくるフロリアンの舌は、やけに甘い。音と舌からじんと伝わってくる甘さに頭がくらりと回る。 　息が少し苦しくなってきたところで、フロリアンの舌は名残惜しげに出て行った。くちりと音を立てて、熱い吐息と一緒に唇が離れる。 　静かな裏口前で、二人分の乱れた呼吸の音が小さく響く。ある程度整ったところで、マティアスがじろりとフロリアンを睨むと、フロリアンは意外そうな、楽しげな笑顔で首を傾げた。 「不満顔だね」 「急にされたら驚くだろ」 「嫌だった？」 　しゅん、とフロリアンが少し寂しげな顔をする。本当に、その顔は好きじゃない。マティアスは更に眉を寄せて、ふい、とフロリアンから目を逸らす。 「お前のキスは、甘過ぎるから」 「甘いの嫌いだっけ？」 「嫌い、じゃないけど……」 　ぽつぽつと小さな声で返せば、フロリアンはなぜか嬉しそうに顔を綻ばせた。 「ね、もう一回しない？」 「したければ、すればいいだろう？」 「じゃあ、遠慮なく」 　言葉と一緒に、また唇が重なる。 　フロリアンに奪われたタバコはいつの間にか地面の上に転がっていて、火はとうに消えていた。
January 12, 2025 at 4:21 PM
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Xのワンドロで書いたフロマティss
※📍が喫煙しているので注意
お題とかかった時間はALTの冒頭に入れました
こっそりタバコを吸う📍とそれを見ている🧯のお話(3/6)
#フロマティ
お題「咥える」「甘い」 時間1時間+20分 ＊＊＊ 「あ、やっぱりここにいた」 　かけられた声に、マティアスはゆっくりと目を向けた。 　サバイバーが住まう屋敷の裏口前。ドア前の段差に腰掛けていたマティアスの視線の先には、苦笑を浮かべたフロリアンが立っていた。試合の時とは違うラフな格好。そういえば、彼は一日試合がない日だったと、朝に確認した試合表を思い出す。 　そろそろ誰もが寝静まるくらいの時間帯。そんな時間にここで会うのは珍しい……否、そんなに珍しくもなかったか。なんて、ぼんやりとマティアスが考えている内にフロリアンは距離を詰めいて、気がつけば目の前に立っていた。こちらを見下ろす表情には、どこか呆れが含まれていた。 「悪い子だね。タバコは決められた場所でっていうルールなのに」 　彼の言葉に、少しだけマティアスは眉を顰める。口から咥えていたタバコの端を無意識に少しだけ噛んだ。 　確かに、この荘園では喫煙に関するルールがある。決められた喫煙スペースで喫煙すること、火の始末には気をつけること、吸い殻をどこへでも捨てないこと等々。そんなに多くない喫煙者は、そのルールに則って喫煙を許されていた。 　しかし、これは荘園の主人が決めたものではなく、屋敷に住まう人たちで取り決めたもの。破ったところでペナルティのようなものは全くない。あって、ルールに厳しい面子、尚且つ嫌煙家からの小言を受けるくらいだ。まあ、目立つのが好きではないマティアスにとっては小言もあまり受けたくないものではある。だが―― 「あそこだと一人になれないから、好きじゃない」 「あー……うん、それなら仕方ないか」 　マティアスの言葉に、フロリアンは少し同情を混ぜた声で肯定した。決められた喫煙スペースはだいたい 酒盛りをする場所と同じように人が常にいる状態であり、酒盛りと同じくらい賑やかで下世話な話で盛り上がっていることも多い。そんな場所で吸うくらいなら、ルールをこっそりと破って吸う方を選ぶ方がマシなのだ。 　分かってくれたようで何よりである。マティアスは小さく息をついてから、タバコを咥え直す。ちゃっかりと隣に座ってきていたフロリアンを一瞥して、ポケットからタバコの箱を取り出して彼に向けた。 「吸う？」 「僕は吸わないよ」 　知ってるでしょう？　そう言ってフロリアンは首を振る。ああ、そういえば、彼は嫌煙家であったか。そうだったね、とタバコを咥えたまま返して、マティアスは箱をポケットにしまい直した。 　タバコを指先で挟み、思い切り息を吸う。苦い煙が、肺を満たして血管を通って身体に巡っていくのが分かる。その感覚に浸り切って、十分となったところでタバコを口から離す。ふ、と上を向いて息を吐き出せば、ふわりと濁った煙が辺りに広がり溶けていく。 　その様子を見つめてから、マティアスはこちらをじっと見つめたままのフロリアンに目を向けた。 「ならここに来る必要はないんじゃない？」 　マティアスの言葉に、フロリアンはきょとり不思議そうな顔で首を傾げた。 「マティアスがここにいるなら行くに決まってるでしょう？」 「変な奴」 「恋人とは常に一緒に過ごしたい、てことだよ」 「恋人だとしてもプライベートは必要だと私は思うけどね」 「そんなに一緒にいたくないってこと？」 　眉を下げてフロリアンが寂しげな顔をする。その顔はあまり好きじゃない。何だか申し訳なくなって、良 心が擽られて変な気持ちになってくる。 「別にそこまでとは言ってないよ」 　マティアスはふい、と目を逸らしてから答えた。 　またタバコを咥えて煙を吸い込む。