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塩

塩

@lonelyohseven.bsky.social

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20↑ 夢🫶　壁打ちですがお気軽にどうぞ🙇‍♀️

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塩

@lonelyohseven.bsky.social

2025

December 22, 2025 at 10:26 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

3/3
つづきは年齢制限があるので支部にあります🙇‍♂️

キスでうるんでいる瞳を見て、男は「マジでこの女」と思った。――メシなんてどうでもいいわ。ウーバーでも外食でも俺が作るのでも何だっていい。いやウーバーはコスパが悪ィからよかねえが。そうじゃない。おまえが。おまえが――、

「おまえが俺のモンだってことを確かめさせろ」
「……え？」
「労わる気があるなら態度で示せ」
「……具体的にはどうやって？」

December 21, 2025 at 3:03 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/3

自分が風呂に入っている間に洗濯を回していたところは非常に効率が良いが、それはそうとて一緒にごはんを食べたかったので男は座った女を見て満足げに鼻を鳴らした。

「ぬか漬け美味しい。わたしも作ろうかな」
「どうせ俺がやることになるだろうがやめとけ」
「煮物も美味しい。勝己くんの味とちょっと違うね」
「てめェは薄い方がいいんだろ」
「え、うん。……ありがとう」
「べつに」
「あ、あとねまた顔見せに来てってふたりが」
「週末洗車しにでも行くわ」
「ふたりとも喜ぶよ」
「喜んでたら喧嘩にならねーだろ」
「喜んでるから喧嘩になるんだよ」
「はあ？」

　女の言葉に男は怪訝そうに眉を顰め、ごちそうさまをした。まだ食べている女を見つめつつほうじ茶を飲んでいると、見られていることに気づいた女はつぶやいた。

「食べにくいから見ないで」
「うるせえな」
「勝己くんなんか疲れてない？はやく寝たほうがいいよ」
「食ってすぐ寝るのは医学的にもよくねえんだよ！」
「そうなんだ。物知りだね」
「舐めんな」

そう言いつつも眠たそうにしている様子を見て女はゆっくりと目を瞬かせた。男はぼんやりと「こいつがゆっくり瞬きすんのじっと見てるとやべえ」と思った。瞬きの速度は関係ない。惚れた弱みである。

；
「待ってなくてもよかったのに」
「……」
「うそ。待っててくれてありがとう」
「べつに」

　漸く家事や入浴を終えた女を寝室でうとうとしながら待っていた男は、「はやくて眠れないかも」とつぶやいている女を抱き込んで深呼吸をした。そっと夜のとばりが落ちるように、男の意識が落ちていく。ふかい呼吸を首筋に感じながら女は「まだ九時。ぜんぜん眠くない。しかもすごく力が強い」と思いながら目を瞑った。

；
「……あ？」

　朝を迎えて起きた男は半ギレだった。隣で眠っているはずの女がベッドにいないのである。男はぼんやりと初夜のことを思い出した。――あいつ、あの時もやることやったらさっさと帰ったよなァ……？今回はなんもしてねェけど起きたなら起こせや……！いややっぱり疲れてっから起こすな俺が起きるまで大人しく枕になってろいい加減にしろ、と理不尽なことを考えながら男は起き上がり家中の扉を開けて女の姿を探した。もう少し眠っ

てもいいし起きてもいいがとにかく俺を優先しろと文句を言いたいのである。

「あ、勝己くん。おはよう」
「おはよう……じゃねえわ！」
「おはようでしょ。おはよう以外おかしいでしょ」
「俺はまだ寝るからおはようじゃねェんだよ」
「えー。じゃあおやすみ」
「てめェも寝るんだろうが」
「え？寝ない」
「はあ？寝ろや。俺を優先しろ。出張帰りの配偶者を労われや」
「なんか今日ワガママだね？寝起きだから？」
「ガキ扱いすんな」
「どうどう」
「動物扱いもやめろ……」

　洗面室で捕まえた女に首と肩を撫でて宥められた男が朝から元気よくキレた瞬間だった。女の唇がひらく。

「労わろうと思って早起きしてごはんを作ろうと」
「……あ？」
「昨日のお出汁がまだあるから、出汁巻き卵を焼いて、おひたし作って、あと鮭を焼こうかと思ってた。勝己くん、ほんとは朝は和食がいいでしょ？」
「……」
「勝己くんが疲れてるからたまには労わろうと思って。だから寝ない」
「……」
「寝てていいよ。できたら起こしに行くね」

首と肩を撫でられたまま、背伸びをして頬にちゅっと口づけられた男は目を見開いた。そして数秒静止したあと、女の額と首筋に触れて体温を測った。珍しく殊勝なことを言っているので発熱したのかと思ったのである。

「えっなに！？」
「体調でも悪いんか」
「ひ、ひどい。たまにはお疲れの旦那様を労わろうと思っただけなのに」
「日頃の行いだろ。……つか」
「うん。あ、鮭はやだった？冷凍してある他の魚も」
「労わる気があるなら付き合え」
「……うん？」

　男は光の速さで洗面台に置いてあるマウスウォッシュで口腔環境をとりあえず整えたのち、いまいちわかっていない女の唇を吸い上げた。女の手が制止するように腕にふれたので、その手を握って指を絡めてついでに舌も絡めると女の身体から力が抜けていく。追い詰めるように体重をかけると、胸をぽかぽか叩かれて男はくちびるを離した。

「……ンだよ」
「ご、ごはんつくるっていった。はなして、」
「メシはいい。誰でも作れるだろ」
「誰でも！？え、ひどくない？折角やる気を出しているのに」
「おまえにしかできないことで労われや」
「だ、だからあさごはんを作ろうと」

December 21, 2025 at 3:03 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

#hrakプラス

プロヒ💥とゆっくり瞬きする奥さん

※なんでも許せる方向け、拙宅設定、再放送、ナマエ固定、全年齢パートのみなので途中で終わります、注意が多すぎる
1/3

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「き、今日帰ってくる！？」
「なになにどうしたのナマエちゃん」
「勝己くんが今日帰れることになったって」
「ちゃんと連絡入れるなんてあの子も成長したじゃない」
「ずっと出張だったんだよね？うちに寄らないかなあ」
「連絡してみます」

　夫が長期出張だった為、ひとりで夫の実家へと顔を出していた女はメッセージを見て目を瞬かせた。夫の両親と三人で撮った写真を送ると「加工前寄越せ」とすぐに返事が来たためそれを無視して「実家寄る？てお父さんより」と送ると。

「疲れてるから寄らないそうです……。大丈夫かな」
「勝己、今日の何時に帰ってくるの？なんか作るから持ってく？」
「ナマエちゃん、帰りは家まで送ろうか？」
「あっじゃあうちで勝己くんに会ってもら……いや、なんかこの感じは改めたほうがよさそうなのでまた遊びに来ます」
「あの子、変なところで神経質だしみみっちいでしょ。ごめんね」
「ルーティン崩れると怒るんだよねえ。ごめんね」
「ぜんぜん気にならないので大丈夫です」
「ナマエちゃんにも怒るの？」
「あの子優しくしてる？大丈夫？何かあったらすぐ言ってね。ぶっ飛ばすから」
「怒られるけどそれ言うと〝おまえには怒らないだろ〟って言われます。よく叱られるんですけど」

「あらあらあらあら」
「仲良しだねえ」

　夫の両親ににこにこ微笑まれて女は「いまの仲良し感あったかな？」と思いながら笑った。

；
　長期出張から戻り事務所のデスクで男はメールのチェックをしてため息を吐いた。移動中にできるタスクは終わらせたが報告書などはまだまだある。ストイック且つタスクが残っていると休日も休めない神経質な面を持つ男はキーボードを鬼のようなスピードで叩き、事務をやっつけたあとにスマートフォンを取り出し高速でフリック入力した。「いまからかえる」変換すら怠かった。

　公共交通機関の良い点は乗っていれば目的地にたどり着くところであるが、どうしてもプライバシー面が気になる男は「疲れてるから運転もアレだがタクシーはコスパ悪ィし電車も微妙」とガソリン代と環境負荷を棚に上げて勝手なことを思った。渋滞していると心底イラつくが今日は世間が休日且つ時間帯が微妙だったため比較的早く自宅へとたどり着いた男は鍵を開け、ようやくそこで肩の力を抜いた。

「勝己くんおかえりー」
「……ただいま」
「早く帰れてよかったね！洗濯回す？」
「回す。つか実家行ったんか」
「うん。色々いただいてきたからあとで紹介するね」

「あとじゃなくて後日にしろや」
「ちょう疲れてるじゃん。お風呂入れるよ」
「入る」
「おなかすいてる？」
「食う」
「じゃあその……はなしてほしい」
「無理」
「矛盾すぎる」
「うるせえなてめェには疲れて帰ってきた出張帰りの夫を労わる気持ちがねえのか」
「労わりたいから離してって言ってるし」
「……だーってろ」

　手洗いうがいを終えたあとにそのまま女を抱きしめた男はぐっと身をかがめた。身長差が煩わしいと思いながら離す気はないと告げると、女の手が自身の背中に回り男は「疲れたからはよ風呂入ってメシ食ってナマエ吸いながら寝る」と思いながらもどうしようもなく離れ難いので動けぬ自身を鼻で嗤う。――ガチで疲れてる時に家帰って好きな女が待ってて「結婚してよかった」って思うなんてマジで月並みすぎだろ馬鹿かよ。普通の男すぎるわ。そう考えながら名残惜しいがそろそろ離さねばと思い、女の身体を解放して額に口づけた。
；

「これは勝己くんのお母さんが作った煮物で、これはお父さんが漬けたきゅうり。なんかぬか漬けにハマってるんだって。あとこれはちょっと良いお米で」
「あっそ」

「興味なさそう」
「食レポしろってか？」
「そうは言ってない。あ、それはわたしが作った普通のお味噌汁」
「ふーん」
「食レポして」
「オーソドックス」
「褒めてないよね？」
「あ？褒めてんだろ」
「誉め言葉なんだ」
「普通のモンが一番いい」
「な、なるほど？」

　妻が作ったというものをとりあえず一番最初に口にした男はぼんやりと「こういうのがいい」と考えていた。男は辛い物が好物ではあるが、疲れている時に食べたいとは思わないのである。

「写真撮ってお父さんとお母さんに送ろ。勝己くんは元気ですって」
「はあ？元気じゃねーだろ普通に疲労困憊だわ」
「怪我もなく健康ですっと」
「舐めんな俺は最強だわ。つか食事中にスマホ触るのやめろ」
「そうだった。ごめんね」
「べつに」
「あっ洗濯が終わった」
「食事中に立つな」
「はやく干したほうがよくない？」
「よくねえ。座って食え」
「はーい」

December 21, 2025 at 3:03 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

プロヒ💥とさと〜の後輩と雄みの話

#hrakプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「守られたい男すぎる……！雄みがすごい……！」
「帰れ」

