#にほへし小景
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ほりものについてゲーム内で語っているのはおおくりからと小竜景光くらいかな？
しかし刀身にほっている刀はほかにもいるよね？骨喰、日本号、浦島とか
今後言及されることはあるのだろうか
しかし動画おおいなw 結構好評だったりしたのか
https://www.youtube.com/watch?v=j5poKQBjA8M
倶利伽羅龍王伝説 第二章 後編(語り・CV：古川慎)
「倶利伽羅龍王伝説」　第二章　後編(語り・CV：古川慎)倶利伽羅峠の伝説をもとに、オリジナルストーリーにして2Dアニメ化したものです。舞台は第一章の物語から百年後の倶利伽羅峠。再び災いが訪れることを予見していた時の帝は、空海へ秘密裏に倶利伽羅山(砺波山・となみやま)へ調査に向かうよう命じる。村の青年 火丸(ひまろ...
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September 22, 2025 at 9:58 AM
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昼につぶやいていた「酒の予算増額目的でじゃれついて、長谷部にプライドねえのかと突っぱねられ、小遣い稼ぎにきざみ煙草作ってた日本号くん」の話です、変な話だなあ！！　1/2
#にほへし小景
　本丸内の来期予算案が出た日、酒飲み連中は頭を抱えた。酒代が今年度予算より約三割削減の憂き目にあっていた。この本丸では、酒代は食費、娯楽費とは別建てで予算が組まれている。以前は神事、催事費用に組み込まれていたのだが、突発的な歓迎会や祝勝会も多く、酒に限定した枠で組むことにしたのだ。二年ほど運用してみて、本丸の金庫番はもっと削減してもいいと判断したらしい。金庫番とは、博多藤四郎とへし切り長谷部である。 　すでに博多にそれとなく伺いをたてた者はいたが、別に元手が無いわけやなし増やせばよか、とそれは博多の運用手腕があるから言い切れるのだと泣きたくなるような言葉で突っぱねられて帰ってきた。 　弱り果てて自腹の酒を飲んでいる中で、次郎太刀が冗談半分に言ったのだ。連れ合いからねだってごらんよ、と。言われた時点で、たぶん無駄足に終わるだろうと予測できた。あれは情の深い刀だが、情をかけることと 甘やかすことがまったく同義にならない男でもある。おまけに仕事に対する責任感が人一倍強い。日本号がえらい目にあっていたら、不甲斐ないが先ん立ち、どうにか片付けて戻って初めて、それでこそ隣に立つにふさわしいと満足げに笑んでいるような奴である。そういえば、右府様も似たところがあった。いや、あれが似たのか。 　とはいえ、長谷部に軽くたしなめられるのも日本号は悪い気はしない。だめで元々で自室でじゃれついてみた。長谷部は書き物をしていたが、急ぎの用では無いのか、日本号のちょっかいに苦笑しながらも乗ってくれる。本題の切り出し方も、我ながら悪くはなかったと日本号は自負していた。それほど深刻でもなく、しかし耳を傾けるくらいはしてやってもいいような、親密な間柄のねだりだ。 　それで寄越されたのが、真冬の日本海の荒波よりもなお凍えるような、冷たい視線である。 「貴様は金のために己を安売るのか、見下げ果てたものだ」 　とても数秒前まで、膝に乗る寸前で顎の下をなでられていた者の言葉とは思えないが、正真正銘長谷部の物言いである。長いこと連れ添った相手のじゃれるようなねだりに、よくもそんな視線をくれてやれるものだと、一瞬ではらわたが煮え繰り返る。日本号を手放した家の名前を出さなかったのは、長谷部のせめてもの礼節だろうが、どうにも皮肉られたようで胸糞が悪い。 　しかしその一方で、満足してしまっている己もいる。御刀ならばそれくらいは言うだろう。まして己の連れ合いだ、その程度の矜持は持てと要求するのも無理からぬことだ。ふれたら切れるような視線に晒されて、業腹なのと満ち足りる気持ちとがないまぜになって、半端な表情になった。喧嘩をするにも、腹が決まっていなければ負ける。これでは、始める前から勝負あったようなものだ。 　すまん、撤回する、と潔く日本号の方から白旗をあげて、余計なことはせずに早々と床についた。日本号が起きている間、長谷部は近づきもしなかったが、朝起きた時にはいつも通りに腕の中にいた。放念してもらえたらしい。 　日本号はのこのこと酒飲み仲間のもとに現れて、失敗した、と結果を告げた。やっぱりね、と皆が納得し、最終的には経理方と交渉はしつつも、金策もする、という穏便な結論に落ち着いた。金策の手段も様々だが、まずは労働である。手近なところとして、桑名がこちらも小遣い稼ぎに作っている煙草の葉を買ってきて、刻み煙草を作ることにした。 　細く髪の毛ほどにも刻めると、葉で卸すよりも良い値がつくし、市が立つ日にも売れる。健気にせっせと煙草を刻んでいると、本丸の中でもぽつぽつと贔屓にしてくれる者が出てきた。俺たちは何をやっているのだかと苦笑しながらも、ぶつくさ言いながら作業をするのは案外楽しいものだ。
June 29, 2025 at 2:09 PM
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もはやそんなににほへしではない、黒田三姉妹の二月フレンチ満喫コース　1/3
#にほへし小景
どこにでも現れる２　黒田食事会 「今日は俺が仕切らせてもらう」 　はいはい、お兄様にお任せしますよ、と日本号が笑い混じりに受けると、背後の長谷部からアキレス腱を革靴のつま先で蹴られた。勝手に弟分としてまとめるなという抗議である。でかい男三人がわちゃわちゃとしながら近づいていっても、さすがの名店は淀みなくドアを開けて、にこやかに迎え入れてくれた。 　二月最初の休館日には、三名で食事に出るのがこのところの慣いになっていた。日光の展示期間かつ、長谷部もまだ起きている時期である。別に誰が仕切ると決めているわけでもなく、長谷部や日光があれが食べたいと言い出すこともあれば、数年ぶりだからとなんとはなしに寒鰤を食べにいくと決まることもある。複数人の方が都合が良いメニューが採択されがち ではあるものの、去年は寿司で、各自てんでんばらばらに好きなものをつまんでいたので、本当にそのときの気分で決まっている慣いである。 　今年も一月からちょくちょく起き出していた日光がやにわに現れて、俺は久しぶりにプロのペアリングを正面から受け止めたい、なればフレンチ、正統派のやつだ、と口を挟む暇もなく一気に決めてしまった。別に異を唱えるような計画でもないので、長谷部も日本号も丸投げである。予約をした店の名前を聞けば、接待や顔合わせにも使われる名店だ。服装だけ気をつけて行けば、あとは仕切り屋とスタッフに任せて美味しい思いができるので、楽なものである。 　各自メニューを真剣に吟味し、オーダーを決める。今日の酒はすべて日光と店のソムリエによって決められるので、日本号も長谷部も食事のことだけを考えておけばいい。やかましいのがいると、任せきりにしておけて便利がいい。食前酒と合わせて、アミューズがサーブされる。 　