二回、三回と煙を吸っては吐いてを繰り返すと、ずっとこちらを見つめたままのフロリアンが声をかけてきた。 「マティアスはタバコが好きなの？」 「嫌いだよ」 　さらりと返したマティアスの言葉に、フロリアンは目を丸くした。 「え？　じゃあ、なんで吸うようになったの？」 「言ってなかったっけ？」 「聞いたことなかったなって」 「恋人なのに、気にならなかったんだ」 「うっ……痛いところを突いてくるなあ」 　驚き顔が今度は苦笑を浮かべて、マティアスを見る。その変化が面白くてマティアスはついふ、と鼻で笑ってしまったが、少しだけ申し訳なくて、冗談だよ、と返してやった。その返答に、フロリアンの苦笑に安堵の色が混ざる。だが、その表情はすぐにどこか真剣な顔へと変わった。 「もしかして、深刻な理由だったりする？」 「別に、大した理由でもないよ」 　マティアスはまたさらりと、何でもないように答えた。 「あいつ（ルイ）とは違う何かが欲しくて、始めたってだけ。あとは……吸っている間は何も考えなくて済むから、かな。頭の中が空っぽになって、楽なんだ。酒と一緒だよ」 「そう」 　淡々と答えた話に、フロリアンの笑顔に一瞬だけ陰りが映る。その一瞬に、マティアスは顔を顰めてぴしゃりと言った。 「しんみりした顔にならないでくれる？」
January 12, 2025 at 4:20 PM
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おまけの🎀くん
December 25, 2024 at 2:55 PM
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(6/6)
December 25, 2024 at 2:55 PM
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滑り込みは🎄フロマティss｡･*･:≡(　ε:)
ｷｯｯｯｽしたい🧯と📍の攻防戦？なお話(🎀を添えて)残狂で配っていた無配ポスカのお話の完全版です🙇‍♀️(3/6)
今回滑り込みなのでALT入れてない！ごめん！
December 25, 2024 at 2:54 PM
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残狂のサンプルこちらにも載せる…！
当日はよろしくお願いします🙇‍♀️
December 7, 2024 at 5:18 AM
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続き(6/6)
る、前に訪れた時のここの様子。既に収穫を終えて枯れ草だけが敷き詰められた、褪せた黄金色の畑の景色。この木は一体何色だったかは、記憶にない。ゴツゴツとした黒に近いこの木に、一体どんな花が咲くというのだろう。想像ができず、つい小首を傾げてしまう。 「想像ができないな」 　ぽつりと、思った言葉がそのまま口から零れ落ちる。 　すると、隣にいた膨化から声をかけられた。 「また来てくださいよ」 「……え？」 　木から隣へと目を移す。隣にいた膨化の、微かに熱を孕ませた視線と目が合う。 「春、この木の花を二人で見ましょうよ」 　弧を描く口から出てきた誘いの言葉にも、視線と同じ熱が込められていた。 　胸が微かに、でも確かに高鳴った。 　ひゅるりと音を立てながら冷たい風が、木と二人の間をすり抜ける。白と灰色のない、冷たい世界の中で、ただ静かに、似た色をした二人が見つめ合う。 　短い沈黙の中、館長は小さく口を開いて、一度止まってから言葉を返した。 「……約束はできないよ」 　自分で返した言葉のはずなのに、胸が小さく痛む。目の前にいる膨化も、ほんの少しだけ顔を歪ませて、でもすぐに笑顔を貼り付けて、 「そうですか」 　と、なんでもなさそうな声色で言葉を返した。 　気まずい沈黙が流れる。また強く冷たい風が吹いた後、先に動いたのは膨化だった。 「だいぶ雨に変わってきましたね。一旦僕の屋敷に戻りましょう」 　す、と黒いグローブを付けた手が目の前に差し出される。館長はその手を暫し見つめて、動かしかけた右手を握り込んで、足を動かした。差し出された手をすり抜けて、彼の差している蝙蝠傘の中へと入る。膨化も、残された手を引っ込めて、踵を返す。 「だいぶ濡れてしまった……冬にここへ来るものじゃないな」 「言ってくれれば、僕がそっちへ出向いたのに」 「……いや、君はあそこに来なくて良い。君の協力が必要な際はこちらから出向くよ」 「そうですか……」 「……ところで、だいぶ君から量を取ってしまったと思うのだが、出歩いて大丈夫なのか？」 「ん？　あれくらいなんともないですよ。畑仕事の方が大変ですよ」 　そんなやり取りをしながら、足跡がついてぐちゃぐちゃになった雪道を、二人で戻る。行きで付けた、バラバラとした二人分の足跡に、並んだ二人分の足跡が重なっていく。 　再び強く吹いた風に、館長は身を震わせた。 「……寒い」 「長いこと外にいたので冷えましたよね。