　今日発売の雑誌は大大大好きなシュガーマン先輩が表紙を飾っていて、「甘い男とは言わせない」という煽り文とともにワイルドな表情をした先輩の写真とインタビューとスイーツレシピが載っている。本屋で３冊買った。ちなみにアマゾンでも予約してあるので家に帰ったらたぶん届いてる。一冊お裾分けをとダイナマ先輩の事務所に寄り、帰れと言われているところである。

「ここはカフェじゃねえんだよさっさと帰れや！」
「じゃあナマエさんの連絡先教えてください」
「信用できねーやつに教えられるか。無理」
「じゃあこれから３人でご飯行きましょうよ！」
「明日も仕事だから無理」
「ナマエさんにもこれ渡したいんです！」
「じゃあその雑誌置いて帰れや！」
「てゆかダイナマ先輩って雄みないですよね。なんか女っ気ないし。既婚者だから？」
「ンだそのクソみてーな単語は」

　ダイナマ先輩は確かにかっこいいけどシュガーマン先輩やセロファン先輩みたいな、なんかガチ恋する感じの雄みはない。普通に戦闘スタイルとかかっこいいから憧れるけど、雄みと言われたらちょっと違うよね。てゆかこの人ほぼ万物に塩だし。そう考えていると事務所のドアが開かれて、ナマエさんがひょこっと顔を出したので慌てて頭を下げる。ナマエさんはいつも通りにこにこ笑って私に挨拶した後にダイナマ先輩に駆け寄った。

「なんでいつも事務所？お家に呼んだら？」
「信用できねーやつ呼ぶのはリスク」
「失礼すぎる。勝己くん、公私混同嫌いじゃん」
「……」

　しっかり聞こえている。本当にこの人失礼だなと思ったけど、この２人が結婚するまでに色々あったことは流石に知っているので黙るしかない。急に馴れ馴れしく現れた私が信用できるかどうかなんてわからないもんなと考えていると、ダイナマ先輩はぼそっとつぶやいた。

「ンなことよりおまえが危ねー方がダメだろ」
「……確かに？」

　た、確かに！？確かになの！？てゆかこれ、雄みでは！？そう思いながら大興奮しているとナマエさんは私の向かいに座り、スタバの紙袋からラテを出した。どうでもいいけどこのロゴの人魚ってよく見ると怖いんだよな。夢に出そう。

「買ってきた！どうぞ」
「ありがとうございます！私もこの雑誌買ったのでよかったら！」
「砂藤くんだ、かっこいい」
「雄みすごくないですか！？」
「雄み？」
「だからそのクソみてーな形容の仕方やめろや」

　ダイナマ先輩はナマエさんの隣に座り、ナマエさんが手に持ってるラテをひょいっと攫って口に含んだ。なんだこいつ。そう思っているとナマエ

さんはつぶやいた。

「ニュアンスでは伝わるけど正確な意味はあんまりわかってないかも。調べよ」
「どれ」
「見て。恋愛の文脈でよく使われるとＡＩが言ってる」
「ふーん。アウトっぽいスラングだな」

　ダイナマ先輩はナマエさんが持つスマートフォンを覗き込むように距離を詰めた。なんだこいつ。そんなに近づかなくても見えるだろ。さらにはナマエさんの手ごとスマートフォンを握った。なんだこいつ。手握りたいだけだろ。そう考えつつ雑誌を読むふりをしながら目の前の２人をちらちら見ていると。

「けど勝己くんも雄みがすごいとか言われたら満更でもなくない？」
「はあ？別に嬉しくねーわ」
「けど雄み感じないって言われたら怒るでしょ」
「怒んねーわ」
「ほんとにー？やっぱり砂藤くんの方が勝己くんより雄みあるなー」
「……おいそれもう一回言ってみろや」
「怒ってるじゃん」
「ないと言われたらそれはそれで癪」
「雄みが？」
「そもそも俺を測る尺度になり得ねー単語だろ」
「確かに」

　ナマエさんは雑誌を読んでいて、ダイナマ先輩は雑誌を覗き込んでいるけれど明らかにナマエさ

んを見ている時間の方が長い。その眼差しに雄みを感じてなんだこいつと思ったのでとりあえず口を開いた。

「先輩、ナマエさん狭そうです」
「あ？」
「このひとゴツゴツしてるから慣れてる。ペアシートとかいつも狭いし」
「誰がゴツゴツだ」
「間違えた。このひと、雄みがすごいから」
「はあ？覚えた単語を早速披露すんなや」
「前から知ってたし」

　じゃれている２人から目を逸らして、シュガーマン先輩の雄みを浴びるべくページをめくった。かっこよすぎ。友だちへの布教用に、あと五冊買おう。

December 8, 2025 at 12:51 PM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

おわり

待が乗ったら、それって本当に自分がやりたくてやっていることなのかって。誰かのためにやってるんじゃないかって。義務になっているのかなって。そう思ってしまうことが、あります」

　わたしの拙い演説を聞いた八木さんは、ゆっくりと優しい声でつぶやいた。

「わかった。きみ、疲れてるね」
「……え」
「無理もないよ。親しい人間が命の危機にさらされる場面を何度も見たんだ」
「……」
「ちゃんと泣いた？」
「……たぶん」
「泣けてないんじゃないかな。友人として胸を貸したいところだけど辞退するよ」
「え」
「ちゃんと彼氏のところで泣いた方がいい。きみの彼氏は嫉妬深いからね」

；
「こんにちは」
「こんにち……あ？」

　八木さんに追い出されたのでそのまま爆豪くんの病室へと向かった。ノックをして入るとなんだか怪訝そうな顔をされて起き上がったので、わたしは慌てて彼の元へと駆け寄った。

「起きなくていい！」
「何かあったんか」

「なんで？」
「……」
「何かあった顔してる？」
「しとるわ」

　爆豪くんは左手をわたしの頬にそえてじっと目を見つめてきた。なんですぐ気付くんだろう。八木さんに言われた通り、彼の前で泣くつもりはない。なかった。なかった、のに。

「どんな顔してる？」
「……大丈夫じゃねーって顔」
「……うそ」
「嘘吐きはおまえだろうが何だよ友だちっていい加減にしろ」
「……だめ」
「ンで」
「どきどきするようなことしたら心臓に悪いってお医者様が」
「ハグはいいだろ」
「どきどきしないの？」
「……」
「するんじゃん」

　ハグされそうになったので制止すると、爆豪くんはうんざりしたようにつぶやいた。

「てめェがンな顔しとる方が心臓に悪い」
「え」
「やばそうになったら誰か来るだろ」
「……えええ」

病人なのにわたしよりも爆豪くんの力は強くて、呆気なく彼の胸に収まった。ぎゅっと抱きしめられた身体からはあの甘い香りはしない。抱きしめられると彼の身体が脈打っているのがわかり、不自然なスピードでないことに安堵するとともに視界が滲んでいく。

「そもそも親しい人間とのハグは血圧や心拍数も安定してリラックス効果があるってドクター吉田も言ってんだよ」
「嘘吐き。ぜったい言ってない」
「はあ？言っとるわあとで確認しろや」
「絶対するから。……ね」
「なに」
「なんでいつもわたしが泣きたい時、わかるの？」
「普通にわかるだろ」
「普通はわからないと思う」
「わかるわ舐めんな」
「ティッシュ取ってほしい」
「手塞がってっから無理」
「じゃあ一旦離してほしい」
「……無理」
「なんで」
「離してほしいって声じゃねーだろ」

　いつかこの手を離さないといけない。離してあげないといけない。いつかプロヒーローになって、ナンバーワンヒーローになった爆豪くんを支えるのはきっとわたしじゃない。わたしのような、他者の善意にプレッシャーを感じたり、不安を感じてめそめそ泣くような人間ではない。もっと、彼にはいい人がいる。だけど。

「爆豪くん」
「なに」
「……なんでもない」

　言えなかった〝はなさないで〟は、心の奥底に沈んでいく。嗚咽や涙とともに流せないのが、自身の弱さなのだと痛感する。

　背中に回った腕がぎこちなく背を撫でる感触に、瞳を閉じる。彼の腕の中は、瞳を閉じたとしても眩さを感じるような気がする。片手を彼の心臓にあてて鼓動の速度を確かめた後、再び背中に手を回した。はなれたくない。ずっと傍にいたい。支えられるかわからないけれど。自分の弱さに押しつぶされそうになるかもしれないけど。それでもわたしは、ずっと、あなたと、

December 7, 2025 at 7:58 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

つづいた
1/2

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「来週のボランティアのことを決めよう」
「あ、ナマエは爆豪くんのお見舞い優先でいいからね」
「そうそう、爆豪くんはいま大変な時だから」
「傍にいて支えないと」
「ありがとう」
「いやあの戦いを見たらそりゃあ……」
「心を動かされた」
「早く銅像立ってほしい」
「手術は成功したんだよね！？」
「いつ退院できるの！？」
「うん。聞いてみるね」

　戦いは終わったのに、不安が心を巣食っていくように感じることがある。

「見舞いに行くときは教えて。送るから」
「しばらく一人では出歩かないように」
「なるべく病院に顔を出してやってくれ」

　肩身が狭いと、たまらなく窮屈だと感じることがある。縛るものはなにもないはずなのに。

「爆豪くんはすぐに脱走するから」
「彼女からも安静にするように言ってあげて」
「爆豪くんは彼女の言うことは聞くから」
「心臓に負担がかかることはさせないように」

　ひどくプレッシャーを感じることがある。なにも背負っていないはずなのに。

「……前に診察したことがある子かな？」

だめだと思った。もうだめだと。だから――、

「……それ、私じゃなくて爆豪少年に言った方がいいんじゃ？」
「言えません。さすがに」
「言えないかあ」

　わたしの世界に悪意を持つ者はいない。誰もが善意を持っている。だから、言えるはずがない。善意が重いのだと。

「誰も悪くないんですよね。悪いとしたら自分」
「悪くないよ」
「いや。自分のことしか考えていない自分が一番悪いと思います」
「……」

　八木さんが横たわっているベッドの横で、わたしは唇を開く。

「八木さんがこんな状態なのに愚痴みたいなことを言っているのも」
「いやいやそもそも私が！元気ないね？話聞こうか？って振ったし！」
「お気遣いありがとうございます」
「いいのいいの。今は緑谷少年もいないし話してよ」

　お言葉に甘えてわたしはつぶやく。誰にも言えないことだった。

「あの大戦から、みーんなわたしを〝爆豪くんの彼女〟って言う。なんだかそれが重たくて」

「きみはあの大戦の前からも爆豪少年の彼女じゃないか」
「まあそうなんですけど。急に求められるものが多くなったっていうか」
「求められるもの？」
「はい。役割っていうのかな。わたしは爆豪くんを安心させるための存在で、爆豪くんを安静にさせるための存在なんだなって強く感じるというか」
「……それが重いの？幸福じゃない？」
「プレッシャーを感じる。自分がそう在れると思えない。あと、わたしはわたしなのに、みんなが思うわたしは、爆豪くんの彼女のわたしなんだなって」
「……」
「わたしであるわたしには価値がなくて、爆豪くんの彼女であるわたししか、価値がないんじゃないかって」