冷前菜はいずれも山菜が使われた皿を選んだ。一杯目は三名共通の冷えた白で始まる。抜栓したワインが、テイスティング用にほんの少量、日光のグラスに注がれる。ふくよかでいい香りだ、と満足げに薄く微笑んでうなずく。ソムリエは品よく笑って、山菜の鮮烈な香りに負けず、旨みの強いものを選んだと説明をしてくれる。長谷部と日本号は、そういうものかと思いながら口にして、取り合わせの妙に納得しながら、グラスを心持ち大きく傾ける。 　ほたてと大根、ふきのとうのテリーヌは、うすべに色のほたてに、色鮮やかな赤や黄色の大根をブロック状に組み立てていて、見た目にも美しい。これは日本号の皿だ。長谷部が言うところの、ちまちまとした皿、をこの大男が組み立てを崩壊させずに、品よく口に運んでいる姿は、それなりに見ていて楽しい。もっと気楽なビストロなどにいくと、まだ若いスタッフなどは見た目の印象に引きずられるのか、長谷部の方に繊細なテリーヌを、 日本号の方に骨のついたローストなどを置いていきがちだが、実際のところは逆である。別にどちらも食べるつもりではいるので、一口失敬して、皿を交換するのが慣いになっている。 　長谷部はというと、赤身肉とセリ、うるいのタルタルを口に運んでいる。生肉があれば、必ず頼むのは長谷部である。鳥刺し、または馬刺し目当てに、熊本から鹿児島にかけての出張仕事はないものかと、不埒な計画をぼやいている。それならば俺は広島、もしくは夏の三陸がいい、などと私利私欲に殉じているのは日光である。手元には、すでに空になった生牡蠣と山うどのマリネの皿がある。出張仕事などもう数十年もしていない日本号にしてみれば、羨ましい話だ。 　温菜からは、それぞれの皿に合わせたワインがサーブされる。白子のソテーにエシャロットのバターソース、走りのホワイトアスパラのビスマルク風、フォアグラのソテーのスープ仕立てときて、ロゼ、オレンジ、赤と
June 22, 2025 at 9:17 AM
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太宰府出張中の長谷部・日光さんと、そこに差し入れにいく日本号くんの話（未完）1/2
#にほへし小景
　七月も始まったばかりだというのに、すでにうんざりした暑さの中、日本号は土産の紙袋をぶら下げて博多駅に向かった。こんな日はさっさと地下に下りてしまうに限る。ちらりと大宰府行き直通バスの混雑具合を覗いてはみたものの、早々に見切りをつけた。それなりの本数は来ているもののの、休日ともあってか長蛇の列ができていた。これならば、下手に待つよりは電車で行ってしまう方が早い。 　道中、訪日観光客に太宰府までの道順を聞かれ、旅は道連れとばかりに一緒に向かうことにした。なにせ出自も持ち主もここに行き着いた道筋も多種多様に富んだものたちで、長いことひとつ屋根の下にいるのだ。片言であっても、お互いの言葉で多少は何事かを言えるようになっている。まして己がいる都市は、アジアの玄関口である。隣人たちはずっと共にいた。また博多駅には戻ってくるというので、大きなスーツケースを預けられるロッカーを共に探して、のんびりと電車に乗り込んだ。 　日本号に限ったことではなく、観光客が多い館の収蔵品は、片言でもよその国の言葉を覚えていくものだ。厚などは、もはや何ヶ国の言葉を話せるのか、自分でも把握ができていないと言っていたから、己は大したことがない認識でいる日本号である。しかし正三位という位階も伊達ではないもので、漢詩にはまずまず明るい。だから喋るよりは、書いた方がまだ正確に伝わる。手持ち無沙汰に、いくつか覚えている詩を書きつけてみせたら、からからと笑われた。そんなに若いのに、お年寄りみたいなことを知っている、だそうだ。そう若くはないんだと半分冗談、半分本気で返せば、冗談と思われてまた笑われる。読んでみようか、と言うので紙を預けた。水の上をすべるように進む、帆船のように軽やかで早い言葉だ。博多の街に昔から響いていた音だ。金印は、今でも自分の言葉を忘れてはいない。 　タッパーに詰めたあまおうを回されて、勧められるままに一粒頬張る。 日本号が持っていたキャラメルをお返しに渡すと、歯の詰め物に気をつけなきゃ、と身振り手振りで伝えて笑うので、どこの国でもよくある失敗らしい。日本号が歯に詰め物をする機会など巡ってこないのだが、すぐ取れるからな、などと知ったような口を聞く。 　太宰府の駅に降り立つと、博多の街中と暑さはさほど変わりなかった。旅の道連れとは、参道の入り口で別れた。帰りの乗り換えの駅名を、日本号が何度も繰り返したので、向こうも特定の駅名の発音ばかり達者になる。さすがに博多行きはどうにかなるだろうと思いながらも、何度か振り返る。手を振っている。ごった返す人々の中で、さまざまな国の言葉が飛び交う。 　人助けもしたことだし、水分補給も許されようというもので、駅前にあるブルワリーで一杯聞こし召て参ろうと思ったら、見知った先客がいた。笹貫である。パイントグラスを傾けて、店内のカウンターに肘をついてもたれていた。おまえさん、仕事中だろと悪い顔で小突いてやると、君らは 連れ合い同士で同じことを言うんだねえとやり返された。まあ長谷部ならば言うだろう。日本号が言う方が珍しいのだ。 　今回の日本号の目的は、太宰府天満宮ではなく、その奥にある博物館だ。今夏の展示には、長谷部と日光が出張している。本丸での顔馴染みも笹貫を含めて幾名か来ると言っていたから、慰労も兼ねてやってきたのだ。明日月曜は博物館も休みなので、日本号は今日から明日にかけて、こちらに滞在するつもりだ。 　複数種類の飲み比べができるセットをもらって、その中のひとつを一息で半分ほど飲み干す。さすがの黒田武士、いい飲みっぷりだ、と茶化すような横槍が入る。笹貫も古刀の域に十分含まれる年だが、本丸ではあまり意識した試しはなかった。しかしこうして酒場で行き合って一対一で接してみると、なかなかどうして、食えない古狸である。 　ひとまず冷たいビールを入れて、調子づいてきた。一杯目は柑橘の香り
June 19, 2025 at 2:13 PM
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お役御免となった長谷部たちがご実家に戻ってきて、たまに覚醒する長谷部と年中起きてる日本号のにほへし話。今回は日本号の方が少し寝てる。　1/2
#にほへし小景