もうすぐ雪解けだろうけど、まだ寒いので」 「……雪解け？」 　こんなに寒いのに？　と疑いの目で膨化を見上げると、膨化は館長を見下ろしにこりと笑う。 「この時期に雪混じりの雨が降るってことは、そろそろ雪解けなんですよ」 「……知らなかった」 「ほんとですか？　知識で初めて館長に勝ててなんか嬉しいなあ」 　楽しげにニコニコと笑う膨化。なんだか面白くなくて館長は眉根を寄せると、それが面白かったのか膨化はケラケラと笑い出す。ますます面白くなくて、ぷい、と視線を逸らすと、膨化は笑うのをやめた。 「……ねえ、館長さん」 「……なんだ？」 「提供が必要な時でも、そうじゃなくてもいいので、また来てくださいよ。春、いや、春じゃなくても」 　先ほどと同じ、微かな熱が込められた言葉が向けられる。 　小さく高鳴る胸を奥にしまい込んでから、館長は一言、言葉を返した。 「いつか、ね」
November 16, 2024 at 3:33 PM
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今日のXでもワンライで書いたお話、寝る前にこっちにも載せておきます…！
お題とかかった時間はいつものように1枚目のALTの冒頭に入れました。
お散歩してる🍋📍とそんな📍を迎えに来た🍿🧯のお話(3/6)
※🍿🧯の村というか畑捏造
※🍋📍は定期的に🍿🧯から実験で必要なものを提供してもらうために村に来ているよ(n回目)なふんわり設定
#フロマティ
於大・「雪」「雨」 かかった時間・60+20min ＊＊＊ 　どこかベタつくような、ぬかるみつつある雪原に足跡を付けて歩く。 　キンと冷えた空気に長く当たっていたせいか、頬がチリチリと痛み出し、吸い込む空気で肺がキュ、と締まって少し息苦しい。羽織っている馴染みのコートも、先ほど降り始めた雪混じりの雨のせいで重く湿ってしまい、歩きにくさが増していく。 　それに微かな腹立たしさを感じながらも、男は白と灰色しかない景色の中を歩いていく。目的地は特にない。ただ、天気が悪いのを承知の上で、この辺りを見て回りたくなった。ただ、それだけだった。 　開けた雪原の中を黙々と男は歩く。何もない、拓けた場所。前に訪れた時、ここには確か見事な麦畑だか、コーン畑があったような気がしたが、今は何もない。収穫を既に終えて、一旦役目を終えた場所は、ただ白いだけの雪原へ姿が変わっている。仮にも畑ではあるのだから、本来は立ち入らない方が良いのかもしれないと、男は一瞬だけ雪原の中央で立ち止まったが――いや、この畑の持ち主は好きに見て回って良いと前に言っていたはずだと、すぐに歩みを再開した。雪と雨がコートを叩き、染み込む微かな音を聞きながら、黙々と、濡れた黄金色のコートを引き摺りながら男は歩き続けた。 　当てもなく歩いてどのくらいの時間が経っただろうか。そろそろ足が棒のようになってきたところで、男はやっと歩みを止めた。目を伏せて、上がっていた呼吸を静かに整える。ある程度落ち着いてから、伏せていた目を持ち上げる。 　目の前には、一本の木があった。男の身長より もはるかに大きいが、幹はそこまで太くない、少しうねっている濃い灰色の木。葉が全て落ちきって、枝だけを灰色の空へと広げている。 　はて、何の木だろうか。男は首を傾げつつ考え込むが――答えは出てこない。研究に活かせるからと植物に関する知識もある程度は有しているのだが、流石に冬の禿げてしまった木を見ただけでは、何の木なのか、男には分からなかった。 　男が右手の手袋を外し、黒い幹にそっと触れてみる。キンと冷えた世界の中、意外にも触れた木は微かに温かかった。外見は枯れ木にしか見えないのに、この木は生きているのだと、ゴツゴツとした木肌から伝わってくる。何もない、生命の息吹すら感じられない冷たい世界の中にある、命の温もり。 「館長さん」 　背後からかけられた声により、木に向けていた意識が引き戻された。感じ取れていたはずの温もりも、触れている手からはもう感じ取れない。微かに感じた命の温もりに名残惜しさを感じつつ、男は声がした方へと振り向く。後ろには、ここでは珍しい立派な傘を差した、黒い癖毛の隻眼の男が笑って立っていた。 「膨化……」 　静かに目の前にいる男のあだ名を口にすると、膨化と呼ばれた癖毛の男は苦笑する。 「フロリアンって呼んでって言ってるじゃないですか」 「私と君はそういう間柄ではないだろう？」 「え〜？　僕はそういう間柄だって思っていますけど」 　軽い口調で、貼り付いた笑顔で笑う膨化に、館 長と呼ばれた男は眉根を寄せる。だが、館長はすぐに膨化から、また木へと目線を移した。もう一度、木に触れ直す。手のひらから伝わってくるのは、冷たい木肌の表面だけ。先ほど確かに感じた、あの微かな温もりはどこにもない。 「この木に興味あるんですか？」 　さくりと音を立てて、膨化が館長の隣に並ぶ。館長は目を木に向けたまま、膨化に声をかけた。 「お前、この木が何か分かるか？」 「え？　うーん……いや、分からないな。小さい時からここにあったので」 「……使えないな」 「ひどいなあ」 　館長の一言に膨化はまた苦笑する。