　八木さんは黙った。困らせているんだろうなと思う。この話はやめようと切り上げようとした瞬間だった。

「きみに求められるものが多くなるのは仕方がないと言えなくもない」
「……爆豪くんの、あの大戦の功労者の、彼女だから？」
「いや違うよ。爆豪少年がきみにめろめろだから」
「……いまめろめろって言いました？」
「うん。彼、めちゃくちゃなのにきみには優しいでしょ。きみの言うことは聞く。それを今までは限られた人間しか知らなかったけど、今は違う。彼の関係者はだいたい知ってる」

「……爆豪くん、わたしの言うこと、聞いてます？」
「うん。きみの前では彼、全身の骨を抜かれてぐにゃぐにゃになってるじゃないか」
「ぐにゃぐにゃ……いまは弱っているからでは」
「まあそういうことにしておこうか」

　八木さんは笑う。八木さんの笑顔は、ひどく安心する。

「きみがプレッシャーを感じる必要はないよ。求められている役割を全うしようとなんて思わなくていい。お見舞いも……負担だと思うのならば回数を減らしたっていい」
「……なんか」
「うん」
「義務になっているのが嫌だなって思うんです。お見舞いが負担なわけじゃない。ずっとずっと心配だった。あの日、モニターの前で、目をそらしたいと思ってた。泣きだしたいと思った。だけど隣で、わたしよりもずっと心配してる彼のご両親が泣きながら彼を見ていて、めそめそ泣いて目をそらしていたらいけないなって、思った」
「……うん」
「爆豪くんが勝って、治療を受けて、また会えるようになって、本当に嬉しい。会いたいって思う。傍にいたいって思う。心配だから安静にしていてほしい。なるべく休んでいてほしい。他者がわたしに求めるものは、わたしがやりたいこととなにも違わない。だけど」
「うん」
「自分がやりたくてやっていることに、他者の期

December 7, 2025 at 7:58 AM

塩

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2/2

つづく

眉間にしわが寄る。先生の専門は外科である。

「個性因子を持たぬものは、足の小指の関節が二つある。手術でそれを一つにすれば、個性が宿るんじゃないかってね」
「……え」
「医学的根拠があるわけもないからお断りしたけれど……あの後どうだったかなって心配だったから、元気そうでよかったよ。爆豪くんが安静にしているように彼女にも見張っていてもらおう」

；
「あの」
「あ、爆豪くんの」
「爆豪くんがお世話になってます。これ、よかったら皆さんで」
「あ、えーっとこういう心づけとか差入れは受け取れない規則で……」
「えっ……」
「あっ待ってね。ちょっと聞いてくるから」

　数時間後にナースステーションに現れたのは爆豪くんの彼女だった。おそらく菓子折りらしきものを渡されたので断ると、ものすごく悲しそうな顔をされたので慌てて先輩に許可を取りに行く。今回だけと釘を刺すことを条件としてならば受け取ってもいいと言われたので、彼女に告げると嬉しそうに微笑まれた。かわいいな高校生。

「ありがとうございます。確認せずに持ってきてしまいすみません」
「いやいや！だけどすごくしっかりしてるね！？」

「爆豪くんはきっと病院でも迷惑をかけていると思って……」
「あー……」

　このやりとりどっかでしたな。そういえば爆豪くんのお母さんにも強引に菓子折り渡されたな。息子が迷惑かけてるって。彼女とお母さん、似てるところあるんだなと共通点を発見しながら帰っていく彼女を見送り、夕食を持って爆豪くんの病室のドアをノックした。

「あの子彼女でしょ。かわいいね」
「……」
「あんまり遅くまで引き留めちゃだめだよ」
「はあ？なんで」
「い、いや危ないし」
「タクシーで帰らせとるわ」
「た、タクシー！？」
「あ？何だよ」
「い、いやタクシーだとしてもその……嫁入り前の若い娘を遅くまで出歩かせるのは」

　タクシーってなに！？いやまあ確かに爆豪くんの彼女だったらいま、ひとりで夜道を歩かせるのは危ないかもしれない。そう考えながらなんだか時代錯誤な台詞を言ってしまったと反省した瞬間、爆豪くんはとんでもないことをつぶやいた。

「嫁入り前て」
「古いしよくない表現だったのはわかってるから！」
「どーせ俺がもらうんだからどうしようが俺の勝

手だろうが」
「……」

　かわいいな高校生。

December 7, 2025 at 7:27 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

#hrakプラス

入院中の💥と彼女

(モブ視点、拙宅設定、なんでも許せる方向け)

1/2

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

　個室の前でふう、と息を吐く。この病室の患者である爆豪勝己くんは中々の問題児で、絶対安静と言ってもすぐに起き上がって病室を抜け出すのである。私もこの子の活躍を見ていたので、オールマイトや緑谷くんの様子が気になるというのもわかるし、大戦の功労者なのだからなるべく叱らずにいたいと思っていた。あまりに言うことを聞かないのでそのフェーズはもう過ぎて、いまはシンプルに毎日怒っているしなんなら毎日お見舞いに来る彼の母親に毎日密告する日々である。主治医の吉田先生も「うーん焦っているという気持ちは尊重してあげたいけどシンプルにボロボロだもんね。特に心臓ね」と呆れ気味である。

　今日ももしかしたらオールマイトの部屋にいたり、リハビリと言って病棟をぐるぐる歩いているのかも。いるといいけど。そう考えつつノックすると、誰か来ているようだった。

「爆豪くーん、血圧と体温を……」
「こんにちは」
「こんにちは。彼女？」
「友だちです」
「はあ？」

　病室には珍しく大人しくベッドにいる爆豪くんと、雄英高校の制服を着た女の子がいた。爆豪くんの左手を握っていたような気がしたので「彼女？」と問うも違うらしい。だけどたぶん彼女なんだろうなと思った。爆豪くんが何か言いたげな顔をしているからである。

「わたしもう帰るね」
「ンで」
「邪魔になるじゃん」
「いてもいいですよ」
「いいってよ」
「じゃあいようかな」

　爆豪くんの彼女はそう言って椅子に腰を下ろした。借りてきた猫のように縮こまっていて、友だちが飼ってたシャム猫みたいだなと思いながら手早く血圧と体温を測る。数値に問題がないことを確認して、なんだか妙な沈黙だなと思い爆豪くんとその彼女を見ると、彼女は私が記入している血圧の数値を凝視していて爆豪くんはその彼女を凝視していた。

「数値が気になる？」
「はい。このひともう治ったって言うけど嘘だと思ってて」
「ほぼ治っとるわ人を嘘吐き扱いすんな！」
「怒ると心臓によくないだろうし、怒るならお見舞い来ない」
「……怒ってねーだろ」

　え、絶対友だちって嘘じゃん。爆豪くん彼女のこと大好きじゃん。えーかわいい。彼女しっかりしてそうだし、と思い私は呟いた。

「経過は順調だけど全快ではないし、まだまだ安静にしないといけないのに爆豪くんはすぐに病室を抜け出すから困ってて」
「病室抜け出す！？……八木さんのところ行ってる

んでしょ。なんで安静にしないの？」
「治ったから」
「治ってないってプロが言ってるじゃん」
「メンタル的には回復してんだよ」
「安静にしててよ」
「ンで」
「爆豪くんが心配だから」
「……」

　え、絶対友だちって嘘じゃん。てゆか同じ話をお母さんにした時は「看護師さんに迷惑かけてんじゃない！」て怒ってたけど彼女は「心配だから」ってさらって言うの！？言えるの！？しかもしっかり爆豪くんに響いてるじゃん！なんか言いたそうだけど嬉しそうじゃん！そう考えているとノックの音が響いた。

「爆豪くん、調子はどう？」

　現れたのは吉田先生だった。爆豪くんの彼女は先生を見て目を瞬かせた後、ふたたび唇を開いた。

「わたしもう帰るね」
「ンで」
「いやお邪魔かと」
「邪魔じゃないよ。彼女かな？」
「友だちです」
「ンだよさっきからそのクソみてーな設定はよォ……」

　吉田先生にも彼女はにっこりと微笑んで友だち、とつぶやいた。吉田先生も絶対彼女だって確信してるでしょ、と思っていると先生は目をぱちぱち

と瞬かせていた。

「……きみは前に診察したことがある子かな？」
「……あ、はい。以前にその、個性のことで」
「個性。……ああ、そうか。そんなこともあったね。あれから変わりない？」
「おかげさまで」
「うんうん、よかった。爆豪くんは調子はどうかな？」
「全快」
「うんうん、まだリハビリの段階ではないから焦らないでね」

　爆豪くんの彼女、吉田先生の元患者？と疑問を抱きながら先生と一緒に病室を出る。先生に小声で尋ねてみた。

「爆豪くんの彼女って」
「やっぱりあの子、友だちって言ってるけど彼女だよね」
「ですよね。どきどきすることはしちゃだめって言っておきます」
「そうだね。心臓的にね」
「あのそうじゃなくて。先生が診られたことあるって……個性のことって、どういう」

　先生は歩みを止める。うーんと悩んだ後、先生はぽつりとつぶやいた。

「確かあの子は無個性でね。数年前にご両親があの子を連れて相談に来たんだ」
「無個性の相談……？」

December 7, 2025 at 7:27 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

「……も、申し訳ありませんでしたァ！」

　背中に冷や汗が伝う。怖すぎる。なんだこの圧。というか一番最初に言えよと思っているとにっこり微笑まれたので再び謝罪をした。もう２度としません。ごめんなさい。

★
「基本初対面の人には舐められがちなんだけど今回は酷かった」
「酷かった？」
「うん。身寄りがなくてかわいそうだって言われたし。個人情報なんだけど」
「身寄りがないとかわいそうなのか？」
「別にかわいそうじゃなくない？」
「うん」
「人事に新人研修で年齢より芸歴重視って言ってもらお。なんか下に見られるのむかつくし」
「下に見られたのか？」
「うん。鳴海くんに言い寄られて困ってたらなんでも言ってねって」
「待て待て待て待てどう考えても言い寄られてるのは！ボクの方だろ！」
「え、困ってる？」
「……そんなこと一言も言ってない」
「じゃあいいじゃん」
「……」

December 3, 2025 at 12:17 PM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

nrm
#怪8プラス

1/2

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「workaholic?/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「……あの子、かなり若いな。いくつ？」
「いやいや俺らよりずっと前からいる大先輩だからね。なんでも身寄りがなくてガキの頃から防衛隊で研究者の真似事みたいなことしてたんだってさ」
「アルバイト的な？いいのかよそれ」
「さあ？」

　ずっと憧れていた日本防衛隊に入隊できることになり、厳しい訓練の合間に食堂で見た白衣を着ている女の子。防衛隊の研究職の採用事情はよくわからないが、新卒で募集をかけたとしても若すぎる。そう思い噂好きな同期に何気なく会話を振ったところ、腑に落ちるような落ちないような回答が返ってきた。若いのに苦労してるんだな。そう思った。