雨を覚えている 　長谷部が季節外れの覚醒で展示室まで出てきたら、珍しく日本号が寝ていた。それも開館日の昼間、普段展示されているあの展示台でだ。たいていの付喪神たちは、こんなところでは眠らない。長谷部たちが「裏」と呼んでいる領域に引っ込んで寝るのが常だというのに、珍しいことだ。同じ展示室にいるものに尋ねてみれば、午前中は起きていたようだから、ほんのうたた寝だろう。 　なにせ全長があるもので、少し体を丸めて寝ていると、龍がとぐろを巻いたらこんなものだろうと思う小山にも似る。小山のそばに腰掛けて、背中にもたれかかる。みっしりとした肉と太い骨が布越しにふれて、温かい。長谷部だってけして軽くはないのだが、持たれかかる重みをものともせず、日本号はすっかり寝入っている。 　まんじりともせず、長谷部は眠る日本号を見ていた。ずいぶん長く見ていたと思っても、時間の進みは遅い。己が眠っている間、この男も遅々とした時間を過ごしているのかもしれない。お役御免となったとき、自分たちの関係が、今後時を経てうやむやになることも致し方ないだろうと、長谷部は思っていた。待つのは疲れる。自分たちは、肉体の時間を知ってしまった。一年の大半を寝ている自分と、年中出ずっぱりの日本号では、なおさら時間の感覚が変わってくる。それに日本号は、けして気の長い男ではない。かつて本丸で、何かの拍子にそう言うと、妙な顔をされたものだ。長谷部に付き合う日本号は、本当に根気強く気の長い男に見えたらしい。じりじりと炙られるような視線に晒されていた長谷部には、笑ってしまうような話だった。 　しかし、まだこの関係は終わる気配を見せない。長谷部が起きてくるたびに、この年下の槍は毎度毎度飽きもせずに嬉しそうにする。長谷部は、 自身が嘘を見抜くのが不得手な自覚はあるが、あの表情が嘘ならばなんにも信じられるものなどないなと思う。自分が眠っている間、この男がどう時間を過ごしているのかはほとんどが不明のままだ。おそらくは博多の街中を、縦横無尽にほっつき歩いているのだろう。 　しばらく日本号を見ていたが、じきにふんぎりをつけて立ち上がった。金印の部屋に顔を見せに行き、他の収蔵品たちのところにも声をかけにいく。ぐるりと一巡りして日本号の部屋に戻ってきたが、男はまだ眠っていた。しばらく日本号を座椅子代わりにして、展示室にやってくる客をぼうっと眺める。 　雨降ってきたよ、と来館者の声がした。その声にぱっと弾かれるように立ち上がり、長谷部はひとりで館外に出ていく。来館者が言う通り、たった今降り出したばかりの雨は、アスファルトを湿らせて甘くぬるく香る。 　日照雨だった。薄明るく、しかし雨はさあさあと降っている。雨足はさ ほど強くはなく、それほど長くは続かないことを予見させた。長谷部は博物館の脇を抜けて、裏手の海に出る。砂の上に敷かれたウッドデッキをひとりで歩く。傘は携えてこなかった。雨に濡れてみたかったからだ。長谷部の得られる機会は、そう多くはない。この機を逃したら、次は何年先になるか知れたものではない。そう思うと、いてもたってもいられなかった。 　お役御免の通達があって、少しの間は猶予があった。別れの準備くらいはさせるつもりだったのだろう。その間はこれが最後だからと思うとなんだか気が急いてしまって、時間が限られている人間もこのように急いた気持ちで日々を過ごしているものかと気になった。それで当時の主に尋ねてみたが、からからと笑われたのだった。主はひとしきり笑ってから、おまえほど真剣に生きているものは人間でもそうはいるまいと言った。同じ日は一度だって無く、同じ雨もけして降らない。お前ならば、これから降る雨の全てを覚えることもしてしまいそうだが、そんなことはしなくともよ
June 15, 2025 at 8:18 AM
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時期外れに起きてくる長谷部の、昼酒飲んでるにほへし　1/2
ALT代わりに、このリプライツリーの最後にふせったーのテキストURLを貼ります。
#にほへし小景
June 10, 2025 at 12:27 PM
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７月ガタケ発行予定のにほへしご実家本に収録予定、台風の夜に起き出してきてしまった長谷部　1/2
#にほへし小景
　深夜、雷鳴とどろく嵐真っただ中の博物館である。非常灯と避難口の緑のランプが灯るばかりで、当然人っ子一人いない。大型台風の接近に伴い、今日は早仕舞い、明日は臨時休館が決まった。人っ子どころか、収蔵物も今夜ばかりは身を潜めておとなしくしているものが大半だった。紙や布、木を支持体とするものたちは、湿気の多さでどうも調子が狂うと言う。また金属からなるものたちも、塩気が強い夜だと引っ込んでいた。このあたりの暴風雨には、すぐそばの海水も多分に巻き上げられているせいか、台風の日はそこはかとなく潮臭い。天候にさほど調子を左右されない焼き物連中も、周囲がおとなしくしているものだから、騒ぐ気にもならないようだった。 　常からふらふらと館外をほっつき歩く力のある日本号や金印は、さほど湿気も塩気も気にしないたちだが、台風など今さら物珍しくもない。金印の部屋で少しばかり立ち話をした後は、日本号もさっさと引っ込むつもり だった。 　部屋を出て、大階段の二階からひょいと階下の玄関前ホールをのぞきこむ。建物の正面に立つ立派なアーチを抜け、少し奥まったところにある博物館入り口までは、雨もかろうじて届いてはいないようだった。この建物は、たいていの家屋よりもよほど頑丈に作られているはずだが、しかしそれでも外壁に叩きつける雨風の音は、館内にまで響き伝ってくる。時折ぱっと光が射し込み、間髪入れずに雷鳴が空気を震わせる。一瞬の雷光で照らされたホールの中、日本号はガラス張りの窓辺にぼうっと立っている者を見つけた。 　人間ならば悲鳴のひとつだってあげても良さそうなシチュエーションだが、日本号は別の理由で面食らう。正面の大階段を足早に下りながら、長谷部、と呼びかける。人影はわずかに声の呼ぶ方へと振り向いたが、返事もせずにすぐにぷいと窓の方へ向き直ってしまう。つれないというよりは、 長年の連れ合いだからこその油断と思いたいが、己よりも夜の台風の方が優先順位が高いことは業腹である。 　おまえはなんだって、よりにもよってこんな日に起きてくるのだと言いたくなるところをぐっと堪えて、背後に立つ。長谷部がガラス越しに見つめる先には、普段は静かに水を湛えている池がある。水面などは見えないが、横の駐車場や通路に沿った街灯の光に照らされ、横殴りの雨が吹き付けているのは日本号にも見てとれた。長谷部は案外興味深そうに、じっと外の嵐を見つめている。別に長谷部だって、わざわざこんな日を選んで起きているわけではない。たまたま覚醒したら、こんな日だったというだけだ。 　長谷部は毎年、年始の展示期間となる一月の間は起きていて、それ以外はずっと寝ている。しかし眠りっぱなしというわけでもなく、こうしてたまに季節外れの覚醒をすることがあった。時期外れのみならず、妙な時間 帯に起き出してくることもままあるが、今日は出かける先もない真夜中でよかったと言うべきだろうか。覚醒の時間もそのときどきによるもので、数日ははっきりと覚醒していることもあれば、ほんの半日ほどぼうっと起きて、まもなく寝付いてしまうこともある。今回は一日程度だろうかとあたりをつける。短い逢瀬だ。 　せっかく起きてきたのだからと己の居場所に引っ張り込もうと声をかけるが、ううんとか、もう少し待てとか、気の無い返事ばかりだ。こうなったら長谷部の気が済むのを待つほかない。そばのベンチに腰掛けて、一緒に台風見物を決め込むことにした。 　台風にも、やたらと雷を伴うものと、そうではないものがあって、今回は前者だった。かっと床が照らされては、間髪入れずに激しく鞭打つような轟音が響く。長谷部は、雷と雨風を見つめている。ほのかに白んだ紫色の雷光が、眠気など微塵も残っていないすっきりとした面立ちを照らす。