だが、それをすぐに引っ込めて、今度は楽しげに、懐かしむような笑顔を木に向ける。 「この木、多分僕が生まれる前からここにあったんですよね。畑で何かする時は、大体この木の下で休憩したりするんですよ。目立つから待ち合わせにも便利で」 　ペラペラと聞いてもいないことを話す膨化に、館長は淡々と、興味ない気持ちを隠さずに聞き流す。膨化はその様子に少しだけ眉を下げるが、話すことを止めはしなかった。静かな灰色の世界で、膨化の声だけが響き渡る。 　ふと、膨化が「そうだ」と声を上げた。 「この木、春になると綺麗な花が咲くんですよ」 「花？」 「ええ、すごく綺麗なんですよ。ぜひ館長さんにも見せてあげたいなあ」 　膨化の言葉に、館長はまじまじと木を、何もついていない枝の一つを見つめる。脳裏で再生され
November 16, 2024 at 3:32 PM
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続き(6/6)
「で？　念願の海はどうだい？　マティアス」 「……思っていたよりも海って黒いんだな」 　特に話題を変えたことを咎めることはなく、マティアスはチャプリと音を立てて、黒い海から白い足を片方取り出した。 　ほんのりと黒い雫が、マティアスの足を伝って海へと戻っていく。マティアスはまた、上げた足を海の中へと戻していった。 「天気のせいかもよ？　晴れていたらもっと綺麗なんじゃないかな」 　試合の時の、暗い夜の海はどんなものだったか頭の隅で考えるが、やはり試合中は余裕がないからか、はっきりと思い出せない。 　だが、今の景色よりかは比較的綺麗に見えるのではないかと思ってフロリアンは話すと、マティアスも納得するように頷く。 「たしかに、そうかもね」 「別の日にもう一回行ってみる？」 　フロリアンの提案に、マティアスはそんなに考えることなく首を横に振った。 「やめておく」 「いいの？」 「ああ」 　遠くを見ていたマティアスの顔が、振り返ってフロリアンを見る。 　向けられた表情は、どこか泣きそうで、感傷を秘めて、諦めたような、でも振り切れていない、歪んだ顔をしていた。 「今日の海で、私は十分だよ」 　冷たい潮風が、また強く吹いてきた。霧雨の粒が大きくなって雨へと変わっていく。 　少しずつ烟る境界線と相まって、目の前にいる彼は、瞬いたら溶けて消えてしまいそうなほど儚げだった。 　胸が途端にざわついて、その衝動のままフロリアン は靴も脱がずに黒い海に足を突っ込んだ。 　バシャリと、大きく飛沫が上がる。靴と服越しからでも分かるくらい、黒い水はとても冷たくて、ぞくぞくと背筋が凍りつきそうになる。 　体を震わせながらも、目の前で呆然とこちらを見つめているマティアスの手をフロリアンは強く握りしめた。 　その手も、氷のように冷たかった。 「冷たっ！！」 　あまりの冷たさに、フロリアンは思わず叫び声を上げる。 　改めて呆けた顔をしているマティアスを見てみれば、明らかに顔色が悪い。握っていた手を離して無防備な頬に手を当ててみれば、手と同じくらい冷え切っていた。 「えっと、フロリアン？」 　黙ったままでいるフロリアンにマティアスは戸惑いながら声をかける。 　フロリアンはそれに答えはせずに、短い沈黙を挟んでから勢い良くマティアスの体を横抱きにして持ち上げた。 「え、ちょ……！」 　急なことにマティアスは狼狽えながらも、咄嗟にフロリアンの首元に齧り付く。バシャリと跳ねた海水で二人の衣服が更に濡れたが、フロリアンは気にすることなく、マティアスを抱いたままザブザブと音を立てて浜辺へと踵を返す。 「ちょっと、フロリアン待って」 「もう帰ろう、マティアス。これ以上入ってたら風邪引いちゃうよ」 　マティアスの言葉を遮るようにフロリアンが諭すように声をかける。腕の中に ているマティアスの体は、だいぶ冷え切っている。恐らく、不感であるが故に海の冷たさが分からなかった のだろう。このまま放っておけば、風邪を引くことは明確だ。 「……もうちょっといたかったんだが」 「だーめ。マティアス顔色も悪いよ？　感じないだけで体すごく冷たいし。すぐ温めないと」 　浜辺に放り投げられていたマティアスのブーツを拾い上げ、フロリアンはゲート先へと足を進めていく。 　ゲートに向かっているのに気付いたのか、マティアスが突然暴れ出した。だが、体格の差のせいか、支えているフロリアンの腕が崩れる様子は見られない。 「ちょ、フロリアン！　分かった、帰るから！　だから一旦下ろせ！　このまま誰かに見られでもしたら……！」 　マティアスの抗議を遮るように、フロリアンは色の悪いマティアスの唇をそっと自分の唇で塞いだ。 　冷え切った唇に自分の熱を分け与えるように、ぐ、と押し付ける。 　そっと唇を解放すると、青白かったマティアスの頬がほんのりと朱色に染まっていた。 「あ、ちょっと顔色良くなったね。でもまだ冷えてるから、急ごうか」 　見られたら上手いこと言うから大丈夫だよ、多分。そうも言い加えて、フロリアンは止めていた足をまた進める。 　気のせいか、暖を取るように冷たい顔を押し付けてきたのが、胸から伝わってきた。
