ノンマルトの末裔@読書
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ノンマルトの末裔@読書
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読んだ本の印象に残った一節でも記してみようかと。 感想を書くのがとても下手なのです。
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アメリカ人捕虜と警備兵がようやく地上に立ったとき、空はまっ黒い煙でおおわれていた。太陽は、針の先ほどの怒れる光点であった。そこに見るドレスデンは、鉱物以外に何もない月の表面を思わせた。岩石は熱かった。近隣の人びとはひとり残らず死んでいた。
そういうものだ。

「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア

#読了
……僕は日本語を勉強して初めて、人間関係の本来のややこしさに気づいただけなのではないか。あるいは僕はただ、最初から人との距離を詰めるのに苦労していただけで、第二言語に入ってから母語の機微でごまかせなくなったのかもしれない。

「言葉のトランジット」グレゴリー・ケズナジャット

#読了
途轍もなく広い海が宇内を巡っている。宇内を「世界」と名づけたのは誰だったろう。北前船の熟練の船頭である美濃屋の仙六さんは、すでに何年も前から宇内という言葉は使わなくなった。
彼の口からは自然に世界という言葉が出る。
俺も世界という言葉を使おう。

「潮音 第一巻」宮本輝

#読了
「その人がほんとに大事な人なら、大事にしろよ」
「何それ」
「大事な人は、ほんとに大事だからな」
「だから何それ」
そして父はさらに意外なことを言う。
「おれみたいに、いい加減なことはするなよ。大事な人を適当に扱うようなことは、するなよ」

「あなたが僕の父」小野寺史宜

#読了
郡原が甘槽に尋ねた。
「どんな具合だ?」
「あまり頼りになりそうにないですね」
「キャバクラがどうのって言ってたな?」
「はあ……」
「行くときゃ、俺も連れてけよ」
なんでだよ……。心の中でそう思ったが、そんなことはもちろん言えない。
「はい……」
力なくそうこたえた。

「マル暴総監」今野敏

#読了
「お父さんの言語が、徹底的に選挙用になってることはわかった。でも、わたしが求めてるのはそういう言葉じゃないんだよ。社会に向けた言葉じゃなくて、自分とか家族とか、仲間のための言葉っていうか……。お父さんの「ほんとう」の言葉で話してほしいんだよ」
「ほんとう?」
「えーと、……わたしは、お父さんと、きちんと会話がしたい」

「ほくほくおいも党」上村裕香

#読了
言葉は時として、心を突き刺す刃と化します。人の身体ではなく、精神を傷つける唯一の凶器。
内側から崩れ落ちた人間の絶望は、何人も入り込めない闇深い世界です。そしてその闇は、決して遠くにあるものではなく、手軽な通信機器とつながった薄氷の日常に潜んでいるのです。

「踊りつかれて」塩田武士

#読了
この人たちは知っていたのだ、自分の死が天災による、嘆くしかない死ではなく、人災による(だから必ずしも死ななくてもいい)死であることを。自分はいま人間の仕掛けた罠にかかって死のうとしている! 犯人がいるのだ! そやつを許すことはできない!

「この世界の片隅で」山代巴 編

#読了
暖色光に照らされた友人の横顔は少し弱っていて、初めて彼が棲む世界の孤独を覗き見たような気がした。――この事件の根底にある感情のうねりを、僕は知りたい。
彼を謎に向かわせる欲求は、人ならざる感情を持つ彼が、人間に近づこうとする行為そのものなんじゃないか?

「禁忌の子」山口未桜

#読了
ヒグマに押さえつけられた。鼻息が顔を撫でた。獣の臭いが涎となって顔にかかる。肩を咬まれた。
「離せ!」
また振り回されて、空中を飛んだ。落ちた瞬間、体を押さえられた。頭を咬まれた。頭の皮全体がめくれて顔にべっとりとかかった。

「シャトゥーン ヒグマの森」増田俊也

#読了
そこには、「好き」「好き」「好き」「好き」――何度もそう書かれた、見覚えのない手紙の一部を撮影した写真と、「何人も好きとかこいつクソすぎ」という短いフレーズが記されていた。手紙の上部には、ホテルのロゴが印刷されている。

「7人の7年の恋とガチャ」大前粟生

#読了
「さびしいのね、人も団地も」
その言葉にはっと顔を上げた。
桐子がつぶやいていた。
「さびしい、か。なるほどそうかもしれない」
「さびしさというのはなかなかやっかいよ。さびしさのせいで人はつぶれるし、お金もなくすし、犯罪も犯す」
桐子は悲しそうに微笑んだ。