June 7, 2025 at 2:03 PM
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ほんじつのきんじ、謙信景光だぞ。

きょうはおしごとをいっぱいがんばったごほうびで、光忠が「おこさまランチ」をつくってくれたんだ。

ふわふわのハンバーグとチキンライス！ごはんにはたがたっていると、とくべつなかんじがして、いつもよりおいしくかんじたんだ。ぼくはつよいこだから、トマトもぜんぶたべたぞ。がまんは、おとなへのだいいっぽだからね！

でも、小竜がいってたんだけど、ランチってひるごはんっていみだよね？よるたべてもランチでいいのかな…？あした、ほんをよんでべんきょうしてみようとおもう。

ふぁ〜、おなかいっぱいになったら、ねむくなっちゃった。それじゃあ、おやすみなさい。

#刀剣乱舞
April 23, 2025 at 11:45 AM
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東京遠征の思い出
小龍景光の倶利伽羅龍の下の刃文がほわほわしているのが可愛くて、初日の写真では光が反射してしまっていたのでよく見えるように撮ってきました
January 20, 2025 at 6:31 AM
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#性格抜きで顔好みな刀剣男士10振挙げろ

膝丸
一期一振
骨喰藤四郎
大倶利伽羅
水心子正秀
地蔵雪平
和泉守兼定
大千鳥十文字槍
小竜景光
泛塵

((ほ...本丸の皆んなすき))
November 6, 2024 at 1:09 PM
shimizuakila.bsky.social
にほへし朝ごはん本に収録予定の話、朝ごはんの時間に間に合わず残り物の白粥とマントウだけ食ってる長谷部 1/2
#にほへし小景
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Mehrnegar Dolatmand on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 おかゆ、むぎこ、たまご 　本丸における食事提供については、審神者研修でも数十時間をかけて講義と実習が行われる重要分野である。駆け出しの頃の頭数が少ないうちはともかく、数十人を超えたあたりから、適切に運用しなければあっという間に本丸を傾ける要因になりうるからだ。政府の福利厚生には、配食サービスや調理専門式神の運用サポートなど様々な支援策が揃えられている。安定した運営の本丸であれば、ある程度各自に仕事を割り振った方がいいと判断し、統括役として厨番を設けているところも多い。もちろん提供方法も様々で、大中小のサイズ差をつけてトレイ配膳する本丸もあれば、盛り付けはセルフとしている本丸もある。 　この本丸の朝食は、いわゆるビュッフェ形式を採用している。まだ暗いうちから起き出してくる者もいれば、食堂が片付けられるぎりぎりまで眠っている者、夜戦帰りや入れ替わりで遠征で出かけていく者まで、他の時間帯と比べても出入りがばらばらなので、盛り付けは各自に任せることにしたのだ。 だから人気のあるメニューは、基本的に早いもの勝ちであるし、出遅れるといつまでも残っているものを拾っていくしかない。ぼやぼやしていると、朝一で食べたはずの者たちが、道場帰りに立ち寄って残り物を根こそぎ食べ尽くしてしまう。 　長谷部はたいてい一番品揃えの良い時間帯に来て、出来立ての品をよりどりみどりの状態で選ぶことが多かった。男士によっては残り物にしかありついたことがないようなのもいて、うっかりうちの味噌汁のわかめは火が通り過ぎている、などと不満を述べるものだから、歌仙に君が早く起きたらいいんだとぴしゃりとやり込められている。 　だから今朝のように、ほとんど根こそぎ食い尽くされた朝食会場に来た試しがなく、しばし呆然とたたずむ羽目になったわけだ。誇張ではなく、本当に何もない。何名かは居残っているものの、ほとんどが食後のお茶を楽しんでいる程度だった。 　いつも通り朝食会場に向かおうとした道中で、桑名が助っ人を呼んでいたので 急ぎ駆けつけた。桑名が言う火急の用とは、牛のお産だった。この本丸では、趣味の範疇で乳牛も育てている。そのうちの一頭が初産かつ早産、おまけに逆子ということで、人の介入が必要となった。仔牛は無事に生まれ、血や羊水にまみれた桑名と長谷部が朝風呂を浴びたまでは良かった。 　しかし桑名の方は、すでに朝食を済ませていたのだった。長谷部ひとりが朝食会場に向かうと、めぼしい食事は見事に残っていなかった。鍋肌と底をこそげ取るようにしてどうにか茶碗一杯分かき集めた白粥と、冷めたマントウ二つきりをトレイの上に並べた。食堂用のでかい急須に、無精をして何度も差し湯をした薄い茶が添えられている。朝から母牛に噛まれたり足を踏まれたりしながら、仔牛の足を引っ張り続けて奮闘した身には、なんとも侘しい食事である。梅干し一粒、漬物一切れも残っていなかったので、凄まじいものである。 　白粥もマントウも何度か朝食の席で口にしたことはあったが、いずれもおかずになるものが潤沢にあった時である。色濃く煮しまった豚肉を挟んで食べたり、刻んだ高菜やザーサイと一緒に食べたらそれは当然旨いだろう。別に粥だってマ ントウだって、一つひとつはよくできているのだが、一働きした後の身の上には、いささか淡白がすぎる。 　卓上にある塩を粥にかけて食べると、はっきりとした塩味にありがたさすら感じられた。白粥にマントウをちぎり入れて塩をつけ、白以外の色味がない朝食をもそもそ食べていると、調理場から日本号が寄ってきた。今朝は厨番だからと、まだ暗いうちにのっそり寝床から抜けていくのを、目も開けずに手だけ布団から出して、送り出した記憶がおぼろげにある。 　日本号は、この時間帯におまえさんがいるのは珍しいなと寄ってきたものの、長谷部の白一色の食卓に視線が釘付けになっている。顔を見た時に、何かおかずになるものをせびろうかと長谷部も思いはしたものの、どうせもうしばらく経てば昼食の時間帯だ。個別対応を減らすためにこの朝食スタイルにしたのだから、不可抗力とはいえ、自分だけ特別扱いを求めるのも道理が通るまい。 　空腹をやり過ごすだけならば、もうこれで十分だろうと、白一色の朝食に諦観の構えである。日本号に手短に現状に至った背景を説明すれば、気の毒そうな表
October 19, 2024 at 12:39 PM
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「薔薇とビスケット」1/2
十月に出すにほへし朝飯本に収録予定の短編。京極ちゃん初めて書いたんですけど、彼の話し言葉とってもいいですね。
#にほへし小景