November 13, 2024 at 9:16 AM
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Xのワンドロ・ワンライで書いたお話その3
お題とかかった時間は1枚目のALTの冒頭に入れています。だいぶふわっと書いたお話なのでふわっと読んでね…(3/6)
※二人とも海を見たことない設定
※📍の過去捏造
#フロマティ
お題・「空」「海」 時間・60+15min ＊＊＊ 　海を見に行ってくる。 　そう言ってきた恋人の顔は、何の感情も見えない静かな顔をしていた。 　普段よく来る場所であっても、天気や時間帯ひとつで、ここまで知らない場所に見えるものなのだろうか。 　聞き慣れない波の音、嗅ぎ慣れない潮の臭いに小さく首を傾げながら、フロリアンは目の前に広がる景色をぼんやりと眺めていた。 　どんよりとした薄曇りの空から、薄らと霧雨が降り頻っており、そんな空の下には黒々とした海が波の音を立てながら広がっている。 　普段試合でよく訪れる湖景村であるはずなのだが、どうやらバグが発生していて、天気と時間帯が普段とは全然違うらしい。ここに訪れる前、試合外で訪れる許可を貰う際にナイチンゲールさんからそう聞いている。詳しいことは、フロリアンにも、目の前で海に足を突っ込んでいるマティアスにも、分からない。まあ知ったところで、特に何もないわけだが。 「バグのせいもあるんだろうけど、なんか見慣れないね」 　砂浜の独特の感触をブーツ越しに感じながら、フロリアンはマティアスに声をかける。マティアスはこちらを見ようとはしなかったが、淡々とした声で答えてくれた。 「試合中は景色を見る余裕なんてないだろう？」 「それもそうか」 　最もなご意見に小さく笑う。確かに、砂浜の感触はこんなだったろうかと思っていたのだが、試合中にそんな感触を味わう余裕も何もない。景色も同じことだ。 　ぶわりと、冷たい潮風が顔に纏わりついてくる。べとりと肌にくっ付いて、ほんの少しだけ、不快な気持ちが沸く。鼻に纏わりついてくる潮の臭いも、やはり嗅ぎ慣れなくてどうも落ち着かない。フロリアンは不 快な感情は胸の奥に仕舞いつつ、マティアスにまた声をかけた。 「マティアス」 「何？」 「なんで海に来たいって思ったの？」 　純粋に、ここに来る前から思っていたことを訊いてみた。これが別の人であれば、まあ、そういう気分もあるんだろうなと、軽く見ることはできただろう。でも、マティアスについてはそう軽く見ることがフロリアンにはできなかった。他のサバイバーとは違う、深く繋がった仲であるが故に、彼と海の接点が見つからないのがとても心に引っかかった。 　フロリアンの問いに、マティアスはすぐに答えなかった。 　潮風がまた強く吹いてくる。それに合わせて波が大きくうねり、マティアスの膝から上も濡らしていく。べとりと濡れたズボンが張り付いているを少しも気にする様子を見せないで、マティアスは静かに、遠くの、海と空がぼんやりと滲んで混ざっている境界線を見つめている。 　長い沈黙の後、マティアスはぽつぽつと、答えてくれた。 「海に、興味があったんだ」 「興味？」 　意外な言葉に、フロリアンは首を傾げる。マティアスは言葉を続けていく。 「昔、小さい頃に本で読んだのを思い出したんだ。子どもが海へ行く話……お父さんと、お母さんの三人で行く、楽しい話」 　また潮風がマティアスを通り抜けてフロリアンの顔へと吹き付ける。 　気のせいだろうか、マティアスをすり抜けた潮風には、どこか寂しさが滲んで見えた。 「小さい頃も、今も、海なんて見たことなかったから ……どんなものか、見てみたかったんだ」 「……そっか」 「ああ、でも……一度だけ、父さんにねだったことがあったな」 「行かなかったのかい？」 「行けなかったね」 「忙しくて？」 　マティアスはすぐに答えなかった。一瞬だけ、波の音に紛れて、マティアスの呼吸が止まる音が聞こえた気がする。 　だが本当にそれは一瞬で、短い沈黙を流してから、マティアスは単調な声で吐き出すように答えた。 「……ルイは海に弱いから、そんな所行けないって言われたよ」 　マティアスの言葉に、フロリアンはここに来る前の、人形の言葉を思い出した。 　いつもであればどこにだって彼について来る、彼の面影を強く残している絡繰人形。フロリアンはマティアスについて行く前に、なんとなしに聞いたのだ。 「ルイ君はついて来ないの？」と。 　その時、人形はぶすりと、不機嫌そうな顔で答えたのだ。 「ボクノ体ハ海ニ嫌ワレテイルカラネ」と。 　木と金属でできた人工の体では、海水と潮風に長く晒すのは御法度なのだろう。この場所で試合を終えた後も、マティアスが人形を念入りにケアしていたのを思い出す。 　そうか。その頃からもう―――――― 　感傷を強く滲ませた背中を静かに見つめる。慰めの言葉はかけない。かけたところで、今の彼には届かないし、余計に傷付けるものだと解っているから。 　もしも自分がその場所に立っているとしたら、自分もそうして欲しいと思う。 　ただ、せめて、とフロリアンは話題を変えた。
