お酒の失敗的な！

……もちろんうるさいが、嫌では無い。言えば帰るのなら許容できる範囲だ。実際のところ退屈している、病院のベッドではよく眠れない。慣れた家に帰ってよく眠りたい。
「早く元気になって店で飲んでほしいよ」
そう言って件のコーヒーショップの店長は差し入れを置いていった。店ではテイクアウトの扱いがないので特別対応だ。カフェインのないものなら医者から許可が出る程度に内臓は再生している。私は辛うじて動く左手を使いそれを飲みながら先日までの自由な日々を懐かしむ。
あの日は、雲の隙間から陽の光がさして美しいと感じる風の気持ち良い日だった。雨が多く降るこの街でそういった日は貴重だ。

面会謝絶が外れてから、それなりに見舞い客が来る。友人や現在と以前の仕事仲間たち、それと二度と見ることもないはずの懐かしい顔が会いに来たりもする。ふむ、個人情報が漏れているな、私がこんな目にあったことを誰ぞ吹聴している。何せ私は声もでなければ筆談すらままならない。人が来ても頷くことすらしない日もある。
検査、検査、可哀想な私を尻目に見舞い客だけで盛り上がるパーティー、検査、大盛り上がり、検査、検査。遠慮が無さすぎないか？舐められている気がする。馴染みのコーヒーショップで知り合った若いカップルが笑顔で言う。
「だって退屈なの嫌いでしょう？」
「うるさかったら言ってね、そしたらちゃんと帰るからさ」

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声が出なかったり、再生に時間がかかるのはそういう理由だとこの担当医から聞いた。ところで何を担当する医者なんだ？何も分からん。より詳細な説明を誰か別で聞いてるのか？吸血鬼の生態は謎が多い。どいつもこいつも病院になど用が無いからだ。クソッタレ。私だってそうだ。こうして大人しく繋がれているのは流行りにならい人道の観点から社会に貢献してやるためだ。高い入院費を払って吸血鬼の神秘に触れさせてやるわけだ、説明だとか脱走が面倒だからでは決して無い。とは言えそもそもこんな所に来なくてもいつかは復活できたのだから、全く大きなお世話というもの。

長く生きていれば不運な日もある。その日は風の気持ち良い日だった。私は街の港の端にある放置され廃墟となったビルで瓦礫に潰されて倒れていたという。何をしていたかと言えば写真を撮っていたそうだ。全く仕事熱心で頭が下がる。私の専門はブライダルフォトのはずだが、まぁ色々試していたのだろう。あまり覚えていない。「あなた上半身潰されてて生存を諦められてたんですけど、潰れた端がわずかですが再生していくのを気づいた人がいてね、それで搬送されたんですよ、いやぁ吸血鬼って本当にすごいですねぇ」なんでも脳がほとんど潰されてからの再生であったからか、端々に影響が出ているらしい。