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Edward Howell on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　まだ暗い中、雪かき当番たちが続々と起き出しては厨に集結していた。火を落とした厨房はしんと冷えているが、集まる者が増えれば、多少外気よりは暖まってくる。 　特に集合を取り決めたわけでもないのだが、早朝の雪かき当番は皆起き抜けで腹が減っている。少しばかり早く集まった者たちで、何か簡単なものを口にするのが慣いになっていた。どうせ限界まで寝ていたいものは、直接外に出てくるので、頭数は数えない。 　早朝の雪かきが必要かどうかは、前日の夜に主が判断する。それから近侍が手早く準備する軽食なので、調理や片付けが必要なものにはしない。冷え込みの中、置きっぱなしにしておくので、冷えて油が浮いたり硬くなったりするようなものも避ける。 　貰い物のせんべい缶や、全員に配るには数が足りないまんじゅうなんかが置かれていることが多かった。バナナが一房と魚肉ソーセージの束がど んと置かれていたこともあるが、これは案外好評だった。個包装のインスタントスープや味噌汁が置かれていることもあるので、その時は早いもの順に好きな味を取って飲む。 　あとは好き好きにインスタントコーヒーを淹れたり、食堂用のでかい急須で温かいパック麦茶を出して、分け合って飲むくらいのものだ。 　さて本日、軽食を準備してくれたのは、京極家が秘蔵した宝物、どこに出しても恥じるところのない深窓の薔薇こと京極正宗である。徐々に集まってくる雪かき当番たちが見たものは、魔法瓶に詰められた熱く香り豊かな紅茶、添えられたジャムとはちみつの瓶、そして大振りのガラス瓶に詰められた、シンプルなビスケットだった。 　あまりにも京極正宗らしい選択に、一同感じ入ってしまい、少ないだの腹に溜まらないだのと不平を言うものはなく、佇まいを正して粛々と口にしている。 なお比較対象として、以前長谷部が準備しておいたものを書き記しておくと、期限切れの備蓄用ようかんと乾パンの缶詰の払い下げ、それに申し訳程度に添えられた、使いかけの梅昆布茶の粉である。 　完全に下げ渡しじゃないかと、当番たちからは不平不満がぶうぶう出た。役目を全うした品なのだから縁起物みたいなものだ、ありがたく食え、なんなら普段よりも高いようかんだ、などと、とても下げ渡されたことを嘆いていた刀とは思えないことを言い返していたものである。 　閑話休題、京極正宗が用意した軽食のうち、添えられていた瓶は、ばらの花びらのジャムだった。少し塩気のあるビスケットに乗せて食べる者が多い中、日本号は紅茶にひと匙落として飲んでいる。旨いのかと長谷部が近づくと、ふわりと甘いばらの香りがした。ほれ、と日本号は自分の紙コップを渡す。 　長谷部も素直に受け取って、ためらいなく一口飲んだまでは良かったが、 後が続かなかった。飲み込めなかったわけではないようだが、妙な顔をしている。お気に召さなかったらしい。 「すまん、返す」香りが得意ではなかった。そう言って、やたらと神妙な顔で紙コップを差し戻してきた。 　紅茶の香りと熱で、余計にばらの香りが強く感じられたのだろう。京極が提供してくれたジャムは上等なものだが、好き嫌いは別れそうな味ではある。いいさ、と鷹揚に笑って差し戻された紙コップを受け取った。 　長谷部は、まだ鼻腔にばらの残り香を感じるのか、ふんふんと落ち着かない様子で鼻を鳴らしているのが可笑しい。結局長谷部は、自分の紅茶にはちみつを落として飲んでいた。 　雪かき仕事が終わると、すでに朝食の準備は整っていた。雪かき当番の者たちが一番乗りだ。朝は早いし重労働だが、一仕事を終えた後の朝食は格別にうまい。
October 13, 2024 at 1:50 PM
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長谷部はおとなしく守られてるようなタマではないが、日本号が自分に回してる腕をひょいと退けて出ていき、用事を済ませ、また戻ってきて腕持ち上げて、自分の意志で元の定位置に収まる可愛げはある、という話
#にほへし小景
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Image by ぱんじ / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　日本号の腕が、長谷部に回されているのを見ると、ここの審神者はどうしても象とピーナッツを思い出してしまう。難解な比喩や古めかしい成句などではなく、ただのぼんやりとした連想の結果だ。 　あの腕は見たままの通り、たいそう重い。審神者は身を持って知っている。確か祝いの席で、全員いい塩梅に酒がまわった時のことだった。場の大半が気持ちよく上機嫌になり、そして普段よりもいささか支離滅裂になっていた。 　誰が言い出したものか覚えちゃいないが、なぜかそこかしこで円陣を組み始めたのだ。全員気のいい酔い方ではあるが、酔っ払いは酔っ払いである。円陣に理由などない。せいぜい、みんなでくっついて声を出すのが楽しかったから、が関の山だ。 　審神者もあちらこちらの輪に出たり入ったりして、もみくちゃにされながらわあわあ言った。いくつもの輪を巡って、どうもこのあたりは大柄な者たちが揃っているようだと思いながら混じり、はっと酔いが飛んだ。組まれた腕がおそろしく重かったからだ。 思わずたたらを踏み、それで少しばかり正気を取り戻した。隣にいたのは日本号だった。こちらも酔いの醒めた顔をしていた。すまんとか、重かったろとか、こちらを気遣う言葉をかけて、もう一度肩を組み直してくれた。 　二度目の腕は、ちっとも重くなかった。すぐに反対側にも誰かが割り込んできて、円陣は無事に組まれた。喧騒の後、心地よい疲労感と共に、あの腕の重さがやけに印象に残った。あれは他の男士と間違え、力加減をし損ねたのだろう。 　こんな腕一本でよろめくようなか弱い生き物と、よく一緒にいてくれるものだという感心と、それにしても二度目の腕は全く重くなかったので、よく力加減ができるものだという感心がいちどきに押し寄せる。象がピーナッツ一粒を、鼻先でつまみあげて食べるようなものではないか、とあらぬ想像まで浮かんでくる。昔、動物園で見たのだ。 　それで象とピーナッツである。なんのことやらである。おまけに長谷部には、ほとんど関係がないときた。男士同士であることだし、長谷部にとっては大した重さでもないのだろう。でかいクッションに埋もれながら寝ている日本号の腕が、 今も長谷部の腹にでんと乗っているが、彼は涼しい顔をしている。 　こちらの視線に気がついたようで、長谷部がぱっと顔を上げた。特に用があるわけではないが、おやつはあるので分けてやろうと手招きをする。殻付きの落花生を、短刀たちが日々せっせと折ってくれている紙箱にがらがらと入れて渡した。あの腕が重くないなんて、さすが刀剣男士は違うねえ、なんて軽口を叩きながら。すると、長谷部はきょとんとして言う。 「いや、重いですよ」 　主よりは苦痛の閾値が高いと思いますが、重いものは重いですよ。同じ太さの丸太くらいはあるんじゃないでしょうか。 　長谷部の率直な物言いに、少々面食らった。やっぱり重いんだ。ええ。こんな中身のない返答にも、長谷部は生真面目に頷いてくれる。落花生のお礼を深々として、長谷部は元いた場所に戻っていった。 　元いた場所というのは、当然日本号の腕の下である。わざわざ一度腕を持ち上げて、自分の腹の上に落ち着かせる。同じ太さの丸太くらいあるのではないかと いう、重量物だ。一度だけ体感した重さを思えば、体にも悪そうである。 　しかし、すっかり落ち着いた様子で、落花生の殻を剥き始めた長谷部を見ていたら、まあいいかと思ってしまった。象だって、ピーナッツみたいなちまちましたものを一粒ずつ貰うなんて、うっとうしいと鼻息で吹き飛ばしてもいいようなところを、それなりに納得して口にしているのかもしれない。 　腕を好き勝手に上下させられていた日本号が、ようやく起きたらしい。まだ長谷部の腹に腕を回してなついている。相変わらず涼しい顔をした長谷部が、剥いた落花生を日本号の口に押し込んでやるのが見えた。