November 13, 2024 at 9:14 AM
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続き(8/8)
　時には青年の言われるままに息を潜めて壁の陰に隠れたり、突然鳴った大きなブザーに体を震わせたり、得体の知れない、恐ろしい気配を微かに感じたり。その間、ずっと青年は少年の手を離さなかった。少年もまた、青年の手をぎゅ、と握っていた。 　どのくらい歩いたかは分からない。だが、少年の足がそろそろ棒になりそうなところで、青年の歩みが止まった。 「ここが出口だよ」 　青年が足元を指差す。少年がその指先の先に目を向けると、赤茶色をした扉のようなものがぽつりと置かれていた。 「開いたらここに飛び込むんだ」 　飛び込む、穴のようになっているのだろうか。まじまじと出口を言われた場所を見つめる。 　ひゅるひゅると、小さいが、風を吸い込むような音が少年の耳に入る。その音に、ぞわりと背中が冷たく震えた。 「……こわい」 　得体の知れない恐怖に、一歩だけ出口から遠ざかる。そんな少年に、青年はからからと笑った。 「大丈夫、お兄ちゃんも一緒に降りるから」 「でも……」 　青年からの励ましの言葉があったとしても、背中がぞわりとした震えは止まらない。 　もう一歩、少年は後ずさろうとした。だが、体が浮いたことでそれはできなかった。 　ぐっと高くなる目線。ぎゅ、と優しい熱に体が包まれる。抱きかかえられたことに少年は気づくと、真横に来た青年の顔に目を向ける。 　青年は優しく少年に笑いかけた。 「これなら怖くないでしょ？」 　先程までの冷たい震えが、青年の熱で治っていく。 小さく息を吐き出して、少年はこくりと頷いた。 　青年の腕の中で出口が開くのを二人で待つ。 　静かな時間の間、少年はぽつりと言葉を溢した。 「おうちにかえれるかな？」 「大丈夫、きっと帰れるよ」 　返ってきた優しい言葉に、少年は青年へと顔を向ける。不安で揺れる少年の目に、青年の優しげな笑顔が映る。 　どうしても拭えなかった不安がやっと消えて、それが嬉しくて少年は青年の首元に顔を埋めた。 　仄かに焚き火の匂いが少年の鼻を掠める。ふと、少年は顔を上げて気になったことを青年に向けた。 「……おにいちゃんも、おうちにかえれる？」 　首をこてりと傾げて、じっと青年の顔を見つめる。 「…………うん」 　青年は笑顔のまま、小さく、時間をかけて頷いた。 　それと同時に、ギギ、と軋んだ音を立てて出口の扉が勝手に開いた。 　開いた扉の先は空と同じくらい黒一色で、何も見えない。 　ぞわりとした恐怖に少年が青年の首元に抱きつくと、青年は出口をじっと見つめながら言葉を溢した。 「君は……」 　小さく開かれた青年の口が、言葉を言いかける。だが、続きは出てこない。 「なに？」 「……いや、何でもないよ」 　首を傾げた少年に、青年は笑って首を振った。 「行くよ」 　青年の声に、少年の抱きつく腕が強張る。青年も、強く少年の体を抱き締めてから、ひょいと飛び上がって出口に飛び込んだ。 　真っ暗で何も見えない世界。ただ、どんどん加速して下に落ちているのだけは分かった。 　視界に映る世界と同じように、何故か意識も黒く染まろうとしている。それが怖くて、少年は必死に青年の熱へと縋った。 　意識がどんどん黒くなる。熱がゆっくりと溶けていく。 　囂々と風の唸り声が耳元で強く鳴る中、意識が完全に染まった時に、小さく青年の声が聞こえた気がした。 「……君が神に選ばれることを、心から願っているよ」 「――――マティアス、マティアス」 　ゆさゆさと、身体を揺すられる。 　ゆっくりと閉じていた瞼を開けると、柔らかい笑顔を向けている両親の顔が少年の目に入った。 「起きたかい、可愛いお寝坊さん」 「さ、そろそろ着くわよ」 　ぼんやりと未だ微睡んだ顔をしている少年に、くすくすと小さく母親が笑う。 　未だ滲む目を擦りながら、少年は身支度を整えている父親に訊ねた。 「もう、パリ？」 「そうだよ。さ、降りる準備をしなさい」 「……うん」 　小さく欠伸を噛み締めて、母親と一緒に荷物の確認をする。 　荷物の確認をしている最中、少年はくるりと辺りを見渡した。 　窓から見える、華やかな異国の街並みと、小綺麗な内装をしている汽車の中。のどかな日差しが、汽車の中を照らしている。 「マティアス？」 　母親の呼びかけに、少年は――マティアスは小さく 首を振った。 「ううん、なんでもない」 　耳の奥で風の唸り声が聞こえた気がしたが、マティアスは気に留めなかった。
November 13, 2024 at 9:10 AM
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Xのワンドロ・ワンライで書いたお話その2
お題とかかった時間は1枚目のALT冒頭に入れています。
幼少📍が怖い場所に迷い込んだお話(4/8)
※📍の過去捏造、成長した📍は登場しません