「一橋桐子(79)の相談日記」原田ひ香

#読了
空飛び器という名称がうかんだ。が、なんとなく軽い感じがし、もう少し重みのある名称にしたかった。紙に文字を書いては検討し、種々思案した末、最もふさわしい名称を思いついた。……それは、飛行器という名であった。

「虹の翼」吉村昭

#読了
「おい」
甘槽は立ち止まり、振り返った。
「何だ?」
「もし、俺がグレてなくて、あんたが警察官じゃなかったら、いっしょに飲みに行ったりできたかな」
甘槽は、その言葉に驚いた。何も言えなかった。
すると、アキラは苦笑を浮かべて言った。
「いいんだ。今の一言は忘れてくれ」

「マル暴甘糟」今野敏

#読了
「どうやって?」と沙彩が問う。
「それはわからない」
自信満々に答えた。思わず、という感じで沙彩の頬がゆるんだ。
「奇跡を信じない限り、奇跡は起こらないんだよ。サバイバーズは生き残るし、沙彩は死なない。根拠なんかなくても、いくらでも断言してやる」

「サバイブ!」岩井圭也

#読了
「おう、平塚君か? いまどこにいる?」
「拘置所です」
「君は……まだやっていたのか? 苦労をかけるな」
「課長、まだ一部自供ですが、小原が落ちましたよ。見通しはつきました。ご安心下さい」
「……」
津田の声は跡切れた。かわって、すすり上げる気配が受話器の奥にあった。

「誘拐」本田靖春

#読了
来た道を戻ろうと振り返った時、誰かの叫び声が聞こえた。
目の前に若い男が立っている。
どこかで会ったことがあるような気がした。
いやそうじゃない。
これは、あたしだ。
あの頃のあたしと同じ目をした男が、目の前に迫ってくる。
その手に刃物を握りしめて。

「青い鳥、飛んだ」丸山正樹

#読了
「忙しい二人が時間を割いてくれてるからさ。常に一緒に行動しなきゃいけないわけだし、いろんな面で苦労をかけてると思ってる。だから言えるときにありがとうは言っておかなきゃね」
垂れ気味の丸い目を真っ向から合わせてくる赤堀に妙な気恥ずかしさを感じ、岩楯は意味もなく咳払いをした。

「18マイルの境界線 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

#読了
手の甲で涙をぬぐい、勢いをつけて立ち上がった。
試されていると思うから、萎縮する。わたしから挑み、試すのだ。わたしたちの――日本の科学の力を。そして、相手の力を。
頼もう、頼もう。この道場で一番強いやつを出せ。世界で一番のやつを出せ。

「翠雨の人」伊与原新

#読了
医学士は真蒼になりて戦きつつ、
「忘れません。」
その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人は嬉しげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばつたり、枕に伏すとぞ見えし、唇の色変りたり。

「外科室」泉鏡花

#読了
「何しょーるなら?」「穴探してるんだ。穴、なかったか?」「穴あ?」子供は顔を見合わせると声を揃えて、「そんなん、この辺、穴だらけじゃあ!」と叫び、一人が躍り上がり、そして地面の中にすっと消えた。義兄ともう一人はけらけら笑った。
私は呆然としていた。

「穴」小山田浩子

#読了
初めて聞く桐生の大声に、可憐は息を呑んだ。
「おれのせいにしろよ。不幸が続いたら、生きてられないくらいしんどくなったら、全部おれのせいだと思え。なんなら、殺しに来てもいい。大丈夫、おれは臭いでちゃんと避けられるから、心置きなく襲ってきていい」
にや、と桐生がぎこちなく笑う。

「蛍たちの祈り」町田そのこ

#読了
研心はさらに大きな声を出す。
「丸美市立みんなの図書館のみんなとは、ここにいる『みんな』のことです。『まるみかん』がなくなるということは、みんなの新しい世界への入り口がなくなってしまうということだと思います」
体育館はしんとしずまった。

「まるみかん大一番」まはら三桃

#読了
幸せになってよ、と明章が言う。体つきは大人になっても、子どもの頃からまったく変わらない屈託のないその笑みに向かって、
――あんたは、あたしが好きだったんじゃないの?
と來春は言う。もちろん、ほんの冗談のつもりだった。ところが明章は真顔になったのだ。

「恋恋往時」温又柔

#読了
「大明が滅びて以来、わが剣は枕元で血涙を流し続け十七年になる。進退は思うにまかせず、罪深さが日々に募るばかりだ。今や遠く地の果てに至り、まもなくこの世を去ろうとしている。忠と孝はいずれも果たせず、やすらかに死ぬこともかなわぬ。天よ。この孤臣を、どうしてここまで追い込むのか」 

「南海王国記」飯嶋和一

#読了