「持とうか。どこまで？」
「平気です。ありがとうございます」
「今は休憩中だから」
「……じゃあ第三資料室までお願いします」
「きみ、すごく若いよね？いくつ？」
「今年で成人します」
「若。高校は？どこ？」
「まあ色々合って飛び級したりとか」
「すごいじゃん。頭いいんだ」
「そんなことはないですよ」

　たまたまその子が重たそうな資料を持っていたので、手伝ってやると会話は弾んだ。社交的で愛想がいい。可哀想だな、と思った。こんなにいい子なのに身寄りがないのかと。

「またなんか困ったことがあったら言ってよ。俺でできることなら力になるから」
「ありがとうございます。お忙しいかと存じますので、お気持ちだけ」

　奥ゆかしいところも、いい子だなと思った。

「鳴海！お前はまた命令を無視して……」
「うるさい！結果は出しただろうが！」
「……またあいつかよ」
「四ノ宮隊長が直々にスカウトしたから特別扱いらしいよ。なんかすげー武器も常時つけてんだって」
「真面目にやってて評価されないの、馬鹿馬鹿しいよな」

　憧れの四ノ宮功が率いる第一部隊に配属になったが、どうしても気に入らない隊員がいた。討伐能力は高いが素行は悪く、協調性の欠片もない男。能力の高さと隊長直々にスカウトした故からか、すぐに除籍されてもおかしくはない態度なのにこの男は一向に除籍されない。同期が言うには特別な武器を平常時より着けているとのことだ。怪獣討伐はチームで行う。協調性が欠如している人間にどこまでも甘い上官と、その原因であるどこまでも怠慢な隊員に苛立っている時だった。

「今日は何時に終わる」
「なんで？」
「……なんでって！わかるだろ！」
「ご飯行くー？」
「……この間食べられなかったハンバーグ」

「定休日だったもんね。今日はやってるかな」

　その気に入らない男はあの子と話していた。内緒話をするかのように距離が近く、ひどく苛立った。きっといい子だから問題児に言い寄られて断れないんだろう。そう思い唇を開いた瞬間、男が俺を見た。視線が重なり、強い眼光に怯みそうになった瞬間、男はその子を俺から隠すように前に出た。思わず口から出まかせが飛び出す。

「長谷川小隊長が探していて」
「……どうせ説教だ、行かん」
「長谷川さんが？行きなよ。怒られるよ」
「誰が怒られに行くか」
「じゃあ一緒に行こうか？」
「……」

　彼女の言葉に男はぐっと言葉を詰まらせた。嘘を暴かれたくなくて、咄嗟に嘘を重ねた。

「１人で来いって！」
「……」

　男は不服そうな顔をした後に、彼女に言われて従うことにしたらしい。その場を離れていく問題児の背中を見た後、俺は彼女につぶやいた。

「大丈夫！？」
「え？」
「無理に言い寄られていたように見えたから。なんかあったら助けるから言って」
「あー、大丈夫です。お気遣いなく」
「だけど……」

「あの、この前も声をかけてくださいましたよね。どうしてそんなに気にかけてくださるんですか？」

　彼女の言葉に、顔がカッと熱くなった。

「いや、その！気にかけているとかそういうわけじゃなくて、その……聞いたよ。身寄りがないって。若いのにずっと働いてるって。大変だな、可哀想だなって思ったんだ。だから」
「……」

　拙い言葉は廊下に響くも、相槌が打たれることはない。恐る恐る彼女を見ると、ひどく冷たい目で俺を見ていた。思わず後ずさると、距離を詰めるように彼女は一歩前に出て俺の姿を上から下まで眺めた。

「ふーん」
「……え」
「わたし、かわいそうなんだ」

　先ほどとは打って変わり、ひどく冷たい声だった。彼女は同じくらい冷たい笑みを浮かべて、ふたたび唇を開いた。

「防衛隊は階級が同じなら年齢よりも芸歴が重視されるの。芸能界と同じ。知ってた？」
「……え」
「どこの部隊？長谷川小隊長？」
「え、あ」
「まあどこでもいいか。四ノ宮隊長に報告しておくね。初対面で……タメ語で年齢と学歴聞いてきた、親切な隊員がいるって」

December 3, 2025 at 12:17 PM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

「美味しい！勝己くんのはスパイス入ってるよね！？チャイみたいで美味しい。勝己くんにもあげる」
「俺はいい……いいっつってんだろ」
「いいからいいから」

　美味しいと言われてダイナマ先輩は満更でもなさそうに鼻を鳴らしたあと、デスクまで来た奥様にボンボンショコラをぽいっと口に入れられていた。されるがままなんだな、と思わずじっと見ていると目が合う。ダイナマ先輩の舌が奥様の指についたココアパウダーを舐めとるように動いていたのと、しっかり腰を抱いているのを見て咽せた。本当になんだこいつ。私にマウントとらなくてもいいし。私はシュガーマン先輩が好きだし。

November 24, 2025 at 11:20 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

💥ちゃんが浮気！？の話のモブ視点

1/2

#hrakプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「てめェマジでやる気あんのか？」
「やる気しかないんですけど！？ほら見てこのボンボンショコラ！」
「ちげえだろ目的と手段が逆になっとんだわ！チョコ作るためにこの会開いてんじゃねーんだわ俺の時間を無駄にするな時は金なりってことわざ知ってっか？あ゛？」

　なんだこいつ。今日はシュガーマン先輩と目の前のダイナマ先輩と３人でボンボンショコラを作る会だったのである。ダイナマ先輩は大変不本意そうであったが奥様が噛んでる上にボンボンショコラがお土産ということで満更でもなさそうである。なんだこいつ。その後、シュガーマン先輩と２人でご飯に行けたらと思ったけれど新作の試作をしたいと断られた。そして手伝うと食い下がったけど企業秘密だから、と断られた。悲しい気持ちを消化しきれず、事務所に戻ると言うダイナマ先輩にそのまま着いていくと心底嫌そうな顔をされてさらになんだこいつと思った。ダイナマ先輩はそのまま超高速で乱暴にフリック入力をしたと思ったら、デスクに座りキーボードを壊れるのでは？と言う強さで叩き出した。事務をやっつけるらしい。相変わらずこの事務所は寒いしお茶も出ない。いや勝手に着いてきたけどさあ！座っていいのかも迷うじゃん！一応大先輩だし！そう思いながら今日作ったボンボンショコラを立食していると怒声が響いた。

「おい立って食うな！行儀悪ィ！あとここで食ってんじゃねえわ粉が落ちるだろうが！」
「断られて傷心の後輩を慰めてくれても良くない

ですか！？」
「うるせえ黙れ」

　なんだこいつ。そう思ったけど食べるなと言われたのでボンボンショコラをしまい、常々浮かんでいた疑問を口にした。

「ダイナマ先輩って」
「略すな」
「……奥様のどんなところが好きなんですか？」
「個人情報」

　なんだこいつ。教えてくれたっていいじゃん。てゆか本当にこの人塩すぎない？ナマエさん、本当にこの人のどこがいいんだろ。そう思っているとドアが開いた。

「こんばんは！えっなんで立ってるの！？座りなよ！てゆか寒くない？」
「ナマエさん！」
「寒ィのは薄着しとるからだろうが……今日は夜から冷えるって朝言っただろうが学べや……」
「ちょっと寒いんで温度上げてもらってもいいですか？あとブレンド２つとボンボンショコラで」
「俺を店員扱いするな……」
「あっ研修中ですか？急いでないんで、ゆっくりで大丈夫です」
「新人扱いもやめろ……」

　ダイナマ先輩がさきほど高速フリック入力していた相手は奥様のようだった。た、たすかるー！と思いつつ座らせてもらう。奥様はダイナマ先輩のデスクを見て目を瞬かせたあと、つぶやいた。

「わたしが淹れてくるね。勝己くんもいるー？」
「……ン」
「上着ありがとう」

　ダイナマ先輩は奥様の肩に自分の上着をかけたあと、だるそうにデスクに戻った。そのままキーボードを乱暴に打つ音と、かすかにコーヒーを淹れているような機械音が響いたあとに奥様が帰ってきた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
「勝己くんもどうぞ」
「……ありがとう」

　なんだこいつ！？お礼言った！？当たり前の文化も人によっては驚きになるんだなと思いながら、机に置かれている箱を指さして食べていいと奥様に告げているダイナマ先輩にふたたび腹が立った。私には食べるなって言ったのに。

「ボンボンショコラだ！これ勝己くん作？」
「そうです。ダイナマ先輩はテンパリングも慣れたものでした」
「上手くできた？」
「難しかったです……」
「見たい」
「これです……あ、よかったら召し上がります？」

　私の言葉に奥様は目を丸くした。しまった。人の手作りとか嫌なタイプかも。というかダイナマ先輩の作ったものの方が食べたいよね。そう思っ

て撤回しようとした瞬間だった。

「いいの？ありがとう」
「いいんですか！？」
「どれ食べていい？味違う？」
「あ、これが一番上手くできて」
「一番上手くできたの食べていいの？」
「どうぞ」
「ありがとう」

　ナマエさんは嬉しそうに笑って不恰好なボンボンショコラを指で摘んだあと、ぱくっと食べた。

「美味しい！」
「よかった……」
「売り物みたい。えーほんとに美味しい。中のガナッシュの口溶けがいい。美味しい……」

　本当に美味しそうに食べている奥様を見て、なんでダイナマ先輩が奥様には塩じゃないのかわかってしまった。というか、こんな反応されたらみんな好きになるじゃん。そう思いながらダイナマ先輩を見ると、目が合った。

「ひっ」

　ダイナマ先輩は鬼の形相で私を見ていた。怖い。怖すぎる。なんだこいつ。敵かよ。そう思っていると奥様が「勝己くん作のも食べよう」とつぶやいたのでダイナマ先輩は私を睨みつけるのをやめて奥様を凝視している。な、なんだこいつ。

November 24, 2025 at 11:20 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

ず隣の勝己くんの腕を掴んだ。自分が選んだのにびびってるのかって揶揄われるかなと思いながら勝己くんを見ると、目が合った。そのまま肩を抱かれておでこにちゅっと唇が落ちる。……これ。このひと。気を遣ってるんじゃない。わたしの機嫌、とってる。

「……」

　機嫌を取られていると思うとなんだかむず痒くなるもので、前髪を直しながらもう一度勝己くんを見るとまた目が合った。映画ちゃんと観ろし。そう思っていると今度は唇にキスされて、ちゅっちゅと何度か吸われたので思わず肩を押した。

「や……」
「……ンで」
「映画観るから」
「……まだ怒ってんのか」
「怒ってない」
「……」

　勝己くんは不服そうにしつつも唇を離した。別にこの映画を今どうしても観たいわけではないけれど、ワガママを聞いてくれたことがなんだか嬉しくて、機嫌を取られているのもなんだか嬉しくて、とりあえず勝己くんの首筋あたりに頭を寄せた。ひょいっと膝に乗せられたのでそのまま座っていると太ももを撫でられたのでそれにはとりあえず怒っておく。