#フロマティ
お題・「夢」「現」 時間・60+30min ＊＊＊ 　知らない夜が、そこにはあった。 　どっぷりと黒いインクを零したような空には、光ひとつ見当たらない。点々と、遠くにある松明と、何故かぼんやりと緑色に光る小川が、荒れ果てた林の中を不気味に照らしている。時折聞こえる鴉の鳴き声が、余計に現実とかけ離れた場所なのだと訴えている。 　そんな不可思議な場所の中で、ぽつんと、小さな少年は一人で蹲っていた。何故ここにいるかは分からない。気づいた時には、薄気味悪い林の真ん中に立っていたのだから。両親の名前を小さく呼んでも、変に音が響くばかりで、誰からの返答も返ってこない。 　戸惑いがじわじわと恐怖へと移り変わる。どくどくと気持ち悪く心臓が鼓動を打ち、冷たい汗と吹いてくる風で身体まで冷えてくる。滲んできた視界で忙しなく辺りを見渡すも、ただ朽ち果てた建物と、点々と無造作に置かれた木製の檻しかなかった。 　何の気配も感じない、けれど、そこに留まってはいけないと幼い頭の中で警鐘が鳴り響く。それだけは理解して、少年は溢れる涙を拭うこともせずにその場から駆け出した。行く宛などない。でも、ここにいてはいけない。帰らないと。お父さんと、お母さんの元に、帰らないと―――――― 　闇雲に朽ち果てた林の中を走る。明らかに無人だろう建物や、建てかけの壁だけの家を横目に、がむしゃらに少年は走る。 　ざり。 　突然、遠くの方で足音が鳴った。小さい音ではあったが、少年の耳にはやけに大きく聞こえた。 「っ‼︎」 　突然感じた人の気配に、ぞわりと背中が震える。先程まで誰もいなかったのに。人がいなくておかしくない場所のはずなのに。最初であれば安堵できただろう音も、今の少年には化け物と出会うのとそう変わりはなかった。 　ざり、ざり。 　足音はこちらに近づいている。追いかけているのか。振り向こうにも、そんな勇気はない。 　足が震える。肺が痛い。走り続けるのももう限界だ。追いつかれてしまう。どうしよう。どうしよう。 　半端に残された壁だけの家が少年の目に留まる。頭で何かを考えるよりも先に、壁の影へと少年は潜り込んだ。 　震える体を必死に小さく丸め、両手で悲鳴を今にも上げそうな口を塞ぐ。心臓が痛い。ざりざりと足音はどんどん近づいている。 　冷たい汗が、顎の先からぽとりと落ちると同時に、足音が目の前で留まった。 「誰かいるの？」 　壁を挟んだすぐ隣で、知らない青年の声がする。少年にも理解できる言葉を話している。そして、こちらに気づいている。 　足音がまた鳴り始めた。もう逃げられない。少年は足音の正体が通るだろう場所に見開いた目を向けた。震える身体を硬くして、こちらに来ようとしている存在に神経を張り巡らせる。 　緊迫した空気が満ちている中、ゆっくりと足音の顔が壁の向こうから現れた。 「えっ？」 　ぱちりと目が合ったその顔は、とても驚いていた。消防隊のようなヘルメットを被った、金髪の、包帯を巻いている青年。隠れていない左眼を見開いて、縮こまっている少年を信じられないように凝視している。少年もまた、同じように青年を見つめた。 「なんで、でも……」 　狼狽えたような声で、ぶつぶつと何かを青年は呟き始める。どのくらい経ったか、青年は呟くのをやめると少年ににこりと笑いかけてきた。 「……おいで。少し、お兄ちゃんとお話をしよう」 「……」 　優しい声と、人好きする笑顔。信用しても、良いのだろうか。でも、不気味なこの場所ではあまりにも似合わなくて、不信感が拭えない。 　少年の顔に出てしまっていたのだろうか。青年は困ったような笑顔をしたと思えば、しゃがんで少年に向けて両手を広げ出した。 「君を傷つけたり、怖いことはしないよ。大丈夫」 「……」 「信じて」 　青年の左眼と、またぱちりと目が合った。その目は、とても優しくて穏やかな目だった。 　暫し考え込んで、悩んで。やっと意を結した少年は、丸めていた体を起こして青年の傍へとゆっくり近寄った。 「いい子だね」 　目の前まで寄った少年の頭を、青年が優しく撫でる。 　そっと手が頭から離れると、青年は笑顔のまま少年に訊ねた。 「君のこと、教えてくれるかい？」 「……なるほど。君はもしかしたら何ならのバグでここに誘われてしまったのかもしれないね」 「バ？」 「あー……うん。気にしなくていいよ、こっちの話さ」 　得体の知れない言葉に少年は首を傾げたが、青年はへらりと笑って言葉を流した。 　少年は青年に、拙いながらも全てを話した。といっても、気づいたらここにいた事、知らない場所である事、誰もいなくて青年が初めてここで会った人である事と、話す内容なそんなに多くはなかった。語ろうにも、少年自身、何が起きたのか分からないからだ。 　そんな少年の話を、目の前の青年は真剣な顔で熱心に聞いてくれた。言葉を挟まず、少年の辿々しい言葉を律儀に待って、話を聞き終えてから呟いた言葉が、最初の言葉だ。 　初めは不信感を感じてはいたが、少年はすっかり青年に心を許した。この人なら大丈夫だと、信用できると。信頼できる人ができたといって、少年の状況が大きく変わったわけでもないのだが。 