April 17, 2024 at 8:52 AM
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長谷部の好みがまあまあわかる日本号くんと、結構生臭い話で盛り上がれる長谷部と日光さん
#にほへし小景
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / 梅つくし -NDLイメージバンク / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　おまえさん、あの中じゃあいつがいっとう好みだろう。 　混み合う展覧会会場で、偶然行き合った長谷部に背後から耳打ちした。日本号が指し示した先には、朴訥とした風情だが人によく親しまれ実用されてきた、ぽってりとした形の碗があった。すでに付喪神もついていると見えて、生真面目な様子でしゃんと座っている男が見える。 　じっと見入る来客がいると、嬉しそうに顔をほころばせていた。観客の中に、長谷部と日本号が紛れ込んでいると見るや、はにかんで深々と一礼をする。国宝らしく、長谷部は鷹揚に目礼で返して展示室を出た。 　部屋を出た瞬間、はしたない、と思い切り手の甲をつねられた。可愛げがある仕草だが、剣を握る男の指である。万力でぎりりとやられたように、涙が出るほど痛い。思わず声をあげそうになるのをこらえて、日本号は長谷部の手を引っぺがした。 　なまじ当ててしまったのが良くなかった。見当違いならば、余裕たっぷりに笑っているものだ。長いこと隣り合っていると、長谷部の好みもわかってきてし まって、どれがお気に入りか十のうち八は確実に当てられるようになった。 　所蔵元の博物館では特別展があるたびに、今回来たのはああだこうだと日光と長いことやり合っていた。日光も趣味がやかましくて、多少面相が良くても、声が悪いといつまでも耳につくからいやだとふてぶてしいことを平気で言う。日本号は悪酔いしそうなので、個室を持っている金印のところに逃げ込んでは、笑われたものだ。 　こうした下世話な話にめっぽう強いのは大般若で、下世話ではあるものの彼自身は結局は褒めるばかりになるので、あまりえぐみが無い。案外耳年増が多いのは寺院仏閣関係の者で、数珠丸などがあの少女のような顔立ちで、どろどろとした修羅場を朗らかに話すのを聞いた日には、いっぺんで酔いも吹き飛んだものだった。 　見学を終えたものから、ぽつぽつと集合場所に戻ってきた。階段前のホールからは、展示室のはじめと終わりがわずかに覗ける。戻ってきた加州が、好奇心に満ちた目で長谷部に近づいた。加州は、展示室内にちらりと見える上背のある偉 丈夫を指し示している。おそらくはまだ年若い武具の付喪だろう。華があり、ぱっと人目を惹く見目をしている。 「長谷部、ああいうの結構好きじゃない？」 　加州の視線がちらりと日本号の方に向く。加州はまだ、長谷部の好みを正確に理解してはいないのだ。長谷部の方も、悪くはないな、などと知った風な口を利くものだから、何か早合点した加州が楽しそうに笑う。 「日本号の方がいい男だって思ってるんでしょ」 　加州の可愛げが満ちた問いかけには、返事がなかった。なんだよ違うのかよ、と横耳を立てていた日本号が長谷部を小突く。長谷部はにんまりと笑ったまま、黙秘を続けている。加州の楽しげな笑い声が響いた。 　引率をしていた審神者が、集合の合図をかける。長谷部と日本号は連れ立って、向かっていく。
April 14, 2024 at 8:29 AM
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号さんの悪癖の話、しょうもねえ話です　1/3
#にほへし小景
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 悪癖 　無くて七癖あって四十八癖とはよく言ったもので、長谷部は己の連れ合いが、四十八癖ある方の人間だと思っている。 　号は黙って立っていたら、見るからに一癖も二癖もありそうな、油断ならない偉丈夫だが、躾はなっている。一度口を開けば、思いがけず気さくな物言いをして、人好きのする表情なども浮かべるものだから、外観で警戒していた人間は、たいていころっとやられるのだ。 　連れ合いとして横で見ている長谷部などは、他人を手玉に取る号の手腕に少々呆れているし、それにまんまとやられる周囲の人間にはもっと呆れている。手のひらで転がされている人間が、たまに長谷部に話しかけてくるのだ。なんの不足もないパートナーでしょう、羨ましい限りだ、と。 　社交辞令とは分かっているものの、うっかりすると、いやいやどこに目をつけているんですか、あれでいて悪癖が多々ありまして、などと続けた くなってしまう。さすがに長谷部も、初対面の相手には外面のいい社会人として、単に礼だけを穏便に返している。真っ先に思いつく悪癖は、他人に吹聴する内容ではない。 　まだ暴露しても笑い話になりそうな悪癖を数え上げていると、一仕事終えた号が戻ってくる。長谷部の前では、口元だけではなく、目元がふにゃりと柔らかく笑む。過不足は多々あるものの、いい連れ合いであることは間違いがないので否定はしない。 　長谷部の方が朝に強いので、たいてい号よりも先に起きる。前の晩にどれだけくたびれていても、一定の時間になれば自然と目が覚めるのだ。もちろん二度寝を決め込むときもあるのだが、とにかく朝には一度起きるものだと体が認識しているのだろう。 　だから、号の悪癖を誰よりもよく知っているのは長谷部である。小さく身じろぎをすると、いつも体に回されている号の腕もつられて動く。本人 は、重くはないかと度々気遣うが、すっかり慣れてしまった。いつもの定位置に置かれている彼の手もずり落ちる。 　腕の中から這い出る前に、定位置からずれた右手をつかんで、引っ張り出した。人のパンツの中に突っ込んで、下の毛を撫でていた、不埒な右手である。この日に限ったことではない。毎朝こうなっているので、長谷部は号の手を引っ張り出して、それでようやく寝床から這い出すのが日課になっている。 　初めて気がついた時には、こいつ寝たふりしていやがるのかと疑ったものだ。揶揄われているのか、それとも誘われているのかと疑いながらも手を避けたら、そのまま眠り続けていた。翌朝も同じ体勢だったので、同じように手を引き抜いて寝床を出た。しばらくそんなことを続けて、どうやら無意識での行動らしいと結論づけた。 　