「なに」

「……やっぱまだ怒ってんだろうが」
「怒ってないし」

　いつもと逆だな。そう思うとなんだか面白くなったのでけらけらと笑っていると隣の勝己くんもなんか楽しそうだった。たまには夜更かしいいじゃん。どうせ明日も早起きしそうだけど。

November 17, 2025 at 1:16 PM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

💥と朝喧嘩して夜機嫌とられる話

1/2

#hrakプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「おまえまたナマエちゃんと喧嘩してんの？」
「……は？」

　男は現場で偶然会った同期ヒーローの言葉に目を瞬かせた。自家発電でスマートフォンを充電しつつインスタグラムを見ている上鳴電気は驚嘆を含んだセリフに首を傾げた。

「ナマエちゃんのストーリー見てねーの？」
「……」

　男は渋々スマートフォンを手に取り碌に更新していないインスタグラムを開いたが、妻の投稿を確認できなかったので「もしかしてあいつ俺のことブロックしてんのか？」と思いながらも確認するとブロックはされていないようだった。つまり。

「え、かっちゃんもしかして……見れないようにされてる！？公開リストに入ってねえの！？結婚してんのに！？やべー！……あれなんか揺れてね？地震……いや違う……これ……爆豪が怒りのあまり縦揺れしてるから……？」
「おいアホ面スマホよこせや……」
「嫌に決まってんだろ！勝手にいいねされたくねーし！」
「しねーわいいからはよしろや！」
「こ、こわ……おまえが怖がらせるからナマエちゃんも親しい友人にいれねーんだろ……」
「あ゛？」

　男は同期のスマートフォンを取り上げて自分には公開されていない妻の投稿を見た。「朝から喧嘩！」という文字が仕事前に購入したらしいコー

ヒーの写真の上で踊っている。男はキレつつ朝のことを思い出す。喧嘩したことは事実である。今日は何故か妻が不機嫌だったので普段は揉めないようなことで揉め、気まずいまま出勤しようとしたところで後ろからハグされて「気をつけてね」と言われたので男は妻を正面から抱き直してほぼオートで謝ったのだった。頭を下げたくないというみみっちいプライドよりも行ってらっしゃいのハグをしたい気持ちが勝ったのである。なんやかんや仲直りをしたと思っていた男は他人のスマートフォンを握り潰しながら縦揺れした。は？あいつまだキレてんのか？謝っただろうが折れてやっただろうがハグしただろうがと男はキレつつ「俺のスマホ壊さないでよお！」と半泣きの同期にスマホを投げた。

「つか今日切島がラーメン食わね？て言ってるけど喧嘩してるなら来ねーよな？」
「直帰して出汁取るから無理」
「直帰して出汁取るから無理……？」

★
　今日は朝から勝己くんと喧嘩したので、出勤前にスタバに寄ってスープと迷ってジョイフルメドレーを買った。たまにはいいよね。イライラしたし。今朝は喧嘩したまま勝己くんが家を出る時間になり、わたしは大大大好きな先輩であるエッジショットさんにかつて言われた「喧嘩したまま見送るのはやめてやってくれ」というセリフを思い出して、仕方ないから折れてやるかと思いながら後ろからハグをした。そもそも結婚前はよく喧嘩して連絡先をブロックしたり無視したりしていた

けれど結婚後は流石にやっていない。そもそもさまざまな敵や事件に巻き込まれまくっているので、喧嘩して拗れたまま変な展開になることは避けたい。つまり先輩の言うことは正しい。折れるのは悔しいけど。そう考えていると勝己くんの動きが止まったかと思いきやすごい勢いで正面から抱き直されてぼそぼそと謝られた。そのままいつもよりちょっと長めにハグされて見送ったわけだけど、普通にイライラはしていたので買ったラテの写真と共に勝己くんには見えないようにしてインスタグラムを更新した。仕事を終えて、今日はイライラしてるし甘いものでも買って帰るか！夜に１人で食べよう、どうせあの人早く寝るし！とおやつを買って帰宅する、と。

「ただいま」
「おかえり」
「いい匂いする。今日のご飯なに？」
「見ればわかんだろ」
「えー」

　勝己くんと仲良く穏やかに暮らすには彼の言うことを気にしないようにする、と、わかっているけれど、わかってはいるけれど、疲れていたりイライラしているとたまーに「そんな言い方しなくてもいいのにな」と思ってしまう。それで喧嘩になるんだよなあと思いながら手を洗ってうがいをしてやたらわたしの好きなものばかりが並んでいる食卓を見る。この人なりに歩み寄ろうとしてくれてるんだろうなという努力にはこたえたいので、いつも通りを心がけて食事を終えて片付けをしてそれぞれお風呂に入り、そして。

「……まだ寝ねーの」
「うん。まだ寝ない」
「……」
「映画観る」
「……ふーん」

　わたしは明日はお休みだし、今週も疲れたしぼーっとおやつを食べながら映画を観よう。お酒飲んでいいかも。なんならソファで寝落ちしてもいいかもなとぼんやり考えていると、勝己くんが隣に座った。

「寝ないの！？」
「寝落ちしねーか見張ってる」
「明日早くないの？」
「午後から」
「そうなんだ」

　珍しい。勝己くんが夜更かし。なんかわたしに気を遣ってるのかな。それはそれで申し訳ないなと思いながらサブスクリプションで映画を選んだ。切奈が面白いって言ってたホラー映画に決めて、帰りに買ったおやつをあけて勝己くんにすすめると「この時間からこれ食うんか」という顔をされたけど大人しく勝己くんもつまんでいる。口に出されてたら怒ってたかも。そう考えながらおやつを食べつつ並んで映画を観ていると。

「ひゃっ」
「……」

　びっくりどっきり怖いシーンがあったので思わ

November 17, 2025 at 1:16 PM

塩

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💥と経営科の彼女とマウントを取るｲｲﾀﾞ

※ナマエ固定拙宅設定なんでも許せる方向け

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「さむい……」
「ナマエちゃんじゃん！経営科なにやんの？」
「三奈ちゃんコス寒そうすぎる……いまから持久走だよ……経営者は体力が必要だからって……」
「持久走かあ……」

　体操服で寒そうに歩いているクラスメイトの彼女に声をかけた芦戸三奈は「授業で持久走はしんどいなー」と思った。ヒーロー科はこれから実技である。

「寒くないの？」
「寒いけど気合いっ！」
「さすがヒーロー科」
「つか爆豪もうすぐ通ると思うから待ってなよっ」
「爆豪くんのコスも寒そうだよね」
「あいつ冬はクソってキレてたよ」
「寒がりなのかな」
「ちがうちがう。個性の話」
「なるほど。共通点見つけたと思ったのに」
「ナマエちゃん寒がりなの？」
「そうだぞっ！ナマエちゃんは寒がりなんだ！」
「びっくりした！飯田じゃん！」
「飯田のコスは暖かそう……」
「夏はきついぞ！」

　急に会話に入ってきた飯田天哉に芦戸三奈は驚いた。この二人って幼なじみなんだっけ？と芦戸三奈が思った瞬間だった。

「ナマエちゃん、もうすぐ轟くんが来る。暖を取らせてもらえるよう俺から言おうか！？」

「え？」
「えー！？」

　芦戸三奈はクラスメイトの善意１００％の申し出を聞いて頬に手を当てた。と、とどろきに暖を取らせてもらうって……つまり密着するってこと！？爆豪の彼女のナマエちゃんが轟で暖取るって……やばすぎない！？もしかして爆豪ＶＳ轟見られる！？やばすぎる！てゆか誰か他にいないの！？誰かと話しながら見たいんだけど！と芦戸三奈が完全に恋愛リアリティーショーを見る体勢をとった瞬間だった。

「……あ？」
「爆豪くんじゃないか！轟くんはまだ来ないか！？」
「……神展開きたー！」

　芦戸三奈の口から本音が漏れた。まさかの彼氏が最高のタイミングで登場したのである。この感じ、爆豪キレてる！つまり聞いてたってことだよね！？愛、燃えてるよね！？ナマエちゃんどーすんの！？熱すぎる！ぜんぜん寒くない！芦戸三奈はハイになっていた。

「ンで半分野郎でこいつが暖取るんだよあ゛あ！？」
「君は知らないと思うがナマエちゃんは寒がりなんだ」
「おいおい委員長よォ……ちょっとこいつと付き合い長いからってマウント取ってんじゃねえぞ……」
「マウンド？俺はピッチャーじゃないぞ！」

「マウンティングの話をしとんだわ！」
「す、すごい……爆豪、飯田にもキレてるじゃん……ナマエちゃんどうすんの！？」
「いやそもそも轟くんで暖取るってなに……？取らないよ気まずいし」
「気まずいからだけ？」
「……」

　芦戸三奈は寒いからと腕を組んでくるクラスメイトの彼女を見て、私じゃなくて爆豪にやればいいのになと思った。

「爆豪くんが嫌だと思うことはしない」
「……超愛じゃん！？」

★
「マジで冬はクソ」
「爆豪くんも寒がり？」
「ちげーわスロースターターになんだよ」
「ふーん。わたしは寒がり」
「……知っとるわ」

　男は今日知ったことをあたかも前から知っていたかのようにつぶやき、腕の中の女を抱き直した。寮の部屋のベットに座り、膝の上に女を乗せて１ミリの隙間もなく抱きしめる。寒いからと言うのは詭弁であるとお互いわかっているが、離れ難い。どうしても。女は男の腕の中でつぶやいた。

「帰りたくないな」

　Ａ組とＫ組の寮は遠い。端から端である。寒い

し遠いから帰りたくない。そう思ってつぶやいた言葉は男の鼓膜には別の意味を持って響いたようで、抱きしめる力が強くなった。離れ難い。どうしようもなく。

★
　首筋にあたる吐息がいつもより近いことに気づき男は目を覚ました。アラームよりも前に目を覚ましたので時計を見ると、起きる時間の１５分前だった。二度寝は睡魔の質を下げると男はあくびをしつつすぐ近くで眠っている妻の顔を眺めた。寒いのはクソだけど寒がりなこいつがべたべたしてくるのだけは悪くない。男はそう考えながら脚や腕を絡めて眠っている女の寝顔を見つめる。暖房を入れるには季節的に早いがこいつが風邪引く方が厄介だなと、男が天秤を揺らす間もなく起き上がりリモコンを手にした瞬間だった。

「ん……かつきく、もう起きるの……？」
「……」
「まだ寝れるじゃん……さむいから起きないで……」

　はよ起きたし早めに走るかと思った男は寝起きの妻にふにゃふにゃ甘えられて「くっ……」と思った。アラームが鳴ってから起きて走れば十分間に合う時間である。俺はルーティンを崩さないことを選んだのであっておまえに絆されたわけではない。そう思いながら男はふたたび寝顔を見つめる。離れ難いと思ったので、思ってしまったので、まるい額に唇を落とした。