「ぼく、きしゃにのってたはずなのに」 　ぽつりと少年がこぼした言葉に、考え込んでいた青年がぴくりと反応した。 「汽車？」 　青年の言葉に、少年は小さな頭を縦に振った。 「うん。おとうさんとおかあさんと、ぱりにむかってるところだったの」 　父の元に届いた家族分の汽車のチケット。そのチケットで、両親と一緒に汽車に乗っている最中だった。一体、どうやってここに来てしまったのだろう。両親は今、どうしているのだろう。 　こちらを優しげに見つめる両親の顔を脳裏に浮かべて、少年は眉を下げる。 　そんな少年に、青年は一瞬だけ目を細めて、だがすぐににこりと笑顔を貼り直していた。 「よし、まあ原因は兎も角だ。この場所から脱出することが先決だね」 　パシリと膝を叩いたと思えば、ぐっと青年が起き上がる。少年は顔を上げて、青年の言葉に目を輝かせた。 「ここからでられるの？」 「出られるよ。とりあえずハッチに向かわないとだね」 「ハッチ？」 「出口のことだよ、おいで」 　そっと、熱い青年の手が少年の小さい手を握る。 　優しく引かれる手に連れられて、少年は青年と一緒に林の中を足早に進んで行った。
November 13, 2024 at 9:07 AM
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続き(6/6)
とを考えるのは無理に決まっていた。 　未だにじりじりと腕越しに照らそうとする日差しを睨む。だが、睨んだところで自然のものをどうこうするなんてできない。フロリアンはすぐに布団の中へ、自分の胸の中にいる温もりへと逃げ込んだ。 　改めて丸まっている温もりを両腕で抱きしめる。少しパサついている髪に鼻を埋めると、仄かに甘い汗の香りが鼻腔を擽ってきた。その香りに自然と頬が緩んでしまう。 　もっとその香りを堪能したくなって思い切り吸い込むと、温もりがもぞりと動き出した。 「……苦しい」 　微睡んだ声で、腕の中の温もりが小さく苦情を漏らす。ほんの少しだけ掠れている声に、先ほどの汗の香りも相まって昨晩の熱がフロリアンの頭を過ぎた。その時の腕の中にいる温もりの愛らしい姿を思い出して、緩んでいた顔が更に緩んでしまう。同時に、何故かいつも以上に胸が一気に満たされていく。 　急に込み上がってきた高揚感に、堪らずフロリアンは更に両腕に力を込めた。 「ちょっと、聞いてた？　離れてってば」 　もぞもぞと、腕の中の温もりが小さく暴れ出す。 「……ごめん、ちょっと無理そう」 　だが、フロリアンはそれに応えられなくて、一言、その温もりに返した。 　いつもなら、はいはいと一時だけ離すことができるのだが、今日はそんな気分に何故かなれない。何故だろう、手放したくないと思ってしまうのだ。自分よりも低い熱が心地よいのもあるのだが、それ以上に、やっと手に入れた満足感と、手放したくないという気持ちが込み上げてくる。 　一体何故なのだろう。そんな気持ちになれない自分に、少しだけ違和感を覚える。だが、また微睡んできた頭では何もわからない。 　ぐりぐりと、埋めていた顔を温もりの髪に擦り付ける。ふわりと香る温もりの匂いに、また胸が満たされていく。 　満たされる充足感に口角を持ち上げていると、温もりがまた声をかけた。 「夢でも見たの？」 「…………そんなところ、かも？」 　小さく首を傾げて、フロリアンは曖昧そうに答えた。 　別にそういうわけではない。否、そうなのかもしれない。 　夢は見ていた気がするのだ。とても不思議で、へんてこで、でもあまりにも寂しくて苦しい、そんな夢を。詳細は、全然思い出せないけれど。 　眠たい頭でぼんやりと考える。気がつくと、何かを察したのか、腕の中の温もりが小さな抵抗を止めていた。 　止まったことを良いことに、フロリアンはまた両腕に力を込めた。 「マティアス、暑い？」 「暑い」 　素直に返ってくる温もりの――マティアスの返答に、ついフロリアンは笑ってしまった。だが、まだ両腕を離す気持ちにはなれない。 「ごめんもうちょっと、このままがいい」 「…………別に、このままでもいいよ」 　再び腕の中で丸くなったマティアスが、優しい声色で言ってきた。 　まさかのお許しの言葉に、フロリアンは少しだけ目を丸くする。 「いいの？」 「いいよ……今日はちょっと寒いから」 　こんなにも太陽が温かに照っているのに？　つい勝手ながらに思ってしまったが、フロリアンは口を閉じた。 　わかっている。理由が曖昧で、答えられないのに、何かを察している彼の、マティアスなりの優しさなのだ。 「ありがとう、マティアス」 　腕の中に納まっている温もりを、改めて抱きしめる。 　マティアスが何かを返したような気がしたが、眠たい頭は聞き取ってくれなかった。 　微睡む意識に身を委ねる。ゆっくりと、意識を手放した。 　 　部屋に小さく響く、二人分の寝息。 　二人が眠るベッドを、未だに日差しは強く照らしている。 　まるで、睦み合う二人に嫉妬しているかのように、部屋を光で溢れさせていた。
November 13, 2024 at 4:38 AM