事後で全裸のまま寝入ってしまった場合は、まあ許容するとしても、着衣かつ睡眠のみの場合であっても、目覚めると、号は寝ながら下の毛を撫 でている。薄着をしている夏場のみならず、重ね着をしている冬であっても、どうあっても突破してくる。 　はじめのうちは驚いたり呆れたりしたものの、じきに長谷部は放置を決め込んだ。相手に悪気はないのだ。いびきや歯ぎしりのように、睡眠を妨害するような実害のあるものでもない。色気がある動きですらなく、布団に潜り込んできた猫を寝ぼけながら撫でているのに近い。 　長谷部だって、これが髪の毛とか背中くらいであったら、改善しようなどとははなから思いもしなかっただろう。それにゆっくりと下腹部を撫でられているのは、心地がいい。だから号本人にも言わないでいたのだ。寝ている時のふるまいを報告されても、相手だって困るだろう。 　面白いもので、号は起きる寸前になると、おもむろにすっと手を抜く。だから本人はよもや、睡眠中の自分がそんな悪癖を発揮しているとは露ほども思っちゃいない。 　号が睡眠中の己のふるまいを知ることになったのは、年末年始直前の繁
April 7, 2024 at 11:13 PM
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長谷部本体の皆焼で酒を飲んでいる日本号の話
#にほへし小景
風呂から戻った長谷部にも酒を勧めて、気持ちよく一杯二杯と干したところで、水を差された。よその宴席から帰った審神者が、土産があると言っているらしい。随伴していた秋田が、申し訳なさそうに長谷部に声をかけてきた。 　土産自体はありがたいものだが、どうにも間が悪い。今や本丸は、総勢百名を超える大所帯だ。そして、人の手で持ち帰れる土産の数には限りがある。そうなると、全員には行き渡らないこともしばしばだ。目についた者から、考えなしに渡していくと、前回も貰えなかった者が不満を申し立ててくる。 　それで審神者からの土産があるたびに、長谷部が几帳面に、前回分配された者たちを避けて、今回配るべき者たちを選んでいるのだった。もう夜も遅いので、分配自体は明日になるだろうが、一旦は土産を回収し、数と中身を検分しておく必要がある。 　自分らの主は気のいい人物だが、以前もしたたかに酔っ払って帰り、しばらく経ってから思い出した包みが、溶けかかったアイスクリームだった前科がある。すぐに行くと返事をしながら、長谷部は注がれたばかりの猪口をぐいと干した。 　慌ただしいなと渋い顔をして見せれば、戻るまでこっちと飲んでいろとひょいと手渡されるものがある。金霰と黒漆、朱色のコントラストが鮮やかな拵の、国宝へし切長谷 部そのものである。ほとんど空になっていた猪口は思わず捨て置いて、両手で恭しく受け取ってしまう。何か文句を言ってやろうと思った時には、足がある方の長谷部はとっくに廊下へ消えていた。 　別に初めて預かったわけではない。戦場では弾き飛ばされた得物を、受け止めることはおろか、投げ返してやったり、手の届くところまで蹴飛ばしてやることさえある。長谷部など、おもむろに壁に刀を立てかけて何をするのかと思えば、鍔を足掛かりにして高所に飛び移っていることがあるのだから、おっかなびっくり扱うようなものではない。 　頭ではそう思う一方で、日本号の体にはどうしても、黒田の御刀だという反射が染み付いている。戦場ではなりを潜めている反射行動が、ゆったりとくつろいでいる時にこそ、急に頭をもたげてくるのだ。 　しかしいつまでも刀掛けになっているのも惜しい。良い肴を置いていってくれた。鋒の方を床につけ、柄を片手で軽く押さえて、地面に垂直にした状態を保つ。そのへんに転がした猪口を、もう片方の手で探り当てて、酒を注ぎ直す。 　刀身が覗くように、柄を引っ張り上げると、鋼の色が濃く淡くにじんで華やかな、皆焼の刃が光る。槍の身には、鯉口を切る振る舞いなど備わってはいないが、眺めるのに は十分だ。切るために生まれたと言わんばかりの底光りを前にして、酒を飲む不埒を続ける。 　他にふたつとない華やかな刀身を肴にしていると、どんな安酒も姿勢を正して少しでもましなものになろうとするのか、それとも目以外の五感がばかになるのか、とにかく酒が旨くなる。 　いつだったか、長谷部と夜っぴて酒を飲んでいたら、どちらもつまみを補充しに行くのが面倒になった。口寂しくなった日本号が、長谷部に唇を寄せてみたものの、向こうはまだ飲み足りなかったのか、遠慮容赦なく顔面を押しやられた。 　そのときの日本号がよほど不満げだったのか、冗談半分で長谷部が刀を出してきたのだ。どちらも酔いどれていたに違いない。それで馬鹿正直に受け取って、刀身を肴にしてみたら、減りもせずいつまでも旨い酒が飲める、上等な肴になったわけだ。 　以来、酒席での冗談が、なんとなく慣いになってしまって、中座する長谷部がひょいと刀身を寄越してくる。あれも大した自信家で、己の刀身は、酒の肴として雪月花と遜色ないと疑いもしない。事実、こうして飽きもせずに連れ合いが眺めているのだから、疑う余地がないのだろう。 今回の土産は配分が楽なものだったのか、まもなく長谷部が戻ってきた。鞘から刀身を抜き切らずに飲んでいる様子を見て、何をやっているのかと呆れた顔をする。刀を返すと、長谷部は受け取った動きから、流れるようにすらりと抜刀してみせた。 　健やかささえ感じさせる立派な大鋒が、しらじらと光る。すべての動きがなめらかにつながり、一度も滞るところなく、ここがあるべき場所だとばかりに刀は鞘に収まる。長谷部からしてみたら模範演技のつもりかもしれないが、槍の身には荷が重い。 　刀ごと膝の上に引き取って、先ほど長谷部が放り出していった猪口を持たせる。再び注いでやれば、すいと一息で干した。投げ出された裸足の指先が、ぱたぱたと機嫌良さげに動いている。無精をして、視線だけをこちらに寄越すので、正確に意図を汲み取って注ぎ足してやる。ついでに日本号は、自分の猪口にも酒を満たした。いつまでも減りもしないありがたい肴を抱えて、うまい酒を飲んでいる。
April 3, 2024 at 2:35 PM
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お久しぶりのにほへし夫妻（長谷部が女子）、恥じらいのある年下夫はいいものだからよ……の結果です。5月の新刊用
#にほへし小景