October 30, 2025 at 10:32 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

3/3

「あ、これセットしてるんだ。えーだけど服もお出かけ感ないし」
「うるさいうるさい！ボクがデートだと思えばデートだろうが！」
「じゃあ次からはデートってちゃんと言ってね」
「待て待て待て待てデートだと思ってなかった……？」
「え、うん」
「じゃあ今日は何の会だと思って……？」
「友だちと出かける的な」
「はあああああ？というか亜白と出かける時も〝ミナとデート〟とか言ってるだろ亜白はデートでボクは違うっておかしいだろどう考えても！」
「えーごめん」

　非常に軽い謝罪をした女はとある展示で足を止めた。手を繋いでいる男の足も止まる。

「待って待って怪獣エラ呼吸説！？さすがにやばすぎるちょっと手離して先行っててじっくり見るから」
「だからデートだから先に行くとかないし離さないって言っただろ」

　女は展示を見る前に男の顔を見た。展示を見ていると思ったのに、なぜか目が合ったなと女が目を瞬かせると男の頬が少し赤くなる。女はつぶやいた。

「チーク塗ってる？」
「……は？」
「なんでもない。デートならもう少しデート感出

せばよかったね。また次回」
「次回……いや待て待てデート感出してない！？これで！？」
「うん。わたしが見てる間、何食べたいか考えといて」
「……今日はきみが食べたいものでいい」
「え。……なんで？」
「……デートだからだろ」

　ぼそっとつぶやかれた言葉を聞き、女は眩しそうに目を細めた。窓がない地下には光が差さない。だけれどどうしても眩く自身を照らすので、女は目を伏せてつぶやいた。

「やっぱりヒールで来ればよかった」

October 28, 2025 at 7:57 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/3

「手繋ぐの？」
「繋ぐだろ」
「……たぶんわたしたち、見るスピード違うよね？」
「……」

　女は普段通りのカジュアルな装いの男を見て「カジュアルな感じにしておいてよかった」と思い「デート路線で行かずよかった」と内心ほっとしていた。男の中では首がよれていない、手持ちの中で一番真新しい服であったのだが女がそれに気づくわけもない。デートだと思っている男は手を繋いだままつぶやいた。

「……み」
「うん？」
「見るスピードが違っても手は繋ぎますー！はぐれたらどうする！？きみにボクを探し出せるのか！？」
「電話する」
「ぐ……っひ、ひとごみで電話は迷惑やろがい」
「珍しくまともなこと言うじゃん。てゆかなんでわたしが鳴海隊長を探すこと前提なの？」
「……え」
「え、なにその顔」
「ボクをさがさないのか」
「……」

　女は目を瞬かせた。「飽きた！帰る！」とか言い出しそうなので現地解散かもなと思って驚いたのである。

「さがさない」
「……きみはなんて薄情な人間なんだきみが誘ったのにボクを探さないなどあってはなら」
「わたしは展示を見るのに夢中だから、鳴海くんがわたしをさがして」

　男は女の言葉に目を見開いた。探さないとはっきり言われてショックを受けて萎れていた男の心に、なんだかものすごく響いたのである。

「そうならないように手を繋ぐんだろ」

　早口で言われ、女は目を瞬かせた。――ヒールを履いてこればよかったかも。もっと近くで聞きたかったから。

；
「〝水棲怪獣が鯨とともに泳ぐ姿を見たという記録があります〟……どう思う？」
「怪獣発生頻度は漁獲量と関係があるのか？」
「どうなんだろう。正確なデータってどこが出してる？討伐庁かな」
「さあ。興味がないな」
「この間大戸屋でさんま食べてたじゃん」
「話が飛躍しすぎだろ」

　博物館や美術館などは地下に作られていることが多い。怪獣大国であるがゆえに仕方がないのだろうが、建物内部に光が差すことはない。エスカレーターで下へと降りながら女は繋がれたままの手を見つめた。

「思ったよりもあっさり眺めるんだな」
「え？」
「もっとひとつひとつじっくり眺めるものだと思ってた」
「興味があるものはゆっくり見てるじゃん」
「うん。きみは案外わかりやすいなと思った」
「もっとじっくり見たかった？」
「ボクは興味ない」
「興味を持てば仕事に役立つかも」
「役には立たんだろ。役立てたいなら職場に戻って資料を見たほうがよっぽど有意義だ」
「えーここの展示も有意義だけど」
「どのあたりが？さっきからきみが足を止めるのは矛盾に気づいたときだろ」
「興味ないって言う割によく見てるね？」

　――展示には興味がないが、展示を眺めるきみには、興味がある。男はそう考えて握った手に力をこめた。ふだんよりも長い睫毛が、目を伏せたことにより影をつくるところを、もっと見ていたいと思った。

「わたしたちには討伐の対象でしかない生物を、ひとつの生物として展示している。たまには職場以外で見聞を広めないとなって思った。ずっと同じところにいると傲慢になるし」
「傲慢」
「わたしなんてずーっと同じ部署でずーっと同じことやってるからね。しかも無駄に芸歴が長いし」
「……歴の長さは関係ないだろ。結果と実力が」
「うん。鳴海隊長、いつの間にかわたしよりもずっと立場が上になっちゃったもんね」

男は返された言葉に「間違えた」と思った。敬ってほしいわけではないのである。

「〝稼ぐようになったら奢って〟って言ってたな」
「うん」

　男は女と初めて食事に行った日のことを思った。会計時にそわそわしていたら伝票を取り上げられ「稼いでる方が出せばいいから」と初めてのデートで財布を出させてもらえずかっこつかなかったのである。ちょっといいなというか、ボクを食事に誘うということはボクのことが好きなのでは！？ま、まあ……そこまで言うなら……と何も言われていないのに浮かれていたがかっこつけさせてもらえず、面白くなくなっていた男に女は「わたしより稼ぐようになったらその時は奢ってね」と言ったのである。可愛かったから許したけどたぶんきみじゃなかったら許さないからなと、許した割に根に持っている男は続ける。

「だ、だから今日の食事は奢る。……デートだし」
「え」
「え？」
「デートなの？」
「は、はあ！？」
「え、まってデートなの！？えーうそ、違うと思って傲慢だなーとか反省したり、見聞広めないとなーとかえらそうな感想言っちゃった」
「で、デートだろ……」
「いやだってなんか……鳴海くんはいつもと同じじゃん？ほら寝癖が」
「寝癖じゃねーし！ワックスつけたし！」

October 28, 2025 at 7:57 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

付き合ってないけどデートだって浮かれてるnrm

※拙宅設定何でも許せる方向け
1/3

#怪8プラス #怪8夢

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「workaholic?/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「次の休みいつ？」
「なんで」
「〝鳴海と行きなさい〟って長官からもらった。博物館の特別展のチケット。海獣と怪獣展」
「……海獣と怪獣ぅー？興味ないな。どうせ海獣は怪獣と共存しているから人類も共存していく道を模索しましょうみたいな非現実的な展示だろ」
「共通点とか世間の最新の学説とか気になるじゃん」
「間違い探しをするために？」
「……やっぱり鳴海隊長とは行かない」
「はあ！？なんで！？誘ったのはきみだろ！」
「行きたくなさそうだし。盛り上がりに欠けるから行かない。ミナと行こ」
「行きたくないとは言ってない！」
「興味ないって言ったじゃん」
「……興味はないが行ってやってもいいとは思ってた」
「行ってやってもいい？」
「……」

　隊長室で辛ラーメンを食べていた女は箸をおいてじっと男を見た。男は居心地悪そうに目をそらした。デートの誘いかと思ったら“上司にもらった〝とチケットを見せられて「功さんが行けって言うからボクを誘ったのか」と面白くない気持ちになり意地悪を言ったら“もう行かない〟と言われたのである。折れたくないがここで折れねばデートはできない。男はそう思いぼそぼそとつぶやいた。

「ボクの次の休みは二日後だ」

「声ちいさっ」
「……特別展には興味ないが常設展は興味ある」
「あ、だよね？遠足で行った以来かも」

　女の台詞に男は内心同意しつつ、はじめての食事以外のデートに浮かれてつぶやいた。

「寝坊するなよ」
「いや鳴海隊長こそ。遅刻したら置いてくからね」
「……朝」
「うん」
「朝、起きたら電話して」
「……わたし早起きだけどいい？」

　そわそわしつつモーニングコールを強請った男は「早起きって何時だよ常識的な時間だろうな」と照れ隠しでつぶやいた。浮かれているのである。

；
　鏡の前で女は服を選んでいた。――たくさん歩くかもしれないから歩きやすい靴がいい。だけどパンプスとかヒールがある靴の方がいいのかな。いやけど身長を気にするひともいるからフラットの方がいいのか？あのひと気にしそうだもんな。だけどスニーカーだとカジュアルすぎる？靴が決まらないと服も決まらないな。髪もまとめようか迷う。普段とは違う髪形でギャップを……とか雑誌かＳＮＳかで見たことあるけどどうしようかな。揺れる方がウケがいいからポニーテールがおすすめって書いてあったけど本当か？そもそも男性には狩猟本能があるから揺れるモチーフのものを身に着けたりする方が良いっていうのは都市伝説な

のか当たり前なのかどっちなんだろう。だけど鳴海くんはそういう王道でベタなのが好きそう。ザ・デート！って感じを出したほうがいいからワンピースで行く？いやけどこの間買ったブラウスが着たいかも……けどちょっとモードすぎるかもな。鳴海くんは引きそう。てゆか今日はデートなのかな。ごはんは行くけど一日出掛けたことはない。友だちと遊びに行く感覚かもなあ。鳴海くん、友だちいなさそうだけど。デートって感じの服で行って鳴海くんがスウェットで登場したら気合入れ過ぎたって恥ずかしいもんなあ。ビッグポニーのパーカーワンピにしよ。靴は厚底のスニーカーでいいか。エアジョーダンのハラコのやつ。

　女はそこまで考えてマルジェラのワンピースをクローゼットに戻してラルフローレンのワンピースを頭からかぶった。――肌はマットよりツヤの方がいいか。けどあんまりつやつやしすぎても「暑いのか？」とか言われそうだもんな。目元はあんまり色を入れずに自然な感じで、だけど涙袋は作っとこ。睫毛はもっとばさばささせたいけどやめとこ。ハイライトは塗ってシェーディングはちょっとひかえめにして、チークとリップは血色感は出したいけどナチュラルな感じで……いやこれなんか気合入ってるな。ウケを狙い過ぎてる気がする。女は途中で正気に戻り真顔になった。

