同僚や後輩の面倒だけでなく上司のフォローもやっていることは、オーバーワーク気味の弓を心配する同期からも聞かされていた。
何もかもに手を貸してしまうやり方は槍の考え方とは異なるが、自分を犠牲にして誰かのために働き続ける弓を、苦手と思っても嫌えないわけがそこにあった。

（いやいや、アリな方へ持って行こうとするんじゃねえよ、オレ）

べつに嫌いじゃないんだよなと頭に浮かんだその言葉を瞬殺する。
まあ普通に過ごしていればそうそう変なことにはなりはすまいと思い直し、槍は自社フロアへ向かうエレベーターに乗り込んだ。

（オレとあいつが運命？　なんでだよ…）

電車を降りて会社へ向かうあいだもずっと考える。
槍の恋愛対象は女で、男をそういう目で見たことは一度としてない。
そもそも弓とは反りが合わないので、同期であっても好意らしい好意すら持ったことは無かった。
ガタイだってオレよりいい方だし…と考えかけて、ああでも、あいつの仕事に対する姿勢は認めてるんだよなと思い直す。
確かに弓は小言が多いが、それはべつに嫌がらせとか的外れな指摘ではないのだ。
そこまで徹底せずとも仕事としては流れていくが、経験として学んでおいた方がいい点も多い。

カーテンから差し込む陽の光で知らされる朝の訪れ。
いつもと変わらぬルーティンの後で満員電車に乗り込んだ槍は、どこか浮かない顔をしていた。
昨日、占いで云われた「運命」という言葉が気になって仕方がない。あの占い師を信じるなら弓がその相手ということになってしまうからだ。
一度はまさかと一笑に付したものの、あれから弓のことが頭から離れなくなってしまい、きょうはすっかり寝不足の槍。
昨夜はあまりに寝付けないので暇潰しがてらネットで「F木の母」を調べてみたのだが、占いが当たったという評判ばかりがわんさかと出て来て思わずケータイを落としてしまった。