「今なら朝定も食えそうだな」
「あんたどんだけ食べるの?」
「朝定か牛丼かで迷ってんだよ」
「ああ、そう」
「お前朝定食えよ。鮭を少し分けてくれ」
「……良いけど。あんたも何かくれよ」
「あ?鮭くれたらな」
伊藤さんは歩き出したのか「行くぞ赤木」と急かしている。鞄の中の空のペットボトルをゴミ箱へ落とした時、白髪の男が「あんたも赤木でしょ?」と朝の澄み切った空気の中、小さな声でも通る声音で囁いた
「今なら朝定も食えそうだな」
「あんたどんだけ食べるの?」
「朝定か牛丼かで迷ってんだよ」
「ああ、そう」
「お前朝定食えよ。鮭を少し分けてくれ」
「……良いけど。あんたも何かくれよ」
「あ?鮭くれたらな」
伊藤さんは歩き出したのか「行くぞ赤木」と急かしている。鞄の中の空のペットボトルをゴミ箱へ落とした時、白髪の男が「あんたも赤木でしょ?」と朝の澄み切った空気の中、小さな声でも通る声音で囁いた
伊藤さんの前で立ち止まった男は、胸ポケットから取り出した煙草に火をつけ、口から煙を吐き出す。その姿は壮麗で、どこか人を寄せ付けない危うい雰囲気が漂っているも、「丁度よかった?」と伊藤さんへ話し掛ける姿は柔らかなものだった。
不躾な視線に気が付かれないように、しかし気になる彼等の動向を見届けたいが為に時間稼ぎで、その場からゆっくりと歩きゴミ箱の前へと移動する。
伊藤さんの前で立ち止まった男は、胸ポケットから取り出した煙草に火をつけ、口から煙を吐き出す。その姿は壮麗で、どこか人を寄せ付けない危うい雰囲気が漂っているも、「丁度よかった?」と伊藤さんへ話し掛ける姿は柔らかなものだった。
不躾な視線に気が付かれないように、しかし気になる彼等の動向を見届けたいが為に時間稼ぎで、その場からゆっくりと歩きゴミ箱の前へと移動する。
店内からチラチラと喫煙スペースで煙を揺らす伊藤(赤木)さんの後ろ姿を確認しつつ、お茶やおにぎりを購入した。
店内からチラチラと喫煙スペースで煙を揺らす伊藤(赤木)さんの後ろ姿を確認しつつ、お茶やおにぎりを購入した。
「560円です」
「あ、……はい」
震える手で財布を漁って千円札を取り出す。清算を終えコンビニを出て、職場へ向かうも頭の中は『伊藤』が『赤木』になった事でいっぱいだった。もしかして制服を借りてそのままのネームプレートで業務をしていたのかもしれない……!名案が思い浮かんでスッキリとした面持ちで改札を抜けた。
「560円です」
「あ、……はい」
震える手で財布を漁って千円札を取り出す。清算を終えコンビニを出て、職場へ向かうも頭の中は『伊藤』が『赤木』になった事でいっぱいだった。もしかして制服を借りてそのままのネームプレートで業務をしていたのかもしれない……!名案が思い浮かんでスッキリとした面持ちで改札を抜けた。
伊藤さんとの接点は一分にも満たないレジでの精算だけで、彼の人となりなんて何一つとして知らないけれど、自分は何故か彼に親近感を抱いていた。彼ともっと話したいとか仲良くなりたい、なんていう疾しい下心は無いし、こちらの事を知って欲しいとも思わない。彼の素っ気ない態度が何故か心地よかった。
伊藤さんとの接点は一分にも満たないレジでの精算だけで、彼の人となりなんて何一つとして知らないけれど、自分は何故か彼に親近感を抱いていた。彼ともっと話したいとか仲良くなりたい、なんていう疾しい下心は無いし、こちらの事を知って欲しいとも思わない。彼の素っ気ない態度が何故か心地よかった。