「……」

　女は鏡に映る自分を見て、首を横に振った。そしてアイホールにラメを追加し睫毛をビューラーでふたたび上げてマスカラを塗った。そして迷う

なら値上げ前に買っとけと同性の上司に言われて自分で買ったティファニーのハードウェアを身に着け、鳴海ウケよりも自分ウケを優先したのである。が。

；
「かっ……」
「なに？化粧濃い？」
「……いつもよりきらきらしてる」
「いつもきらきらしてるし」
「なるほど」
「なるほど……？」

　男は「待ち合わせの方がデートっぽいな」と思い博物館前で待ち合わせたことを後悔しつつ自分の胸を押さえた。遅刻したら置いていくと言われたことと「まあ食事以外では初デートだし？」と浮かれてちょっと早く来た男は待ち合わせ場所に現れた好きな女を見て「かわいい！」とわなわな震えていた。普段はもう少しきっちりした服装に白衣を羽織っているので、ラフな服装は休日感がありなんか良い。全体的につやつやしていてなんか良い。耳についてる知恵の輪みたいなものも揺れるたびに視線を持っていかれてなんか良い。ボクとデートだからか頬が赤いのもだいぶ良い。ボクとデートだからかふだんよりも目が潤んでいるのもだいぶ良い。男はそう考えながら女の手を握った。おまえとデートだから目が潤んだり頬が赤いのではない。化粧の効果である。

「え」
「え？」

October 28, 2025 at 7:57 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

「えー……ないな。そもそも異性が周りにいない。共通の知人のみ」
「ふーん。ごちそーさま」
「よし、たこ焼き食べるかー」
「話振ったの二人じゃん！」

　急に塩対応になったので目を細めると、話を戻された。

「つかどこから浮気かって話」
「……勝己くんがわたし以外からの好意に満更でもないって思ったらそれはもう嫌かも」
「ナマエちゃんも案外重いじゃん」
「あいつあんた以外には塩どころか無だから安心しな」
「勝己くんはなんて言ってたの？」
「まーだいたい同じようなこと」
「そうそう。耳郎、マヨ取って」
「ん」
「えなに？二人とも急に興味ないじゃん」
「つかさー、ディズニー行きたくない？」
「行きたい！ナマエちゃんどう？」
「えー行きたいに決まってるじゃん」
「ユニバも行きたくない？」
「行きたいに決まってるじゃん」

★
「じゃあ爆豪はどこからが浮気だと思うわけ！？」
「はあ？てめェコーラで酔ってんのか」
「シラフで陽気なんだよ！」
「誰が陰気だコラ」
「爆豪くんってたまに卑屈や」

「陰気とは誰も言ってないよかっちゃん……」

　爆豪勝己は外野のツッコミにキレたあとぼそっとつぶやいた。

「あいつが俺に言えねーって思った時点でそうだろ」
「……なんだこいつ」
「クソロマンチストじゃん……」
「ねえ耳郎、今度ナマエちゃんにも同じこと聞こうよ」
「いいね芦戸。そうしよ」
「おい」
「なんだよ爆豪」
「おいって言うなし」
「……芦戸と耳郎」
「は？」
「うわめずらし」

　珍しく名前を呼ばれた二人は目を瞬かせた。明日は雨かと思い二人が天気予報を確認しようとした瞬間だった。

「聞いたら教えろ。言い値で買う」
「……じゃあ今度ナマエ貸して。一緒にディズニー行きたい」
「え、私も行きたい。つかユニバも行きたい」
「いいじゃん行こうよ。いいよね爆豪」
「言い値って言ったもんね爆豪」
「……てめェら……俺をクソ束縛男だと思ってンなあ……？」

October 27, 2025 at 9:32 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

💥の奥さんとじろ〜とｱｼﾐﾅでどこから浮気か話す話

※ナマエ固定拙宅設定何でも許せる方向け

1/2

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「てゆかさー、浮気ってどこからが浮気だと思う？じゃあナマエちゃんから」
「なんでわたし？つまんないよ。響香ちゃんの方が気になる」
「だって芦戸」
「いやナマエちゃんに聞くのが面白いでしょ。爆豪すごいうるさそーじゃん」
「あいつナマエのことになるとものすごくうるさくてありえないほど近いもんな」
「耳郎ウケるー！」

　響香ちゃんと三奈ちゃんはコーラを飲んでいても酔っ払っているようなテンションで話せるのが強い。そう考えながらたこ焼きをひっくり返しつつわたしはつぶやいた。今日は響香ちゃんの家でたこ焼きパーティーなのである。

「なんで浮気の話？」
「この間のＡ組会で異性の友だちと二人で飲んでたらそれは有罪かどうかって話題になってさ」
「異性の友だち」
「けど正直Ａ組の男と飲んでも無罪じゃん？ね、耳郎」
「相手によるかもなー」
「えっなに！？やっぱ上鳴と！？」
「ないない。そうじゃなくて自分の彼氏が嫌だと思ったら、うちらがないと思ってもナシかなって」
「確かにそれは言えるかも。ナマエちゃん、ちなみに爆豪はなんて言ってたと思う？」
「えー……そもそも勝己くん異性の友だちいるのかな」
「いないっしょ」
「女友だちいない彼氏って最高すぎん？いいなー

ナマエちゃん」
「心配事は少なくていいかも」
「だよねー。てちがーう！そうじゃなくて！爆豪がなんて言ってたかって話！」

　三奈ちゃんの言葉にわたしは瞬きしたあとつぶやいた。

「〝有罪に決まってンだろ〟」
「ナマエ、いま爆豪のモノマネした？」
「全然似てなくてウケる」
「え、結構似てたと思ったんだけど……」
「似てねーよ」
「全然似てない。麗日がやってた爆豪のモノマネの方が似てた」
「お茶子ちゃん勝己くんのモノマネするの！？今度やってもらお」
「あれ似てるよね」
「麗日、意外と笑いに貪欲なのおもろいよね」

　Ａ組は本当に仲良しだなと思いながら笑っていると三奈ちゃんが正解をつぶやいた。

「爆豪は有罪って言ってた」
「でしょうね」
「じゃあどこからが浮気なんだよ、て聞いたらなんて言ったと思う？」
「ボケた方がいい？」
「ボケなくていい。ガチで当てにきて欲しい」
「ウチはちょっとボケてほしい」
「迷うな」
「ナマエちゃんボケようか迷ってる？」

「うん」
「爆豪の返答で迷えよ」

　響香ちゃんのツッコミを流しながらかんがえた。勝己くんがどこから浮気って言うか。手を繋ぐ……は絶対アウト。ふたりで食事もアウト。あの人案外ロマンチストだから“自分に気があると確信した相手と仕事以外で接触したら〝とか？うーん。難しいな。“相手が不快だと思ったら〟とか？けどそれだとわたしがキスしてもいいよって思ったらキスも浮気じゃないという理論に……いや絶対嫌だけど……。

「わ、わからん」
「えーわかんないの！？」
「まったくわからん」
「じゃあナマエはどこから浮気って思う？」
「えー。急に聞かれたら迷うな」
「ナマエちゃんずーっと爆豪のだもんね。浮気されたことないでしょ」
「うん。されたら別れる」
「強」
「けど爆豪はナマエちゃんが浮気しても別れられなさそうだよね」
「つかあいつナマエと別れたら不能になるっしょ」
「わかる。一生引きずってそう」
「なんか曲作ったりしそうじゃん？仕方ないからそうなったら歌詞書いて歌ってやるか」
「えー耳郎やさしー」
「浮気しないし。勝己くん潔癖っぽいから絶対浮気したら捨てられるし」
「それが捨てられないんだなあ」

「捨てられはしないだろうけどなんかあいつ法の穴潜ってとんでもねーことしてきそうだよな」
「あーたしかに。法とコンプラとモラルのギリギリ攻めそうだよね」
「勝己くんのイメージ悪すぎない？」

　焼けたたこ焼きをお皿に盛り終えたので油を引く。響香ちゃんが生地を流し込み、三奈ちゃんがタコを入れていく。見事な連携である。

「なんか普通に勝己くん以外のひとを好きになれないと思う」
「芦戸いまの録音した？」
「してない。ナマエちゃんもう一回言って」
「いや言わないし」
「じゃあ言わなくてもいいからくわしく」
「いやふつうにわたしあんまり人のこと好きにならないし」
「じゃあ爆豪のことは！？どこを好きになったの！？あいつ性格ドブだったじゃん！」
「すげー言うな芦戸。なんか根に持ってる？」
「日頃の行い」
「ちりつもか。けどあいつナマエにはずっと優しいもんな。性格ドブだと思うことあった？」
「理不尽に怒ってくることはあったよ。喧嘩したこともあるし」
「けど爆豪しか好きになれないわけ！？なんで！？」
「う、うーん……わかんないけどたぶんそうなんだろうなって思う」
「言語化できないくらい好きなんだってよ」
「ふーん。じゃあ爆豪に言えないなって思ったこととかある？異性関係で」

October 27, 2025 at 9:31 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

3/3

何も言わなくなったので首筋から顔をあげると赤い瞳が揺れていた。好きって言われてないけど、なんかこれもう言われてるようなものだな。そう思ってけらけら笑っていると唇がふさがれた。言わなくてもわかるってことにしてあげよう。わたしはあなたの奥さんだから。

October 26, 2025 at 6:54 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/3

「足、平気か」
「痛い」
「……」

　勝己くんはわたしの言葉にふたたび眉を顰めて、鞄から絆創膏やら消毒液やらを取り出した。そ、そうかこのひと仕事から直で来たからそういうの持ってきてるのか。そう思っているとベッドに座っているわたしの前に、勝己くんが膝をついた。勝己くんが。勝己くんが、膝をついた。

「え！？」
「あ？なに」
「だ、だいじょうぶ自分でできるというか放っておけば治るし乾燥させた方が」
「縄文時代かよいまは湿潤療法が基本だわ」
「な、なるほど……じゃあ自分で」
「うるせえな」

　勝己くんは自分の膝の上にタオルを敷いたあとにわたしの足をのせてしげしげと小指を眺めている。恥ずかしい。

「……」

　勝己くんの親指が、足の小指に触れる。できた傷を労わるように、関節を確かめるように触れられて、わたしはぼんやりと思った。――わたしの小指には、関節がふたつある。無個性であることのなによりの証左。勝己くんのような、個性を持つ人には、足の小指に関節はひとつしかない。

「痛むか」
「痛い」
「ちょっと沁みるけど我慢し……あ？」

　小指に触れている手を取る。そのまま握って、引くと、着痩せする身体は簡単にわたしの上に影を落とした。個性を持っていることは現代では珍しくない。その中でも特別な個性を持つ勝己くんの肩を押すと、簡単にベッドの上に倒れた。倒れた身体の上に乗って、顔を覗き込むと驚いたような顔をしている。まあそうだよなと思いながら唇を寄せると、後頭部に手が回された。唇が重なる。

「ん……」
「……なに」
「なんでもない」
「小指は」
「痛い」
「先に薬だけ塗っとけ」
「やだ」
「……あ？」
「あとでいいから」
「痛いならよかねーだろ」

　勝己くんはぐっと身を起こした。靴擦れなんてよくあることで、痛いかと言われたらわたしには痛いけれど、このひとにとっては痛くもかゆくもない程度だろう。大げさだしちょっと過保護だなと思うけれど、嬉しい。だけど、それよりも。