体の造りが薄いのだろうなと思うことが、しばしばある。長谷部のことだ。 　薄いと言っても、別にか弱そうに見えるわけではない。ずっと運動部を続けていたし、今も気晴らしに走ったり、ジムに行ったりしている。平均以上には鍛えられている方だろう。 　先日立ち寄ったバッティングセンターでは、号が八十キロ周辺で遊んでいるのを尻目に、百二十キロを悠々とかっ飛ばしていた。感心した常連たちが、追加の球数をこぞって奢ろうとしてくる。気持ちは分かるが、キリがないので丁重に号の方からお断りした。身内の贔屓目を差し引いても、良いフォームと体幹をしているのだ。 　それでも、たとえばハイウェストのタイトスカートを履いているときなど、号はいまだにぎょっとする。長谷部はさんざん言われて、辟易とする言い回しだろうから直接は口にしないが、内臓が入っているのか心配になる薄さに見えるのだ。入っていないわけがないし、なんなら、しなやかな筋肉で覆われていて、案外みっしりと固く詰まっていることまで知っているのだが、それでも都度新鮮に驚 いてしまう。 　しかし体格など、ほとんど自分の好きにならないことは、号自身も身を持ってよくよく知っている。長谷部が自分の体格をどう思っているかは知らないが、しつこく言及するのもばかばかしい。驚いたことは内心にとどめて、素知らぬ顔をしている。しているのだが、言及せざるを得ない瞬間とは、不意打ちで食らわせられるものである。 「あっ、ブラ見えてたか、すまんすまん」 　ローテーブルに置いてあったリモコンを拾い上げ、空調の温度を調節し、その後に号の様子を見た長谷部は、ようやく自分の襟ぐりを抑えて、のんびりと謝った。 「へそまで見えましたけど」 　手で自分の視線を遮りながら、異議申し立てをする号は、思わず敬語で当てこすってしまう。 はは、そう遠慮せず。見られた方の長谷部も軽口で返してくるが、号は良くはない。 　長谷部は基本的に、きちんとした格好を楽だと感じる方だ。考えることが少なくていい、などと言っている。さすがに隣家の幼馴染とはいえ、号が高校生の頃までは長谷部も多少遠慮があったのかもしれない。だから、少なくとも結婚するまでは、号もこんな目には合わなかったのだ。 　今では長谷部も、実家以上に号の前で油断するようになった。基本的には号にとって望ましいことであるものの、時折衝撃を伴う。 　部屋着代わりにしている半袖のワンピースは、襟ぐりが若干大きく取られているのか、体勢によっては防御力がいちじるしく低下する。体格の厚みと相関関係があるのかは知らないが、長谷部本人も号も全く予想していなかった箇所まで、すとんと貫通して見えてしまうので困る。 　今のように、ローテーブルの物を取ろうと、横着して前屈みになろうものなら、布がどこにも引っかからず、中身が全部見えるのだ。それでも号は婉曲して、へ そまで見えた、に言い換えたが、より直裁的に言うならばパンツのゴムまで見えた、である。初めて眼前に食らったときは、思わず野太い声が出た。 　長谷部よりは神経の行き届いている夫は、自分の眼前に手をかざして、見ないように配慮する羽目になる。恐る恐る視線を戻すと、長谷部はようやく姿勢を戻して、愉快そうににんまり笑っていた。仁王立ちである。 　すいと指を伸ばして、号の耳をちょんとつまむ。 「さんざん中身なんて見てるだろうに」 　ほんの少し血色の良くなった耳を、見逃すことなく、指先でするりとなぞるので、年上の恋女房というものはタチが悪い。いつまでも耳を触られていると、血の気が降りてこない。そういうことではないんですよ、とかしこまった口調で返したが、圧倒的に号の分が悪かった。長谷部は愉快そうに、夫の耳を撫でている。
March 31, 2024 at 1:45 PM
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ブルースカイにもにほへしを植えるきつねだよ🦊🌱🌿🌳
福岡旅行で寄った博物館横の図書館がとても良かったので、長谷部を置きました。にほへしは最後だけほんのり。花はむくげではなくて、芙蓉だそうです。再録の時に直すね……
#にほへし小景
今日も目当ての席に先客はいなかった。見繕ってきた二冊を脇に起き、長谷部は図書館のベンチに腰かける。白漆喰の壁伝いに、背筋へじんわりと冷気が忍び寄ってくるが、集中して文字を追うには心地のいいものだった。 　長谷部が収蔵されている博物館の隣には、二階建ての大きな図書館が建っている。多くの書架と閲覧席が配置され、また窓に面した壁際にも、木のベンチがいくつも並んでいる。二階の閲覧席よりも奥まったスペースにあるベンチが、長谷部のいつもの席だ。 　窓が近く手元が明るいのはいいのだが、冬場は冷え込むせいか、あまり人気がない。机も無い、腰掛けるだけの席なので、何か調べ物をするのには不便なのだろう。気兼ねなく長居できるこの席を、長谷部は自分の居場所としていた。 　しばらく熱心に読み耽り、まず一冊を読み終えた。そのまま二冊目には手を出さず、どちらの本も持って席を離れる。冷えと集中で、背筋が強張った。一冊目を返却するついでに、書架の間を渉猟して巡る。新刊図書を見て周り、今月の特集棚をそれとなく眺めて歩く。 くまなく巡る最中、ある書架の前で足を止めた。棚に表記されている分類番号と、ラベルに印字された番号が大きく異なる本が一冊、紛れ込んでいる。取り出してみて、ぱらぱらとページをめくるが、内容もこの棚に置かれるべき本ではないことが分かる。ラベルの数字を確かめ、この本があるべき棚に向かう。 　本の背表紙には、分類のための番号が振られている。同じ棚には、一定の法則で順序立てた番号が並ぶ決まりになっているはずだが、時折まったく異なる番号の本が紛れ込んでいることがある。長谷部は、そうした迷子の本を見つけるたびに、あるべき棚に戻す。俺たちのしている仕事とは、畢竟このようなものかもしれないと思いながら。 　館内で行方不明になる本よりも、外で失われたり汚損される本の方が、ずっと多い。館の外に出てしまえば、長谷部の手にはどうにもならない。分類のための番号がふられていない本も、どうにもできない。場所を直したところで、今までもこれからも誰にも読まれない本かもしれない。そもそも長谷部が見落としている本だって、数多くあるはずだ。 それでも、確実にその本が定められた場所にある、ということが肝要なのだと長谷部は捉えている。長谷部が見落とした本も、この施設の職員ならばいつか見つけ出すだろう。きれいに欠けることなく並んでいることが大事なのではなく、いつ何時でも、誰もが手に取れるために、この並びは大事なのだ。長谷部はそう理解している。 　目当ての棚は一階にあった。本を差し戻し、出入り口そばのベンチ席に向かう。こちらも二階同様に、利用者がさほど多くない席だ。 　こちらの窓には、白むくげの花を意匠としたステンドグラスが嵌め込まれている。疲れてくると、少し立ち上がって離れ、むくげの花を見る。薄青い背景に、波打つような色の濃淡がある白い花が咲いている。真珠質の貝の内側と、よく似た色をしている。けして精巧な作りではないが、花を隠し持っているのだと思うと、少し嬉しい。 　二冊目を読み切り、書架に返す。本を持ち帰ることはできないものの、人とは異なる身の上だ。閉館時にあがりこんで、好きなだけ読み漁ることもできるだろ うが、長谷部はそうしたおこないをしたいとは思わなかった。 　ずっと窓辺で読み耽っていたので、いよいよ背筋がしんと冷えている。ふと思い出して、自分で首筋に手のひらを当ててみたが、どちらも同じだけ冷え切っていて、差異は感じられなかった。背を温めてくれる男はいつも、呆れ半分不満半分といった表情で、冷えてるのがわかるだろうと、長谷部のうなじを大きな手のひらで包むように温める。その手がいつも、わざわざ湯に浸けていたのかと思うほど温もっているので、こいつが用意周到なのか、己が尋常ではない冷え性なのか、不思議だったのだ。後者なのだろうかと首を傾げながら、長谷部は己のありかに戻る。
January 9, 2024 at 1:15 PM