「いいから。……ね」
「……」

――わたしの小指には、関節が二つある。人類の八割が授かっている自分だけの〝個性〟を、持たない、無個性。風当たりは以前よりは弱い。彼の幼なじみが、彼が、世界を、変えたから。だけど。

　勝己くんのかたくて分厚い上半身にしがみついて、首に手をまわしてじっと見つめると、彼が喉を鳴らすのがわかった。ずっとずっとわたしの心を雁字搦めにしている呪いを、どうでもいいと言い続けてくれるひと。ちょっとさわっただけで倒れてくれて、好きにさせてくれるひと。心配性で、過保護で、すぐ怒るくせにわたしには怒らないって言う。かわいいなんて言ってくれたことないし、名前だってあんまり呼んでくれない。好きだって言ってくれたことだってほとんどない。だけど嫌なことがあったら言わなくても気づくし、体調悪かったり疲れてたらすぐ気づく。気づかなくていいことでも。本当は、気づいてほしくないことでも。

「すき」
「……」
「勝己くんは？」
「……わ」
「わ？」
「わかるだろ察しろ行間読めや情緒がねえのかてめェは」
「ひどい」

　ひどいのはお互い様か。わたしもかっこいいって言わなかったし。そう考えながらネクタイをほ

どいて、ベストのボタンをぷちぷちと外すと腰に手を回された。足の小指がシーツに擦れて痛い。だけどそれよりも、目の前のこのひとが、自分のものだって、どうしても確かめたい。

「先にお風呂入る？」
「風呂は声響くけどいいんか」
「勝己くんが入るんだってば」
「無理」
「無理って」
「つか一旦退け。ゴム取る」
「はなれたくない」
「……ナマエちゃんよォ。ちょっとワガママすぎンだろーがあ゛あ！？」
「怒った」
「怒ってねーわ」

　勝己くんはわたしを抱き上げたままベッドを降りて鞄を掴んだ。はなれたくないって言ったことを尊重してくれたことが、なんだかとっても嬉しくて、そのまま勝己くんの首筋につぶやいた。

「ラウンジも行きたかったね」
「明日行けばいいだろ」
「ジムもあるって」
「……」
「明日早起きして行こうかなって思った？」
「……」
「わたしが起きるまで起きないで」
「……ンで」
「記念日ホカンスデートだから」
「……」

October 26, 2025 at 6:54 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

プロヒ💥と記念日ホ力ンスデート

※ナマエ固定/拙宅設定/なんでも許せる方向け
1/3

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「scandal/lonelyohseven」と記載されています。
以下は本文の内容です。

「かっ……」
「あ？」
「なんでもない」
「はあ？」

　今日は勝己くんの仕事の都合で流れに流れた記念日ホカンスデートである。なんなら今日も朝に出動要請があり無理かも？と思っていたのだけど、今回はどうにか大丈夫だったようで一安心した。本当は自宅から一緒に行く予定だったけど、間に合わなかったら最悪ひとりで泊まるか途中で合流と言われたのでわたしはふたりぶんの荷物と勝己くんのスーツと自分のちょっといいドレスとそれぞれの靴をキャリーケースに入れてごろごろ引きながら電車に乗った。遠いホテルを選ばなくてよかったな。近場にしておいてよかった。勝己くんは家でいいだろみたいな顔してたけど。けどそもそもリスケにリスケを重ねたわけだし。このホテル泊まってみたかったし。なかなか近場のホテル泊まることなんてないし。そう考えながらフロントに行くとチェックインは専用のラウンジでと言われてテンションが上がった。えーすごくいい部屋なのでは！？と思いエレベーターに乗ってラウンジへと向かいチェックインをした。館内施設などの説明を受けて部屋へと向かう。ガチスイートだった。さすが勝己くん。ラウンジで飲んだり食べたりできるとも伺ったけど、とりあえずごろごろしてサブスクでも見るかと思っていると、勝己くんから終わったと連絡がきていたのでチェックインしたという旨と部屋番号を送った。この感じだと夕食の時間には間に合うので嬉しい。さすがにひとりでレストランで食事は微妙なので、キャ

ンセルしてルームサービスを頼むかラウンジで何かつまむかと思っていたので嬉しい。いやまあラウンジで何かつまむでも全然いいんだけど、記念日だし。そう考えながらハンガーにかけておいたワンピースに着替えて髪を整えていると勝己くんがやってきたので、出迎えて着替えを渡した。そして。

「なんでもなくはねーだろ」
「なんでもない……」
「はあ？つか何か顔赤くねーか」
「熱ない。元気」

　仕事後だからとシャワーを浴びて、持ってきたスーツに着替えた勝己くんが新鮮で照れていると顔を覗き込まれて額と首に手を当てられた。勝己くんは熱がないことを確認した後、怪訝そうに眉を顰めてジャケットをばさっと羽織りうんざりしたようにつぶやいた。

「またサイズアウトかよ」
「ほんとだ。肩、きつそう」
「テーラーに連絡……つか別にスーツなんて着……いやジーパンにキレられンな」
「そうなの」
「ジャストサイズのフォーマルウェアを一着は持っておけってよ」
「まあそうか」

　大人だからそれもそうかと思いつつ、だけどプロヒーローがジャストサイズのスーツを持つのって難しくない！？とも思った。勝己くんは日々鍛え

ているし夏と冬で戦い方が微妙に違うらしいので筋肉の付き方が変わるらしいのである。知らんけど。このひと着痩せするタイプなんだよなあ。服着てるとあんまりわかんないけど、脱いだりヒーローコスチューム着てたりするとやっぱり上半身が分厚い。けどこうして服着てるとあんまりわかんない。そう考えながらわたしはスーツケースから靴を取り出した。

「ひさしぶりにヒール履くから足痛くなりそう」
「ンな歩かねーだろ」
「ごはん食べたらバーにも行きたい」
「……」

　勝己くんはわたしの言葉に黙った。これは「ラウンジで飲めばタダだけど記念日デートでそれを言うのは微妙」という顔である。わたしはダメ押しすべくつぶやいた。

「だってひとりで行くって言ったら怒るし」
「普通に行かせるわけねーだろ」
「じゃあ今度切奈と行くと言っても怒るだろうし」
「ひとりよりふたりの方が声掛けやすいだろうがわかれや」
「そうなの？」
「アホ面が言ってた」
「そもそも切奈はたぶん行ってくれないし」
「それは知るかよ」
「勝己くんと一緒に行きたい」
「……最初からそう言えや」

　ぼそっと言われたあとにこめかみあたりに

ちゅっとされたのでハグしようか迷い、やめた。

「……はあ？」
「いやファンデーションついたら申し訳ないなって……」
「どうせクリーニング出すわ」　
「じゃあいっか」

　背中に手を回すときゅうっと抱きしめられたので、なんかもうご飯行くのやめてこのままお部屋にいてルームサービスでもいいかなと思ったけどキャンセルは迷惑すぎるのでつぶやいた。

「ね、はなして」
「あ？……ンで」
「いきたくなくなっちゃうから」
「……てめェ……そういうのはあとで言えや！」
「最初からとかあとでとかタイミングに細かいな」
「うるせえ」

；
　創作中華は美味しかった。フレンチか迷ったけど勝己くんの反応的にも中華にしておいてよかったなと思いながらバーに行って夜景を見ながらお酒を飲んで、部屋に帰ってきてようやく靴を脱いだ。いつか片方失くしてまた買ってもらったジミーチュウのパンプスが床に転がる。ひさしぶりに履いたらやっぱり痛いな……と思いながらとりあえずバスルームで足だけを洗った。ベッドに座りタオルで拭きながら赤くなった小指を眺めていると、ジャケットを脱いだ勝己くんが眉を顰めていた。

October 26, 2025 at 6:54 AM

塩

@lonelyohseven.bsky.social

2/2

知らんけど。

「ただいま」
「……え！？」

　洗面室から顔を出して出迎えるとまさかの帰宅後即ハグをされそうになりわたしは慌てて勝己くんの胸に手を置いた。ぎゅってされたら絶対ばれる。勝己くんの胸にパールが当たる。なんだこれってなる。それは避けねばと思っているとハグを拒否られたと思ったらしい勝己くんはわたしの額と首に手を当てた。体調が悪いと思われている。

「元気だよ」
「……ならいいわ」

　いや全然よくないじゃん。不服そうな顔をしているので顎にちゅってするとそのまま顔が近づいたので、頬にちゅっとキスをした。両頬にしたあとに勝己くんはぼそっとつぶやいた。

「風呂入んのはえーな」
「汗かいたから。お風呂入る？」
「ん」
「ごはん、いまから作ろうと思ってたから入ってきて」

　これはかなりアカデミー賞に近いんじゃないだろうか。演技上手すぎない？と自画自賛していると勝己くんの赤い瞳と視線が重なる。この色、好きなんだよなと思っていると顔が近付いて唇が重なる。下唇をちゅっちゅっと吸われて、思わず首

に手を回した瞬間にわたしは「しまった！」と身体を強張らせた。抱きついたらバレるじゃん。バカすぎる。

「……あ？なに」
「な、なんでもない」
「……ナマエ」
「うん？」

　不自然に身体を強張らせたわたしを勝己くんは訝しんでいる。こうなると、か、かなり厳しい。

「なんかまた妙なことに」
「何にもない！大丈夫！」
「はあ？じゃあ何隠しとんだ吐けやコラ」
「今日はハグじゃなくてキスがしたい日」
「……あ？」
「かがんで」

　なんとかごまかし、ふたたびこれはかなり流れがいいのでは？と自画自賛しつつかがんでもらい、おでこやほっぺにちゅっちゅしてると勝己くんがわたしの身体を洗面台に持ち上げた。そのまま唇が重なって、勝己くんの身体が足の間にあるからはらはらするけどワンピースの丈は長い。両手をそれぞれ繋いでキスを続けていると片方の手を離されそうになったのでそのまま指を絡める。これでなんとか、もうお風呂に入ってくれと祈っていると足の間にかたいものが当たった。い、いやこれ。かなり悪い流れかもしれない。いつの間にかキスは深くてほぼ前戯みたいになってる。

「ん、ン……っ、ふぁ」
「ン」
「ご飯作って待ってるから、おふろ」
「風呂はゴムないからダメ」
「勝己くんがお風呂入るんだってば」
「明日なんか予定あんのか」
「な、ないけど」
「アレにしては早くねーか」
「……ち、ちがうけど」
「気分じゃねーのか」
「……」

　ぐっと目線を下げられて、上目遣いで両手を握られて問われて思わず揺れた。ずるい。普段やらないことやるのずるい。というか先にベッドで待ってるからって言って脱いでおけばいいのでは！？そう思った瞬間、勝己くんがそっと片手をわたしの手から外してすっと太腿をなぞった。

「……あ？」
「……ひゃっ」
「ンだこれ、すげー溢れてねーか」
「……ぬ」
「ぬ？」
「ぬかった……」
「はあ？」

つづく

October 25, 2025 at 6:47 AM